01:私が新入生代表!?
「れもん、聞いて聞いて! 私、入学前のテストで一番だったみたいなんだ! それで今日、中学の新入生代表挨拶をしてくれないかって先生に言われたの!」
その日、私は大慌てで『バーチャル・ドール』にログインしていた。
『バーチャル・ドール』っていうのは、いまティーンの間で大流行しているアプリ。
自分の分身になるアバターを作って、オリジナルの服やインテリアを作ったり、友達と通話やチャットができるんだ。
『バーチャル・ドール』にはたくさんの人が集まる『広場』と呼ばれる場所と、自分の部屋の『ルーム』がある。
私が『ルーム』で話す相手は大体決まってる。
友達の月岡芽衣ちゃんが作った『海月』か、一年前に『バーチャル・ドール』内で知り合った『れもん』。
れもんは長い金髪をツインテールにしていて、緑の目に、花柄のワンピースを着てる。
ツインテールについたレモンの髪飾りがトレードマーク。
れもんはゲーム内のファッションコンテストで準優勝したことがあって、胸にキラキラ輝くバッジをつけている。
あれはファッションコンテストの入賞者だけに与えられる、超レアバッジ!
すっご~く、うらやましいっ!
「わあ、一番なんて、すご~い! サクラって頭良いんだね~!」
れもんはアニメの女の子みたいな可愛い声でそう言って、笑顔で拍手してくれた。
『笑顔』の表情ボタンと、『拍手』モーションボタンを押したら、こんなふうに、アバターを動かすことができるんだよ。
「えへへ。ありがと!」
私は『照れ笑い』の表情ボタンを押した。
私のアバター『サクラ』が、スマホ画面の中で頭を掻いて、照れ笑いを浮かべる。
今日のサクラはウェディングドレスみたいな純白のドレスを着てる。
身体のあちこちを花とフリルで飾りつけ、背中に天使の羽根を生やしたピンク髪の美少女アバター。
それがサクラだ。
現実の私――花崎日和はセミロングの髪に、地味な黒縁メガネ。
ハッキリ言って、全然『美少女』じゃない。
でも、バーチャルの中では夢を見たっていいよね。
盛らなきゃ損、ってやつ!
「でも、引き受けるかどうか、迷ってるんだ。みんなの前で話すのって緊張するし。スピーチって苦手なんだよね……」
「私、スピーチが得意で~す! っていう子のほうが珍しいと思うよ~? 新入生代表挨拶なんて、なかなかできることじゃないよ~! せっかく1位になれたんだから、やりなよ~! きっと一生の思い出になるよ~?」
「私もそう思うけど……自信ないよ……」
うう、と唸って、私はスマホを握ったまま学習机に突っ伏した。
『バーチャル・ドール』のサクラの『ルーム』は、くまのぬいぐるみや星の飾りが天井から垂れ下がった、ファンシーな部屋。
でも、現実の私の部屋は、ごく普通。
くまのぬいぐるみや派手な飾りもない。
「テストで一番だったんだよ~? この中で私が一番! すごいでしょ! って、壇上でドヤ顔してやりなよ~! ビシッと一発、すごい挨拶して、みんなを感激させようよ~! 勇気出して~! 私も応援するからさ~!」
「……本当? 応援してくれる?」
私はむくっと起き上がり、スマホに表示されているれもんを見つめた。
「もちろんだよ~! 挨拶の文章は考えたの~?」
「ううん、まだ。引き受けるかどうか悩んでたし……」
「ねえ、サクラ」
れもんは落ち着いた声のトーンで言った。
「『悩む』ってことは、心のどこかに『やりたい』っていう気持ちがあるんじゃない? 本当に嫌なら、迷わず断ってる。違う?」
いつもの、どこかのんびりした口調と違う、真面目なれもんの声。
――違う?
その問いかけは、私の心にストンと入ってきた。
「……。ううん。違わない」
悩むのは、心のどこかに『やりたい』って気持ちがあるからだ。
親友の芽衣ちゃんと同じ五桜学園に行きたくて、私は必死に勉強した。
テストで一番だったっていう連絡を受けたとき、お父さんもお母さんも大喜びしてくれた。
お姉ちゃんやおじいちゃん、それに親戚のおばさんたち。
色んな人から褒められて、私も嬉しかったし、自分を誇らしく思えた。
「……怖いし、緊張するけど、やりたいよ。私が一番だったって、胸を張って、みんなの前で挨拶したいよ……!!」
どうしてだろう。
お父さんにもお母さんにも言えなかった素直な気持ちを、れもんには言えた。
れもんが現実では関係ない、ネットだけの友達だからかな?
「じゃあ、やるしかないでしょ~! いますぐ先生に電話して、やるって言いなよ~! 私と一緒に挨拶の文章考えて、いっぱい練習しようよ~!」
いつもの口調に戻って、れもんはそう言った。
「えっ。練習相手になってくれるの?」
「もちろん! 応援するって言ったでしょ~?」
れもんはパチン、とウィンクした。
「……ありがとう! わかった、頑張ってみる!!」
「その意気その意気! 頑張れ~! ファイト、お~!!」
「おー!!」
スマホの中で、サクラはれもんと一緒に、高く拳を上げた。




