27:変身魔法をかけられて
木曜日の放課後。
更衣室で着替えた私は、鏡に映る自分の姿に見とれていた。
オレンジ色のリボンを結んでツーサイドアップにした、長いアクアブルーのウィッグ。
何枚もフリルを重ねたアクアブルーのスカート。
上着の胸元にはリボンがついていて、リボンの真ん中でハートの宝石が輝いてる。
服の袖はふんわり膨らんでて、袖口にはアクアブルーのリボンが結ばれていた。
雪村くんが作ってくれたなんて信じられないくらい、完成度が高い。
衣装代にかかったお金を見たときは、お母さんもお父さんも「こんなにかかったの!?」って驚いてた。
でも、実際に完成した衣装を見たら「このクオリティなら仕方ないな」って納得した。
だって、お店で売ってるコスプレ衣装より、はるかに立派だもんね。
くるっと一回転すると、長い髪と一緒にフリルのついたスカートがふわっと広がって――すっごく素敵!
「は~、すごいなぁ。大好きなイルカちゃんの衣装を着られるなんて、夢みたい……」
うっとりしてから、ハッとする。
「って、浮かれてばかりもいられないよね。これからが本番なんだから」
私は鏡から離れて、更衣室の扉の前に立った。
緊張のせいか、目の前の扉が、別世界へ続く扉のように感じる。
――すう、はあ。
扉の前で立ち止まり、大きく深呼吸したあとで。
――よし、行くぞ!
私は勇気を出して、目の前の扉を開けた。
廊下を進んで、ダンスレッスン室の扉を開けると、雪村くんと美弦ちゃんが待っていた。
「お~。ひよりん、イルカコスプレ似合うじゃん! ちょ〜可愛い!」
設置したビデオカメラの横で、美弦ちゃんが拍手してくれた。
「ありがとう。なんか、照れるね」
私は頬をかいてから、オルカくんのコスプレをしている雪村くんを見た。
頭にかぶっているのは、ディープブルーのウィッグ。
下はディープブルーのハーフパンツ。
上着の袖は私と同じように膨らんでて、袖口にはディープブルーのリボン。
胸元のリボンの真ん中では、スペードの形の宝石が輝いてる。
うわあ、すごい!!
雪村くんは格好良いから、本当に、オルカくんが現実にあらわれたみたい!!
「雪村くん、格好良い!! よく似合ってる!!」
私は興奮して駆け寄り、変身した雪村くんの姿をまじまじと見つめた。
「あ、ありがとう……」
ちょっと目をそらした雪村くんの顔は、ほんのり赤くなってる。
「花崎さんも……その、よく似合ってる。可愛いよ。嘘じゃない」
「えへへ、そう? ありがとう。雪村くんって、本当にすごいねえ。この服、私にピッタリだよ! 手を伸ばしたりしても、きつくないし! 動きやすい!!」
私は腕を大きく回したり、その場でジャンプしてみせた。
「良かった。動きやすいようにゴムを入れたり、なるべく伸び縮みする生地を選んだんだ。大変だったけど、作るのは楽しかったよ」
雪村くんは小さく笑った。
雪村くんの笑顔を見て、私のテンションは最高潮!
「よーしっ! 雪村くんのおかげで、変身魔法もばっちりかかったし! 練習の成果を発揮できるように、お互い頑張ろうね!!」
「うん」
私が胸の前で拳を作ると、雪村くんも拳を出してくれた。
こつん、と音を立てて、ふたりの拳が軽く触れ合う。
「なんだか、決戦前の主人公になった気分だね」
雪村くんが、また笑った。
「そうだよ! 私たち、いまからダンスの主人公になるの!」
私は大きくうなずいてから、美弦ちゃんが用意してくれているビデオカメラの前に立った。
雪村くんも並んで私の隣に立つ。
これで、踊る準備は整った。
ドクン。ドクン。ドクン――
心臓が強く脈打ち始める。
私は胸に手を当てて目を閉じ、自分に言い聞かせた。
落ち着け、落ち着け、だいじょうぶ。
あれだけ何度も練習したんだから、本番でもちゃんと踊れるはずだ。
ふと思い出したのは、入学式のときのこと。
あのとき、私は挨拶文を忘れて、壇上で泣きそうになってた。
でも、いまは一人じゃない。
隣に雪村くんがいるから、きっとだいじょうぶ!!
私は閉じていた目を開けて、まっすぐに前を見つめた。
「二人とも、準備オーケー?」
スマホを右手に持って、美弦ちゃんが確認してきた。
「うん!」
「オーケー」
私の隣で、雪村くんもうなずいた。
でも、雪村くんの顔は少しだけこわばってる。
私の心臓も、まだドキドキうるさいままだ。
私たちの緊張を見抜いたらしく、美弦ちゃんは手を振った。
「失敗してもだいじょうぶだから。タイムリミットの18時になるまでは何回でも踊れるから、緊張しないで。難しいことは考えない! とにかく気軽に、全力で楽しむこと!!」
「はい」
「はい、先生!!」
私たちの返事が重なった。
雪村くんの肩から力が抜けて、顔のこわばりが消える。
私も意識して笑顔を作り、唇の両端を持ち上げた。
壁一面に貼られたピカピカの鏡に映る自分も、笑ってる。
「よし、良い笑顔! 二人とも、その調子でね! じゃあ、スリーカウントでいくよ! 3・2・1――」
美弦ちゃんがスマホをいじると、部屋のコーナーにある4つのスピーカーから『マジカル☆レボリューション』が流れ始めた。




