個人的考察3
心当たりなし、ですよね。
まあ、本人も名前を店主さんに言ったことはないそうですし、当たり前です。
彼は例の「白手」に襲われ、死にかけたそうです。
つまり、20日が本当の最後の目撃証言ですね。
そこに偶然、誰かが「白手」を瞬時に討伐し回収した…らしいです。意識が朦朧としていたので、本人は幻覚だと解釈していたそうですが、自らの記憶と生きているという現実から、幻覚ではないと悟ったそうです。
…これは私の勝手な妄想ですが、おそらく店主さんが明さんを間一髪で助けたのでしょう。救急車を呼んだのも店主さんで間違いありません。他にめぼしい人がいませんからね。
その証拠に、2009年の8月23日のお祭りの合言葉「白」は、言うまでもなくその証拠でしょう。見た目からつけた安直な名前かもしれませんが、それでも、考察には十分です。
これら全てを踏まえ、私は店主さんが「怪異の肉を提供していた」という絶対にありえないことをしていたのだと考察しているのです。
…まあ、胡散臭いですよね。私は名探偵ではないので、いくつか間違った推理もあるかもしれません。
だから、戯言だと思って聞いてください。
常連の方々、少なくとも62名が突然死や変死を起こしています。
それも、風呂場で突然体が黒くなって死んだり、頭から紫陽花が飛び出している状態で死んでいたり、紫色の血を全身から噴き出して死んでいる人もいます。
ですが、この人数は私の手の届く範囲内で調べられたものです。ほんの一部に過ぎない…もっと、詳細に年代を遡って調べれば、偶然店に立ち寄った人達も含めれば、一体何人の犠牲者がいるのでしょう。きっと、数えきれません。
幸いなことに、体が拒絶して助かった敏感な方もいるようですが、大半は気づかず食べているのが現実でしょう。
保健所は、死因がバラバラなこと、店に数カ月通えていない人も死んでいること、同時多発的に起きているわけではないこと、指定の細菌が検出されなかったことなどから、証拠不十分で動けていませんでした。その前に、店も無くなりましたしね。
有田邦弘さんは知っていますか?あの人も、つい先日亡くなったそうです。
まるで数カ月放置されていたかのように、全身が腐った状態で布団で発見されたそうです。
吉崎君と阿部先輩はまだ無事ですが、 渡辺さんは昔とは比べ物にならないほどひどくやつれ、モデル並みの体つきはもうどこにもありません。
高橋教授は年々足を悪くしていき、こないだお会いした時には、もう両足で立てなくなっていました。車イスですよ。もう誰かの一定の補助がないと、昔みたいな日常が送れなくなってしまったんです。
かく言う私も、変なんです。
昨年、親から「表情が死んでいる」と言われました。
自覚はありませんでしたが、よくよく考えてみると、確かに大学を卒業してからどうにも笑った覚えがないのです。
いえ、泣いた覚えも、怒った覚えも、楽しんだ覚えも全く記憶にありません。
どうやら私は現在進行形で体を蝕まれているようです。
そうですよね。怪異を体に取り込むなんて、危険性の塊そのものだ。
何が起こっても不思議じゃない。
幸い命はありますが、いつ急に死んでもおかしくはないですね。
花さん。どうして店主さんはこんなことをしたんですか?
ここまでして料理を出したかったのですか?
常識的に考えて、私は信じられませんよ。
あんなに素晴らしい方だったじゃないですか、あんなに多くの学生やお客さんに好かれていたじゃないですか。
料理の腕だって確かなものでした。バイトだった私にたくさんの賄いをくれましたし、大学の心配だってしてくれました。「根を詰め過ぎるなよ」「お前が倒れたらこっちも大変なんだから、健康第一で過ごせよ」って。
あんな善性の持ち主がどうして。
…まあ、あなたに言っても仕方がありませんよね。
もう、この世に店主さんは居られないのですから。一生、その理由を聞くことはできません。
ですが、どうしても言いたいことはあるので、大変恐縮ですが、店主さんのお墓の場所を教えてもらえませんか?
嫌でしたら勿論もう関わろうとは…そうですか。ありがとうございます。
いえいえ、ただの私の想いをぶちまけるだけですよ。お墓参りです。礼儀作法に則りますので、ご安心ください。
長々と本当に申し訳ありません。ご不快になれたのでしたら、もう私に会わなくて結構です。こちらからも干渉は致しませんので。
それでは、またのご機会に…
って、ん?花さん、それウーロンですか?
え?間違えたって…嗚呼、私がウーロン飲んじゃってたんですね。すみません。取り違いでしょうか。
全然分からなかったですよ。苦みを感じなかったので。
あっ、そうだ。大助君とのご連絡についてなんですが……
……んん?あれ?
大助君って…誰でしたっけ?




