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第八話・ラット討伐

 ジークが猫の為にと受けて来た依頼は、魔の森でのラット系魔獣の討伐だった。群れで行動する大型のラットは小さな個体でも猫と大差ない大きさで、一匹の攻撃力はそれほどはない。けれど、二十や三十でまとまって行動する習性があり、数の強さで一斉に圧し掛かられ、噛みつきにくることがある。げっ歯類特有の大きな前歯は強く、動物の骨くらいなら容易く嚙み砕けるだろう。


 ジメジメとして暗い場所を好む特性があるので、川に近い洞穴を住処にしている可能性が高いとの情報に従って、ジークはティグと並んで川沿いを上流へ向かって辿っていた。

 洞穴を探してる途中、水場を求めて出てきた魔獣と遭遇することも何度かあった。その度に交互に攻撃を繰り出して、猫の力を確認する。


「次に出てきたら、ティグの番。やり過ぎないでね」

「にゃん!」


 元気よく返事すると縞模様の猫は、軽い足取りで川縁の岩の上を飛び歩いていた。


 討伐対象以外の魔獣で手加減のやり方を練習させているのだが、ティグの魔法の威力では何でもあっという間に消し炭になってしまう。残された炭を集めてギルドに持って行ったところで、元が何だったか証明ができないと報酬は発生しないから困りものだ。


 なので、ジークが先に攻撃して、この程度でと手本を見せてみたところで、次に現れた魔獣はことごとく消し炭化している状況だった。かと言って、ジークが一人で全部倒してしまうとティグは怒って拗ねてしまう。


「じゃあ、身体だけを攻撃するとかって出来る?」


 身体は消しても良いから頭は残しておいてと、小魚を食べる時みたいなことを言ってみると、分かったのか分かっていないのか、「にゃーん」という一鳴きが返ってくる。威力を上手く抑えられないのなら、攻撃部位を絞って消し炭化の範囲を一部だけに済ませることができればと。


 次はいけるかもと期待し過ぎたせいか、その後は試せそうな魔獣と遭遇することもなく、ジークは諦めて少し早めの昼食にする。川沿いの岩場に腰を降ろすと、持ってきた軽食を猫と分け合う。今朝はちゃんと二人分を頼んでおいたので、ティグもお腹いっぱい食べれるはずだ。宿屋の女主人は彼が一人で食べるものだと思っているから「若いわね」と笑われてしまったが気にしない。


 燻製肉をたっぷり挟んだパンを食べ終わって、草に戯れる猫を目で追っていると、突如ティグが動きを止めて森の木々を凝視しているのに気付く。ジークも猫の見ている方角へと意識を向けると、小型の魔獣の気配。攻撃的な種族ではなかったのか、出てきそうもないなと思っていると、ティグが身を低くしてから草むらの中に飛び込んでいく。


「ティグ?」


 ガサガサと騒がしい音だけが草の向こうでひとしきり聞こえた後、討伐対象とはまた別の種類のラット系魔獣を口にくわえて猫が顔を出す。猫よりも一回りほど小さいだけのそれを、軽々と運んでいる。

 魔法を使わずに狩りもできるところを見せたかったのだろうか、得意げな顔で獲物をジークの前に置いてみせる。


「狩ってきたの?」

「にゃん!」


 すごいすごい、と頭を撫でて褒めてやると、嬉しそうに尻尾を伸ばしていた。森で生活していた時も、こうやって狩りをして食料を確保していたのだろうか。


「ティグは魔法無しでも強いね」


 褒められて得意げな様子の猫を見ていて、魔力の強さに頼っている自分を反省する。魔法が使えるからと嗜み程度しか握って来なかった剣も、少しは鍛錬してみようという気になった。そうすればもっと違う戦い方が出来るかもしれない。


 また今度、武具屋でも覗いてみよう。魔法使いが何の用だと、冷やかしと間違われて追い返されるかもしれないけれど……


 順調に川沿いを上っていると、川から少し離れた場所にある洞穴を発見した。猫が鼻をピクピク動かして、耳を張っているところを見ると、中には何かの獲物が潜んでいるようだ。


 足下に転がっている手頃な石を拾うと、以前と同じ要領でジークは洞穴の中へと投げ込んでみる。風魔法を乗せているから、何かに当たれば反応があるはずだ。


 すぐに、ゴン! という衝突音。音の感じから、穴の奥の壁にぶつかったようだが、なかなか何も出て来ない。息を潜め、静かに待ち続ける。


「あれ?」


 猫の様子からも、何かがいるのは間違いないし、中からは無数の細かい気配はあった。もう一度、足下の小石を拾おうとしゃがみ込んだ時、ドドドという地響きに似た足音が近付いてくる。


 見た感じでざっと三十匹くらいだろうか、大型のラットが群れを成して、洞穴の奥から姿を現した。


「ティグ、手加減して!」

「にゃーん」


 ティグは左右の翼を広げると、先に出てきた半分に光の塊をぶつけた。一瞬で黒焦げになったラットの死体を踏み付けたり蹴散らしながら、続けて残り半分のラットが走り出てくる。


 猫の様子を確認すると、翼を畳んでジークの方を伺っている。今度は彼の順番ってことなんだろう。


 右手を上げて、ジークも群れをめがけて風の刃を放つ。洞穴から出たばかりの残りの魔獣は首から真っ二つに切り裂かれていく。洞穴の入り口には、焼け焦げた死体と胴と頭とが切り離された物がゴロゴロと転がって、頭数が多い分、後始末には時間がかかりそうだ。


 もう奥には居ないことを確認すると、討伐証明になりそうな部位を集めていく。今回は消し炭にならず、単なる黒焦げ程度で済んだから、猫が倒した分もちゃんと回収できそうだ。

 上手に手加減できたことを褒めてやると、トラ猫は得意げに尻尾を伸ばしていた。

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