23:ダンスの先生がほしい
金曜の夜。
入浴を終えた私は、パジャマ姿でベッドにごろんと寝転がった。
スマホの画面をつけると、表示された時刻は『21:21』。
「お、ゾロ目だ」
なんか、いいことありそう。
私は小さく笑って、『バーチャル・ドール』を開いた。
今日は『カワラブ同盟』の投稿がまだだから、投稿しておかないと。
毎日投稿しなきゃいけないってルールはないんだけど、もはや日課になってる。
明日が土曜日だからか、広場は大賑わいだった。
カフェスペースは満席で、おそろいの服を着たグループが楽しそうに笑っている。
星の浮かぶ夜空では、羽の生えたアバターたちがキラキラ輝く光のエフェクトを雨のように降らせていた。
ライブステージは今日も大盛況。
スポットライトを浴びた美少年アバターたちと一緒に、ファンのみんなが踊ってる。
画面の右下に表示されているオープンチャットは、ものすごい勢いで流れていた。
「あ。芽衣ちゃんも、聖華ちゃんもログインしてる」
フレンド欄の名前リストの横に表示されたマークの色で、その子がログインしてるかどうかわかるんだ。
二人に声をかけるよりも先に、私はSNSの画面を開いた。
今日投稿したのは、おばあちゃんからもらったお菓子の箱の写真。
メルヘンチックなリスの絵が描かれてて、すっごく可愛いの。
『カワラブ同盟』のタグをつけて、投稿完了っと!
それから私は、『カワラブ同盟』のキーワードを検索した。
今日の『カワラブ同盟』の投稿数は13件。
全ての投稿をチェックしながら、私はメッセージの右下の星マークを押して、星ギフトを贈った。
「雪村くんが今日投稿したのはれもんの写真か。衣装作りやダンス練習で忙しいんだろうな」
雪村くんの投稿にも星ギフトを贈ったときだった。
『やっほ~日和。学校ぶり~』
芽衣ちゃんから個別チャットがきた。
『聖華と話してたんだけどさ。ひまだったら、日和もあたしの部屋に来ない?』
『行くー!』
返信してから、私は芽衣ちゃん――『海月』の部屋に飛んだ。
海月の部屋は海の中のようなデザインだった。
壁一面が水槽になっていて、色鮮やかな魚たちが泳いでいる。
水色の髪にオレンジ色の目をした海月は、その名前の通り、くらげをモチーフにした服を着ていた。
ちなみに、私のサクラはアクアブルーを基本としたイルカちゃんの衣装を着ている。
『魔法少女キューティーアクア』とのコラボ期間中は、ユーザー全員に魔法少女たちの衣装が配られてるんだ。
せっかくだから、着なきゃ損だよねってことで!
『日和さん。こんばんは』
聖華ちゃんのアバター『紅雪』は、長い黒髪に赤い目をした美少女だ。
綺麗な蝶の模様が入った着物を着て、頭には大きな花のかんざしをつけていた。
『こんばんは。二人でなんの話してたの?』
『体育祭の話をしていました。体育は苦手なのに、実行委員になってしまったことを嘆いていたところです』
五桜学園では、五月末に体育祭がある。
聖華ちゃんはジャンケンで負けてしまい、実行委員になったのだった。
『苦手っていっても、私ほどじゃないでしょ』
『そうですね』
『何もないところで転んじゃう日和に比べたらね』
『フォローしてよ!?』
ツッコむと、二人はクマが大笑いしてるスタンプを返してきた。
芽衣ちゃんなんて、二連打だ。
くうっ、意地悪!
『通話しちゃダメ? 文字打つの面倒』
『あたしはいいけど、聖華はダメなんだよね?』
『すみません。家族に聞き耳を立てられてしまいますので、私は無理です』
『じゃあ、このままチャットで話そう』
『すみません。ところで日和さん、ダンスの練習は順調ですか?』
芽衣ちゃんと聖華ちゃんは、私と雪村くんがダンスの練習をしてることを知ってる。
目的がまほアクのアクキーだって知っても笑わずに、応援してくれてるんだ。
『うーん。振りつけは覚えたんだけどね。手と足の動きがバラバラになったり、曲とタイミングがズレるんだ。踊ってる自分の姿をスマホで撮って、確認したりしてるんだけど。どうすればいいのかわからなくて。ここが違うとか、もっとこうしたほうがいいよって、教えてくれる先生がいたらな~』
毎日一生懸命練習してるのに、どうしても曲に合わないのが、悔しい。
このままじゃ、雪村くんの足を引っ張っちゃう。
火曜日の放課後は、雪村くんと一緒に踊ることになってるのに。
私の下手っぷりを見て、「やっぱりもっと上手い人と踊る」なんて言われたら、どうしよう。
そんなことになったら、ショックで立ち直れないかも……。
「…………」
想像だけで大ダメージを受けた私は、うつぶせに寝転がった。
スマホを握って、そのまま動かずにいると。
ピコッていう音がして、聖華ちゃんから新しいメッセージが届いた。
『美弦さんに先生役を頼んでみてはどうでしょう? 美弦さんは幼い頃からダンスを習っていたので、とても上手ですよ。ダンス部に入ったばかりなのに、もう選抜メンバー候補になっているようですし』
『そっか、美弦ちゃんがいたんだ! ありがとう、頼んでみる!』
やっと悩みの出口が見えた気がして、私は大喜びでメッセージを返した。




