18:キミと一緒に踊りたい
「悪者あつかいされてもいいよ。他人が何を言ってもいいから、アクキーがほしい。アクキーを雪村くんにプレゼントしたいの」
「……なんで?」
「入学式に助けてもらったお礼がまだだから。どうせなら、雪村くんがいま一番ほしいものをプレゼントしたいの。この前、サクラとれもんのダンス動画がバズったでしょ? バーチャルで踊るのも楽しいけど、現実で雪村くんと一緒に踊るのは、もっと楽しいんじゃないかなって思ったの」
雪村くんは何も言わない。
不安になって、私は言葉を重ねた。
「アニメに興味ないってことにしてもいいよ。それでも、だめかな?」
「………」
十秒経っても、三十秒経っても、雪村くんは何も言わないまま。
やっぱり、だめなのかな……。
祈るような気持ちで、私は雪村くんの返事を待った。
「……ちょっと、考えさせてほしい」
一分くらい経って、やっと雪村くんはそう言った。
「……うん。わかった」
「電話、切るね」
「うん。またね」
電話が切れて、私はスマホを置いた。
それから、枕を抱きしめて、ベッドに寝転がる。
雪村くん、なにか考え込んでたみたいだったな。
やっぱり、踊ろうなんて言うんじゃなかったかな。
アクキー可愛いねーで、終わらせるべきだったかな。
どうしよう。
調子に乗って、グイグイいきすぎたかも。
踊ろうなんて言って、嫌われたかな……。
頭の中は、ぐちゃぐちゃだ。
「踊ろうなんて、言わなきゃ良かった……」
私は枕に顔を埋めた。
どれくらい、そうしていただろう。
だんだん息が苦しくなってきて、私は枕を横に退けた。
ベッドに仰向けに寝転がって、ただ、ぼうっと天井を見上げる。
部屋は静まり返っていて、外を走る車の音だけが遠くに聞こえた。
「……現実でも、一緒に踊ってみたかったんだけどなあ……」
呟いてから、私は起き上がった。
スマホを手に取り、ラインの画面を開く。
さっきは、変なこと言ってごめん。
雪村くんは踊ってでもアクキーがほしいなんて、一言も言ってないのに。
一人で勝手に盛り上がってごめんって、雪村くんに謝ろう。
決意して、文字を打ち始めたときだった。
――シュポンッ。
そんな音と一緒に、ラインの画面が上に動いて。
雪村くんから、メッセージが届いた。
『さっきの話だけど。おれと踊りたいって言ってくれてありがとう。おれも、花崎さんと一緒に踊りたい。でも、花崎さんに言われたから、仕方なく、なんて、たとえ嘘でも言いたくない。もう隠すのはやめる。誰かに聞かれたら、まほアクのファンだってちゃんと言うよ。だから、おれと一緒に踊ってくれない?』
ラインの画面を開いていたから、すぐに『既読』の二文字がついた。
だから、雪村くんは私がメッセージを読んだと気づいて、返信を待ってるはず。
「…………」
でも、私はなかなか返信できなかった。
指が震える。
喉の奥がきゅっとなって、視界がにじむ。
――雪村くんは、まほアクのファンだってことを打ち明けるって言ってくれた。
ただ、私と一緒に踊るために。
からかわれて傷ついたことがあるのに、それでも、勇気を出してくれたんだ。
「……私のせいにしていいのに。本当に、真面目だよね」
雪村くんは朝、教室で会ったら挨拶してくれる。
『バーチャル・ドール』でも、毎日欠かさず『カワラブ同盟』のタグをつけて投稿してくれていた。
だから、今日はどんな投稿してるかなって、『バーチャル・ドール』で雪村くんのSNSをチェックするのが楽しみになってるんだよね。
私は濡れた目元を指で拭って、微笑みながら文字を打ち込んだ。
『もちろん。嬉しいよ、よろしくね』




