25:それでも、変えたくなかった理由
「――はいっ、おしまい。多分、ひよりんがやりたかったのはこんな感じでしょ?」
最後のポーズまでバッチリ決めたあと、美弦ちゃんは上げていた両手を下ろした。
たった一回踊っただけで、へとへとになった私と違って、息一つ乱れてない。
あと10回連続で踊っても平気って感じだ。
「うん。美弦ちゃん、すごいよ。ほんとに……ほんとに上手だった!」
もはや悔しいという感情すら出てこなくて、私は大きな拍手を送った。
雪村くんも美弦ちゃんのダンスに圧倒されたらしく、無言で拍手してる。
「どうもどうも。じゃあ、二人に質問。いまのダンス、見ててどう思った? 変身ポーズも決めポーズもあって、盛りだくさんの振りつけだったけど。楽しかった?」
美弦ちゃんはしゃべりながら、その場に座った。
「いや、本当に上手だとは思ったけど……」
雪村くんは言いづらそうな顔をして、口ごもった。
「えんりょしなくていいよ。正直な感想をどーぞ」
美弦ちゃんは右手で拳を作り、マイクのようにして雪村くんに近づけた。
「……じゃあ、正直に言わせてもらうけど。楽しくはなかった。一つ一つの動きが早すぎて、見てて疲れた」
「私もそう思った。せっかくの変身ポーズも、すぐ次の動きに入っちゃうから、流されちゃって、印象に残らない」
「そのとーり! この振りつけはズバリ、つめ込みすぎ! こんなに激しく動いたら、踊る私も疲れるわ!!」
美弦ちゃんは大きくうなずいてから、ツッコミを入れるように、バシッと地面を叩いた。
「まあね? やりたいことをやりたい二人の気持ちはわかるんだよ? この振りつけいいよねー、あーこれもいいわーって感じで、かたっぱしから採用しまくったんでしょ? でもね、つめ込みすぎたら、踊るほうも見てるほうも疲れるの」
美弦ちゃんはうつむいて、自分のスマホをいじった。
美弦ちゃんが見ているのは、まほアクの公式チャンネルで公開されている、子ども向けの簡単なダンス動画だ。
「そんなに激しく腕や足を振り回さなくてもいいの。ただ曲に合わせて腕を振るだけでも、魅力的に見せることはできるんだよ。ひよりん、またスマホ借りるね」
「どうぞ。自由に触っていいよ」
「ありがと」
美弦ちゃんは私のスマホをいじった。
スピーカーから再び『マジカル☆レボリューション』が流れ出すのと同時に、美弦ちゃんは立ち上がって踊り始めた。
曲に合わせてステップを踏んで、ジャンプ。
両手を広げて、くるっと回る。
手を叩いて、またステップを踏む。その繰り返し。
一つ一つは小さな子どもでもできるような、簡単な動きだ。
それなのに、美弦ちゃんのダンスは、目が離せなくなるほど綺麗。
それはきっと、足のつま先から手の指の一本一本まで、きちんと意識しながら踊っているから。
綺麗かどうかなんて意識する余裕もなく、ただ踊るだけで必死だった私のダンスとは、大違いだ。
「…………」
美弦ちゃんのダンスを見て、私と雪村くんは顔を見合わせた。
私がうなずくと、雪村くんも何も言わずにうなずいた。
雪村くんも、このままの振りつけじゃダメだって、思い知ったみたい。
「はい、おしまい。こんな簡単な振りつけじゃ、見てて退屈だった?」
踊り終わって、美弦ちゃんは再びその場に腰を下ろした。
「そんなことない。さっきのダンスより、気持ちに余裕を持って、最後まで楽しく見てられたよ」
「北園さん。おれたちと一緒に、新しい振りつけを考えてほしい」
雪村くんは真剣な表情で美弦ちゃんを見つめた。
「もちろん。そのために、私がいるんだから」
美弦ちゃんは、二ッと笑ってから、首をかしげた。
「てかさ。二人とも、実際に踊ってみて難しいと思わなかったの? 練習してて『こりゃ無理だわ~』ってならなかったのが不思議なんだけど」
「それは……思ったんだけど」
私はチラッと雪村くんを見た。
雪村くんも私を見て、それから、また美弦ちゃんを見て言った。
「おれも、思ったけど。せっかく二人で決めたから、変えたいって言えなくて……」
「……私も」
私も、雪村くんと全く同じだ。
二人で動画を見ながら振りつけを決めたあの時間は、本当に楽しかったから。
やっぱり変えたい、なんて、言い出せなかった。
「…………」
美弦ちゃんは、気まずそうにうつむいている雪村くんと、ひざを抱えている私を交互に見て。
「あははっ。なるほど、そういうことかぁ。青春だねえ」
なんだか楽しそうに、けらけら笑った。




