28:ダンス・スタート!
さあ、行くぞ!
ダンス・スタート――!!
『♪つないだ手と手 キラリきらめいて
こぼれた願い 空にとけてゆく』
全身を包むリズムに合わせて、両手を前に差し出す。
次は、身体を右にかたむけて、左肘を上げながら右手を伸ばす。
私の右手と、雪村くんの左手が触れそうになるほど近づいた。
これは雪村くんが提案してくれた、左右対称の動き!
『♪ピンチの時こそ 笑顔でいこうよ
あきらめないキモチが 魔法になるから』
雪村くんと背中合わせになって後ろへ下がり、手を広げる。
ターンを決めて向かい合い、雪村くんと同時に親指を立てる。
親指を立てるポーズは、アニメの主人公のアクアちゃんがよくやるポーズ!
『♪変身・マジカル・ドレスアップ!』
――ここが、ひとつめの見せ場!
軸がぶれないように注意しながら、くるくるっと回転。
私は右手を、雪村くんは左手を上げて、ふたりで同時に決めポーズ!
イルカちゃんとオルカくんの変身シーンみたいに、ばっちり決まったっ!!
『♪カラフルリボンの 勇気をぎゅっと』
リズムに合わせて、胸の前で手をクロス。
雪村くんと心をひとつにして、息もぴったり!
『♪ほらね キミがそばにいれば
怖いものなんてない!』
腰をひねって、手足を軽やかに動かす。
早い動きだけど、雑にやっちゃダメ!
腕の角度、足の動かしかた、手の開きかた。
指の一本一本まできちんと意識しなさいって、美弦ちゃんに何度も言われたもんね!
だいじょうぶ、ちゃんと覚えてるよ!
『♪きらきら・ミラクル・レボリューション
勇気を出して 新しい扉を開こう!』
軽いステップで弧を描くようにしながら、雪村くんとお互いの位置を入れ替える。
『♪世界に はじける キセキのチカラ』
両手を上げて、足を前に踏み出す。
雪村くんの動きもビシッと決まってる。
『夢も涙もぜんぶ抱きしめて 明日へジャンプ!』
ふたり同時に床を蹴って、ジャンプ!
空気がいっしゅん、ふわっと軽くなった気がして、胸の奥が熱くなる。
『♪迷いさえ 飛びこえて きずなをつないで』
曲に合わせて力強くステップを踏みながら、私たちは背中合わせになった。
『♪私たちの物語は 光の中で いま始まる』
私は立ったまま、雪村くんは床に片膝をついて、戦闘後の勝利ポーズ!
五秒くらい待ってから、私たちはようやくポーズを解いた。
ビデオカメラに向き直って、笑顔で両手をぶんぶん振る。
見てくれた人へのアピールと、感謝の気持ちを込めて!
やがて、曲が終わった。
「――はいっ。二人とも、お疲れさまでした~!!」
美弦ちゃんはビデオカメラを止めて、盛大な拍手を送ってくれた。
「どうだった?」
「うまくできてた?」
私と雪村くんは、ほとんど同時にたずねた。
ダンス練習が終わったら、美弦ちゃんに感想を聞くのがお約束になってたから、もう身体にしみついちゃってるんだよね。
「あははっ。そんなに心配しなくても大丈夫だって! バッチリだったよ! もうこれで投稿しちゃっていいんじゃないかな? 見てみて」
美弦ちゃんはビデオカメラを持って歩いてきた。
私たちは床に座って、ビデオカメラの映像をチェックした。
「……うん。ちゃんと踊れてる。すごい。これ、本当に私? キレッキレなんだけど……」
映像の中で軽やかに動き回る自分は、まるで別人みたいだ。
雪村くんは、私よりも上手!
「そりゃあもう。私がビシバシ厳しく指導しましたから!」
美弦ちゃんは、えへんと胸を張った。
「ありがとう、美弦ちゃん」
感情が高ぶって、私は美弦ちゃんを抱きしめた。
ダンスの練習を始めたときは、不安でいっぱいだった。
私は運動音痴だから、雪村くんの足を引っ張っちゃうんじゃないかって。
踊ろうって自分から言い出したくせに、全然踊れなかったら雪村くんに嫌われちゃうんじゃないかって。
不安で、怖くて、毎日必死で練習した。
その努力はむだじゃなかった。
動画の中で踊る私が、最高の笑顔を見せる私が、なによりの証拠だ。
「こんなに上手に踊れるようになるとは思わなかった。これも全部、先生役を引き受けてくれた美弦ちゃんのおかげだよ。本当に、ありがとう」
涙がボロボロこぼれて、止まらない。
「おれもお礼を言わせてほしい。なんの得にもならないのに、一か月近く練習に付き合ってくれて、本当に……本当に、ありがとう」
雪村くんは頭を下げた。
「お礼はもういいって。二人が本気だったから、私も本気でこたえただけ。この一か月、ほんとによく頑張ったね、ひよりん」
美弦ちゃんは優しい声で言って、私の背中を軽く叩いた。
「うん……ありがとう」
私は手の甲で何度も目をぬぐって、グズグズと鼻を鳴らしながら身体を離した。
「それで、どうする? まだ時間はあるけど、あと何回か踊る? それとも、これでいっちゃう?」
「おれはこれでいいと思う。でも、花崎さんがまだ踊りたいなら付き合うよ」
巻き戻した映像を見ながら、雪村くんが言った。
「ううん、だいじょうぶ。私も、これ以上のダンスはできないと思うから。これで終わりでいいよ」
「わかった。ところで、二人とも、動画編集できるの? このままデータ渡していいわけ?」
「………」
私は無言で美弦ちゃんの目を見つめた。
雪村くんも、美弦ちゃんをじっと見ている。
「……私が編集してあげようか?」
仕方ないなあ、という顔で、美弦ちゃんは苦笑した。
「「お願いします」」
私と雪村くんはピッタリ同じタイミングで言って、深く頭を下げた。




