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WEB投稿企画:実怖談 短編部門「洋食」


これは、私が中学生だったときのお話です。


私の近所には、いくつかのお店があります。

駄菓子屋、肉屋、八百屋、魚屋…そして、その中に定食屋さんがありました。

いつもお客さんで大勢賑わっていて、なかなか機会にありつけなかったのですが、ある日穴場の時間があることに気づいて、その時間帯にお店に入ったのです。


前々から噂には聞いていたので、食べてみたいなと思っていたお店でしたから、すごくうれしかったのを覚えています。


いかにも老舗の店!という感じの気配がする店内で、いくつかの写真やサインが飾ってありました。

私はおかみさんに連れられてカウンターの席に着くと、大好きなハンバーグの定食を頼みました。ソースはデミグラスソースを選びました。


ほどなくしておいしい香りが漂ってきて、注文した定食が私の目の前に置かれました。

王道の洋食ハンバーグでした。

刻まれたキャベツとミニトマトが添えられ、フライドポテトが7本ほどに、主役のハンバーグが堂々と降臨していました。

大盛りのライスとジャガイモの味噌汁、たくあんも付いていて、とても豊かなラインナップでした。


すぐに私は箸でハンバーグを一部切り取り、口に運びました。

それは極上の味でした。口いっぱいに広がる肉汁、たっぷりのデミグラスソース、わずかに感じるたまねぎの触感。こんなにおいしいハンバーグがあったのかと、私は驚愕しました。


キャベツとミニトマトは新鮮でおいしく、フライドポテトも熱々でうま味があり、ソースに付けても絶品でした。


味は濃かったので米もどんどん進みましたし、味噌汁も大変体に染みわたり、あっという間に飲み干しました。たくあんも一瞬で消えました。

結果的に、10分もかからず私は定食を食べ終えました。


すると、厨房にいた店主さんが、私に無言で大盛りのナポリタンを出してきたのです。

もちろん最初は戸惑いましたが、おかみさんがコソッと「あなたの食べっぷりがよくて作っちゃったみたいなの。遠慮せずに食べて頂戴。食べきれなかったら、持ち帰ってもいいから」と、優しく私に教えてくださったので、それならばとお言葉に甘えてナポリタンを食べ始めました。


ケッチャプの味が濃い一方で、ピーマン、ベーコン、ソーセージ、たまねぎが混じりあい、箸が止まらなくなるほど貪りました。こんなにいろんな味がするおいしいナポリタンも初めてだったので、私は心から店主とおかみさんに感謝をしました。


しかし、残念ながら中学生の胃袋には、限界がありました。無尽蔵に食べられるわけではありません。

結局、三分の一ほどを残してしまい、残りはラップで丁寧に包んで持って帰りました。家に着くと、数分も経たず冷蔵庫にナポリタンを入れました。


翌朝、同居している祖父に、一緒にナポリタンを食べようと持ちかけました。祖父にも、是非この味を知ってほしかったからです。

祖父は外食をほとんどとらず、自分で作るか、近所のスーパーの弁当を食べるかの二択だったので、例の定食屋の味を知らなかったのです。


祖父は喜んで快諾し、電子レンジで温めておいたナポリタンを、一口放り込みました。

が、祖父はナポリタンを噛みしめると、途端に怪訝な顔になりました。ゴクリと胃に送り、コップについであった水を半分飲んでから、

「なぁ、この料理変なもん入ってんじゃねぇか?」と訝しんだ様子で私に話しかけました。


「えっ、そう?」私も一口食べてみましたが、少し麺が固くなっているだけで、他に不審な点はありませんでした。普通においしかったのです。

ですが、祖父はそれっきりナポリタンに手を付けようとはしなかったので、私が全部平らげました。


「口に合わなかっただけかな?」そう思い、私はこの出来事を特に気にも留めませんでした。



その三日後、祖父は死にました。

表向きは肺炎で亡くなったことになっていますが、最初に遺体を発見した私からしてみれば、それは間違いであると断言できます。

なぜなら、祖父が死んだあの日の朝。私が襖を開けた先で見た光景は、現実とは思えないものだったのです。


中央で血を口から垂らしながら、白目を剥いてピクリとも動かない祖父。そして、部屋全体は、真っ赤な血のしぶきに覆われていました。


タンス、座布団、古時計、祖父の愛読書、障子、畳、布団、照明…どの物を見てもびっしりと血が付着しており、部屋全体が地獄の入り口のようで、思わずひどく発狂して尻もちをつき、動けなくなったのを鮮明に覚えています。

あれは絶対、病気で死んだ現場とは言えないものでした。



祖父が死んでしまったので、私は海外にいる親の定住先に引っ越し、それ以降、祖父の家に帰ってきたことはありません。

もう10年以上の時が流れています。


ですが、なんとなく祖父が死んだのは、あのナポリタンのせいじゃないかと思うのです。祖父が感じた謎の違和感、それが最悪の形で出てきたのではと思うのです。

なんの根拠もありません。しかし、どうしても祖父があんな死に方をする原因が他に思い当たらないのです。


…かく言う私も、もう駄目かもしれません。

今現在、この文章を右手一本でパソコンに打ち込んでいるのですが、実は左手が動かせないのです。

私の左手は一カ月ほど前から痙攣が止まらず、一瞬間ほど前からは異臭がするようになっているのです。

病院に行っても原因は分かりませんでした。もし、対処法を知っている方がおられのでしたら、どうかご連絡ください。


まあ、そのときに生きているかは分かりませんが。



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