20:助け合おう
「そんなことしたら、お母さんにもお父さんにも怒られちゃう! かかったお金はちゃんと払うよ! だいじょうぶ、お母さんたちには『友達と一緒にコスプレ衣装を作りたい』って言ってある! お金出してくれることになってるから!」
「そう? 別にいいのに……」
「良くないっ! お金の問題は、ちゃんとしなきゃダメ! たとえ友達でも、トラブルのもとになるの!」
私がにらむと、雪村くんは目をパチクリしてから、苦笑した。
「わかった。自分の衣装代は自分で払うってことで。じゃあ、衣装も頑張って自分で作るの?」
「……それは……その。できれば、お願いしたいです……」
私は蚊の鳴くような声で言ってうつむき、お腹の前で手をもじもじさせた。
「不器用な私が作ったら、布がむだになっちゃいそうだし……それに、雪村くんは絶対、プロレベルの綺麗な衣装を作るでしょ? そんな雪村くんと、ボロボロの衣装を着て一緒に踊りたくない……」
「ボロボロって」
その一言で私の裁縫レベルを察したらしく、雪村くんはおかしそうに笑った。
「わかった。衣装作りはおれがやるよ」
「……ごめんなさい……よろしくお願いします……」
私は頭を下げてから、急いで顔を上げた。
「もちろん、まかせっきりにするつもりはないから! 手伝えることがあれば、手伝うから! なんでも言ってね!」
「いいって。言っただろ? 裁縫は好きなんだよ。まほアクの衣装を作るなんて、楽しみ。フリルとかリボンとかも、こだわりたいし」
雪村くんは微笑んでいる。
無理をしてるわけじゃなく、本当に楽しみなんだとわかって、私はホッとした。
「ありがとう! もしアクキーが当たったら、絶対あげるからね!!」
「うん、ありがとう。あのアクキーが手に入るなら、衣装作りなんて大したことじゃないよ。必要な布とかはおれが買いに行くから、後でお金払ってくれる?」
「えっ。買い物まで、まかせちゃっていいの?」
「いいよ。一人でじっくり選びたいし」
「……そう」
一人でじっくり選びたいなら、逆に、私がついていくほうが迷惑になっちゃうかな。
荷物持ちなら、雪村くんの家のお手伝いさんがしてくれそうだし……ついていかなくても、だいじょうぶかも?
考えて、私はうなずいた。
「わかった。じゃあ、お願いするね。あ、ちゃんとレシート見せてね。ちゃんと、きっちり、かかった分のお金、払わせてね!」
「わかったってば」
雪村くんが笑ったときだった。
「――あれ? それって、まほアクのダンス動画じゃね?」
声が聞こえて、私と雪村くんは右手を見た。
教室の後方から歩いてきたのは、右手にカバンを持った鈴本くんだった。
どうやら、たったいま登校してきたばかりみたいだ。
「そうだけど……」
さっきまで笑っていた雪村くんの表情が、警戒するように強張った。
もしかしたら、からかわれた辛い過去を思い出したのかもしれない。
「なんでそんなの見てんの? まさか、踊る気じゃねえよな~」
なんだか馬鹿にしたような言い方だったから、カチンときた。
「――踊る気だったら悪いの?」
気づいたら、そんな言葉が口から飛び出していた。
私の頭の中は、雪村くんを守らなきゃ!! という思いでいっぱいだった。
「私たち、まほアクのファンだから。一緒に踊るつもり。悪い?」
「……いや、悪くはねーけど……」
いつもはおとなしい私が強く出たから、鈴本くんは戸惑ってるみたいだ。
「じゃあ、放っといてくれないかな。私たちはやりたいことをやってるだけなの。だれにも文句は言わせない!」
私がにらみつけると、鈴本くんは気まずそうに、口をもごもごさせた。
「……ごめん。馬鹿にするようなこと言って、悪かったよ」
ギリギリ聞き取れるくらいの小さな声でそう言って、鈴本くんは自分の席へ向かった。
……あれ?
てっきり、反撃が来るとばかり思って、身構えていたのに。
私は拍子抜けしたような気分で、遠ざかっていく鈴本くんの背中を見つめた。
……そういえば。
四月のオリエンテーションのときも、鈴本くんは雪村くんの顔が赤いのを見て、心配してた。
ちょっとからかおうとしてきただけで、根は悪い人じゃないのかも?
私、強く言い過ぎたかな……?
「……花崎さん。ありがとう、言い返してくれて」
雪村くんの声が聞こえて、私は鈴本くんから雪村くんに視線を戻した。
「ううん。言いたいことを言っただけだよ。でも……ちょっと過剰反応しすぎたかも。あとで謝っとくよ」
「うん。おれも、それがいいと思う。ごめん。守ってもらって」
雪村くんは眉をハの字にして、申し訳なさそうな顔をしている。
「気にしなくていいよ。友達なんだから、困ったときはお互いに助け合っていこうよ」
私がそう言うと、雪村くんは驚いたような顔をして。
それから、ふっと頬を緩めて笑った。
「そうだね。助け合おう」




