21:私だけ、のトクベツ感
昼休み。
お弁当を食べ終わって芽衣ちゃんとおしゃべりしていると、雪村くんがやってきた。
「邪魔してごめん。花崎さん。ちょっと付き合ってもらえないかな」
「? わかった。あとでね、芽衣ちゃん」
「行ってら―」
手を振る芽衣ちゃんに見送られて、私は雪村くんと一緒に教室を出た。
「どうしたの、雪村くん」
「花崎さんの衣装も、おれが作ることになっただろ。それはいいんだけど、おれ、花崎さんの服のサイズを知らないから。同じ手芸部の折原さんに頼んで、サイズを測ってもらおうと思ったんだ。やっぱり、男子に測られるのは嫌じゃない?」
「……うん」
雪村くんに測ってもらうのは、たしかに、抵抗がある。
嫌っていうわけじゃないんだけど……単純に、恥ずかしい!
「だと思った。折原さんは家庭科室で待ってるから」
雪村くんは渡り廊下を通って、特別校舎に入っていく。
特別校舎には職員室や事務室、理科室などの特別教室がある。
そして、二階には二つの家庭科室があった。
一つは料理実習用の部屋で、一つは被服室。
雪村くんが私を連れて行ったのは、被服室のほう。
放課後は手芸部の部室になる部屋だ。
「折原さん。花崎さんを連れてきたよ」
雪村くんは開きっぱなしだった扉から中に入った。
家庭科室には作業台がずらりと並び、ピカピカのミシンが整列していた。
壁際には棚がずっと続いていて、プラスチックの引き出しの中にはカラフルな布やボタンがぎゅうぎゅうに詰まってる。
作りかけの服を着たマネキンたちが、部屋の隅っこで静かに立っていた。
「はーい」
入口近くでスマホをいじっていた折原さんは立ち上がった。
作業台の上に置いてあったメジャーをつかんで、近づいてくる。
「ここにいてもやることないだろうし、雪村くんは先に戻ってていいよ。あとでラインするね」
「ありがとう。よろしく」
雪村くんは折原さんにお礼を言って、家庭科室を出て行った。
「それじゃ、始めよっか。手を上げて」
「はい」
扉が閉まる音を聞きながら、私は両手を上げた。
折原さんは慣れた手つきで、メジャーを私の身体に沿わせていく。
「雪村くんとまほアクの曲、踊るんだってね」
「うん。抽選で当たるアクキーがほしくて、二人で挑戦することにしたの」
「意外だわー。雪村くんって、おとなしいキャラじゃん? 黙ってチクチク裁縫してる姿はもう見慣れちゃったけどさ。笑顔でダンスしてる姿とか、想像つかないわ」
折原さんはメジャーで測った数値をスマホにメモしながら言った。
「私もダメ元で誘ったの。そしたら、そこまで嫌そうじゃなかったから。やろうってゴリ押ししちゃった」
「ゴリ押しでもなんでも、あのクールな雪村くんに『踊る』って決意させたのがすごいよ。やっぱり、花崎さんが誘ったからだろうね。他の子が誘ったら、間違いなく断ってたと思う」
折原さんは、さらっとそう言ったけれど。
「…………えっ?」
私は驚いて、固まってしまった。
「なんで驚くの。絶対そうでしょ。気づいてないの? 雪村くんと仲良くなりたくて、色んな女子が声をかけてるけど。雪村くんが自分から積極的に話しかける女子って、花崎さんだけなんだよ?」
「…………」
言われてみれば、本当にそうだ。
雪村くんが他の女子と話す姿って、あんまり見たことない。
気づいた瞬間、ボッと、火をつけたように顔が熱くなった。
いや、別に、雪村くんは私のことを好きとかじゃなくて。
ただ、友達として話しかけてるだけなんだろうけど。
それでも、『私だけ』って思うと、胸の奥がくすぐったくなる。
「顔真っ赤~」
折原さんはニヤニヤ笑ってる。
「そそ、そんなことないよっ」
私は熱くなった頬を押さえて、それだけ言うのがせいいっぱいだった。




