個人的考察1
……お久しぶりです。花さん。本日はお時間を作っていただきありがとうございます
いえいえ、お互い忙しかったのですから仕方ありません。むしろ、こちらが感謝したいくらいです。
ああ、すみません店員さん。アイスコーヒーとウーロン茶を一杯ずつください。
…ウーロンお好きでしたよね?じゃあ、大丈夫ですね。
お水?零しませんよ。もう、あんなミスはしないと決めているので。
では、始めましょう。
さて、もう改めて名乗る必要もないとは思いますが、念のためです。
万羅大学文学部国文学科卒、広瀬 大地こと、ダイです。あなたのお孫さんである大助君の親友です。
入学式後のちょっとした和食パーティーでお孫さんとは知り合いました。
名前が似ているのと、「高校生のときのあだ名が一緒じゃん」と話が偶然盛り上がり、大助君とはすぐに打ち解けましたよ。はい、あなたのお孫さんはゴリゴリのコミュ力お化けの方でもありましたので。
って、これは随分前にも話しましたよね。確か私があなたの店でアルバイトをしていたときに話しました。
ええ、大変お世話になりました。私のような暗い人間を雇ってくださったのは、「どうかいじょう」しかありませんでしたので。
…おっと、話が長くなってしまいましたね。では、本題に入りましょう。もちろん、「どうかいじょう」についてです。私の考えが合っているのかどうか、それを確信にするべく今日は来たのです。
ただ、その話をする前に、この地域についての説明がどうしても必要です。長引くかもしれませんが、どうか最後までお聞きください。
まず、調べてみたところ、昔、この地域は呪われた土地、忌み地だったらしいんですよ。この地域に伝わる民話は知っていますよね?この地域の有名な「オオヤマ」です。オオヤマサマとも言われていますね。大学の怪談・噂御三家にも取り上げられた有名なお話です。
次にこれを見てください。
これは大学の歴史資料の一部です。特別な許可を得て撮影、印刷していただきました。この文書は江戸時代の古文書の一つ「万羅家文書」です。これには、伝承とほぼ同じ記述が残されています。ですが、ここに書かれていない要素として、「オオヤマサマ」は祟り神でありながら、同時に鎮守神でもあったことが調査で分かりました。
実際、ここに住んでいる地域の方々の多くが、大学近くのあの山を…「オオヤマサマ」を信仰しています。その方々によると、「オオヤマサマ」は他の妖怪を退ける役目を持っていると口承で伝えられているそうです。地元のおじいさんやおばあさんたちが快く協力してくださいました。
そして、その効力を高める一環として、江戸時代の真ん中からお札を貼ったり、祠を置いたりしていたそうです。理由は今となっては分かりませんが、当時の日本は神仏習合の教えなどもあって、ごちゃまぜの状態だったので、文句は言えません。そもそも、どうしてそんな教えや方法が行われたのかを示す資料自体が残っていない場合はとても多いのです。
あとは死者の霊を封じ込めているとか、祖霊…ご先祖様の幽霊がいる場所とも伝わっているそうです。
さてさて、本題はここからです。伝承によると、その「オオヤマサマ」の力を適度に効力を高めると同時に、別の場所からの妖怪や怪異を追い払う性質を持っていたと推測されるのが、例の事件で破壊されたあの祠だったそうです。もっとも、他の場所にもいくつか祠は配置されていましたが、大学近くにはあの祠しかありません。
つまり、あの祠は大学や街の一部を守護してくださる存在でもあったわけです。
ただ、ここまでは市も把握できていなかったようですね。
実は、破壊されたのは大学近くだけではありません。
今や忘れ去られた古い祠まですべて含めると、この市にある壊された祠の総数は、6か所あったんです。この足で直接行ったので、間違いはないでしょう。
大学近くのあの祠は、認知が他より断然高かったから取り上げられたにすぎなかったんです。本当はもっと多くの被害があった…
幸いなことに大学近くのあの祠はすぐに新しく作られ、今に至るまで裏門におられます。他の祠も今回の私の調査でいくつか再建されるそうです。それでも一部の効力は消えてしまっていた。
…この例の事件の犯人。
それはズバリ、大助君です。
「どうかいじょう」に飾られていた記念写真。
大助君がパルクール大会で優勝したときの、思い出の写真です。
そんな彼の腕力、脚力ならば、ハンマーのようなものでも持っていれば、破壊行為は十分可能でしょう。
そして、それを命じたのは、「どうかいじょう」の店主さん。
大助君の祖父、篤長さん。
花さん、あなたの最愛の夫ですよ。
なぜ、分かるか…ですか。
本人の自供です。大助君が拙くも懸命に話してくださいましたよ。
祠の場所や行動に至るまで、隅々まで。
本人は、
「大好きな祖父に言われて犯してしまった自分の罪である」と。
彼自身は本来、とても善性な心をお持ちです。ずっと胸の中で罪悪感が封じられていたのでしょう。涙ながらに語ってくださいました。聞いているこちらが辛かったですよ。
なぜ、そんな真似を篤長さんが、あの店主がお願いしたのでしょうか?
あなたなら分かるはずですよ。花さん。
いやもう、単刀直入に言っちゃいましょう。
定食屋「どうかいじょう」は、過去六十年以上もの間に化け物の…いえ、怪異のお肉をお客さんたちに提供していたんでしょう?




