19:それはダメ
月曜日の朝。
雪村くんと約束したから、私はいつもより三十分早く登校した。
教室に入ると、雪村くんは自分の席でスマホを見ていた。
スマホの画面に表示されているのは、まほアクの公式チャンネルで公開中のダンス動画だ。
まほアクの公式チャンネルには、2種類のダンス動画がある。
一つは、子ども向けの簡単な振りつけ。
もう一つは、動きが多くて難しい、ちょっと本格派なダンス。
雪村くんが見てるのは、もちろん難しい方だ。
「…………」
真剣な顔で動画を見ている雪村くんを見て、私は唇をきゅっと結んだ。
学校では、まほアクの話題は絶対に出さないようにしてたのに。
教室で動画を見てるってことは、本当に、ファンだと明かすつもりなんだ……。
雪村くんの本気が伝わってきて、私も覚悟を決めた。
頑張って、完ぺきなダンスを踊ってみせる!!
「雪村くん。おはよう」
挨拶すると、雪村くんがこっちを見た。
「おはよう。それじゃ早速、打ち合わせしようか。ダンスはどっちのパターンでいく? おれは②のほうがいいと思うんだけど」
雪村くんはダンス動画を表示したまま、机に置いた。
「私も②がいい」
①は飛んだり跳ねたり、同じパターンの繰り返しで、本当に小さな子ども向けなんだよね。
「わかった。じゃあ、これをベースにして、色々アレンジしていこう」
「うん」
雪村くんのスマホでは、アニメのスタッフさんらしき男女がペアで踊っているけれど、全く同じように踊らなくても大丈夫だ。
動画の説明欄にも、『これは参考用動画だから、この通りに踊らなくても大丈夫! みんなで自由に踊ってね!』って書いてるしね。
「おれはオルカのコスプレするつもりだけど、花崎さんは誰のコスプレする?」
「あれっ。アクアちゃんのコスプレじゃないんだ?」
アクアちゃんのコスプレした雪村くんが見られるかも!? って、ちょっぴり期待してたんだけどな。
「うん。おれはフリルとか好きだけど、見てるとテンション上がるっていうだけで、実際に着たいってわけじゃないから。可愛いドレスを着て楽しむのは、バーチャルの世界だけでじゅうぶん」
「そっか、わかった。私は一番好きなイルカちゃんにするよ。イルカちゃんとオルカくんだったら、お揃いのコーデになって、一緒に踊っても映えると思うし!」
「わかった。衣装はどうしよう? 自分で作るって言ってたけど、花崎さんは裁縫、得意なの?」
「……ううん……苦手……」
私は目を逸らした。
お裁縫なんて、小学校の家庭科の授業でしかやってない。
絶対、雪村くんのほうが上手に決まってる。
『バーチャル・ドール』のSNSにあげてたあみぐるみの写真も、プロみたいなレベルだったし。
『これ本当に手作り!?』『すごすぎる!』って、コメントや星ギフもいっぱい来てたよ。
「じゃあ、花崎さんの分の衣装も、おれが作るよ」
「えっ? いいの?」
「いいよ。裁縫好きだし。材料費もおれが出すから気にしないで」
「いやいやいやいや!! それはダメ!!」
私は首を振って、力いっぱい否定した。
雪村くんのおじいさんは『雪村総合医院』の院長で、雪村くんのご両親は二人ともお医者さんだって聞いた。
広い庭つきの大きな家には、お手伝いさんもいるんだって。
雪村くんの家は私の家より、はるかにお金持ちだ。
でも、だからってお金を出してもらうのは、絶対違う!!




