02:ドキドキの入学式
入学式当日。
五桜学園に向かう車の中。
超有名デザイナーがデザインしたという可愛いブレザーの制服に身を包んだ私は、後部座席から春の景色を眺めていた。
今年は桜が咲くのが早かった。
だから、公園の桜は満開を通り越して、もう散り始めている。
新入生代表挨拶の始まりの文章も、それに合わせて変えたんだよね。
「まさか日和が新入生代表に選ばれるなんてねえ。お母さん、誇らしいわあ」
その声を聞いて、私は車内に目を向けた。
助手席のお母さんはニコニコしている。
娘の晴れ舞台だからか、お母さんはいつも以上に気合を入れて、おめかししていた。
「もー。何回言うの、それ。聞き飽きたってば。耳にタコができちゃうよ!」
「何回言ってもいいじゃない。嬉しいんだもの」
そんな話をしている間に、五桜学園の前に着いた。
……着いちゃった。
私はドキドキしながら、車から降りた。
「じゃあ、お父さんたちは近くのコインパーキングに車をとめてくるから。また後でな」
運転席の窓を少しだけ下げて、お父さんがそう言った。
お父さんはストライプのネクタイを締め、スーツを着ている。
お父さんも準備ばっちり、気合十分! って感じだ。
「うん、また後でね」
私は車を見送って、学校に向き直った。
立派な校門の横には『祝 五桜学園中学校 入学式』という看板がある。
その向こうには桜並木があり、立派な校舎が建っていた。
五桜学園は百年以上の歴史を誇る中高一貫の名門校だ。
教室は冷暖房完備で、最新式の設備が揃ってる。
歩きながら見回してみると、登校中の生徒たちは個性豊かだった。
右手にいる女の子は髪にリボンを結ってるし、男の子は珍しい髪型をしている。
この学校では、服装規定があってないようなもの。
髪にシュシュやリボンをつけても許されるし、よほど派手な染髪をしない限り、先生に注意されることもないんだって。
芽衣ちゃんは、制服の可愛さと、校則の緩さで進学を決めたらしい。
ひらひら。
ピンク色の花びらが舞う中を、他の新入生たちと一緒に歩く。
この中の何人かは、私と同じクラスになるのかな。
五桜学園って、政治家や芸能人の子どもとかも通ってるんだよね。
もしかして、ここにいるみんな、お金持ちとか、有名人の子どもなのかな?
芽衣ちゃんも実は社長令嬢だったりするし。
……みんなすごい人ばっかりで、私、浮いてる?
いや、そんなことないよね?
不安になって、私はアニメのキーホルダーを下げた学校カバンの持ち手を強く握った。
――神様仏様!
どうか、どーかっ、私と芽衣ちゃんを同じクラスにしてくださいっ!!
祈りながら歩いていると、校舎の前に人が集まっていた。
行ってみたら、クラス分けの張り紙があった。
立ち止まっている新入生に混じって、『花崎日和』という名前を探す。
私は一年一組だった。
芽衣ちゃんも同じ一組だ!!
やったー!!
人前じゃなければ、私は飛び跳ねていたと思う。
ちゃんと友達できるかな、グループに入れるかなって不安だったけど。
芽衣ちゃんがいるなら安心だ。
教室で一人ぼっちにならなくて済む!!
喜んでいると、近くにいた女子たちが驚いたような顔で右手を見た。
何だろう?
つられて右手を見れば、ものすごく綺麗な男の子が歩いてくる。
うらやましいくらいにサラサラな髪。
長いまつ毛に守られた目。すっと通った鼻筋。
ブレザーはゆったりしたサイズで、袖から指先がちょっとだけ出ている。
春風に吹かれて揺れる髪は、太陽の光を浴びてキラキラ輝いていた。
――うわあ、格好良い……もしかして、芸能人だったりするのかな?
「ねえねえ、あの子格好良くない?」
「アイドルかな?」
女子たちのヒソヒソ声が聞こえる。
美少年は私の横で立ち止まり、クラス分けの張り紙を見上げた。
友達と同じクラスになれたのか、彼は安心したように、ほんの少しだけ頬をゆるめた。
それからすぐに表情を消して、足のつま先を校舎に向けた。
女子たちがきゃあきゃあ騒いでいても、熱い視線を注がれていても、完全に無視して歩いていく。
クールな子だなあって、思ってると。
「ひよりー! おはよう!」
ぽんっと肩を叩かれて、私は振り返った。
そこにいたのは、友達の月岡芽衣ちゃん。
ポニーテイルにした髪。
パッチリした大きな瞳に、桃色の唇。
中1の女子にしては身長が高くて、手足がすらっと伸びてる。
「おはよう、芽衣ちゃん。私たち、同じ1組だよ!」
「やったー、日和がいるんならボッチにならなくて済むわ! これから一年間よろしくねー!」
芽衣ちゃんはカバンを腕に引っ掛けて、自分の両手のひらを私に向けた。
ハイタッチの構えだ。
「こちらこそ!」
私は笑い返して、芽衣ちゃんとハイタッチ。
ぱーんっ、と弾けた音と感触が、とても気持ち良い。
「日和、コンタクトにしたんだ?」
「うん。思い切って、イメチェンしてみた」
「いいと思う。可愛いよ! じゃあ教室行こうか。えーと、三階ね」
校舎案内図を見て、芽衣ちゃんが歩き出す。
芽衣ちゃんはしっかり者だから、私はついていくだけで良い。
「どう? 入学式代表挨拶は大丈夫そう?」
芽衣ちゃんはニヤッと笑った。
「……大丈夫じゃないかも。朝からずーっと、胃がシクシクしてるの……」
私は前かがみになり、お腹をさすった。
「え? 大丈夫? 保健室に行く?」
芽衣ちゃんはオロオロして、私の背中を摩ってくれた。
「吐きそうだけど大丈夫……せっかく新入生代表挨拶に選ばれたんだもん。頑張るよ。お父さんにもお母さんにも、練習の成果を見せたいんだ。私が壇上に上がらなかったら、絶対がっかりするだろうし」
「そりゃあそうだろうけどさ。それより体調優先でしょ。マジでヤバかったら先生に言いなよ?」
「うん。心配してくれてありがとう。カンペも作ったし、頑張る!」
私は胸の前で拳を握った。




