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第6話:「過去を追う記者」

陽子は一晩中眠れずにいた。信田の死の真相に迫るために踏み込んだ一歩一歩が、彼女をさらに深い闇へと導いていくように感じていた。「黒いヒマワリ」という謎のアイコン。信田が最後に残したメモ。すべてがまだ解明されていない。だが、陽子はそれでも前に進まなければならなかった。


その翌日、陽子の携帯電話に着信があった。表示された名前は「田辺隼人たなべ はやと」――経済紙の記者であり、数ヶ月前に陽子と短い会話を交わしたことがあった。あの時は信田の死に関して何も知らなかったが、どうやら田辺が彼女に接触してきたのは、今の状況に関連があるらしい。


「もしもし、田辺です。」


陽子はすぐに受話器を取った。田辺の声は冷静だが、どこか焦りを感じさせるものだった。


「陽子さん、少しお話ししたいことがあります。できれば、今日会えますか?」


陽子は少しの間考えた後、答えることにした。


「どこで会えばいい?」


「実は、今、手に入れた情報があって。それがどうしても陽子さんに伝えたくて。」


田辺は急いでいる様子だった。陽子はそのことに違和感を覚えつつも、彼の提案に乗ることに決めた。もし田辺が本当に信田の死に関する手がかりを持っているのなら、これは見逃すわけにはいかない。


指定されたカフェに到着した陽子は、すぐに田辺を見つけた。彼は静かにコーヒーを飲みながら、陽子が座るのを待っていた。彼の表情にはどこか疲れた様子が見て取れたが、その目は鋭く、確信に満ちていた。


「陽子さん、少しお話ししたいことがあって。」


陽子は席に座ると、すぐに尋ねた。


「信田の死について、何か知っているの?」


田辺は少し黙ってから、ゆっくりと話し始めた。


「信田さんの死は、私も当初は自殺だと思っていました。しかし、最近、あまりにも不自然な点が多いことに気づきました。特に、10年前に起きた事件との関連です。」


陽子はその言葉に驚き、じっと田辺の顔を見つめた。


「10年前の事件……」


田辺は小さく頷き、テーブルの上に置いていたファイルを陽子に差し出した。


「これが、その事件に関するファイルです。」


陽子はそのファイルを手に取り、慎重に開いた。中身は古い新聞の切り抜きや、メモが束になっている。どこか見覚えのある名前や、事件の詳細が書かれているが、その中で最も目を引いたのは、「K」というイニシャルが繰り返し登場する部分だった。


「K? これは誰のこと?」


陽子はその部分に目を止めた。田辺は深いため息をつき、言った。


「Kは、信田さんが関わっていた事件の重要な人物です。あの事件の核心にいた人物で、今でもその正体は分かっていません。」


陽子はその言葉に驚いた。信田が関わっていた事件とは一体何だったのか。そして、その事件の中で「K」という人物がどれほど重要な役割を果たしていたのか。


「そのKは、信田の死と何か関係があるの?」


田辺はその質問に静かに答えた。


「確かに関係があります。信田さんが闇営業に手を出すことになった背景には、あの事件の影響が大きかった。しかし、Kの正体を突き止めることができれば、信田さんの死の真相にも近づけるはずです。」


陽子はその言葉に胸を痛めながらも、続けて質問を重ねた。


「Kが誰なのか、どうして分からないの?」


田辺は顔をしかめながら話を続けた。


「Kは、表向きには何の関わりもない人物のように見えます。しかし、信田さんが当時知り合った人物の中で、後々まで彼に圧力をかけ続けたのはKだと私は思っています。私も一度、Kの正体を追ったことがありましたが、結局、それ以上は手がかりを掴めなかったんです。」


陽子はその話を聞いて、ますます疑問が膨らんでいった。信田が関わった10年前の事件と、彼が死ぬ直前の状態に何か共通点があるのだろうか。


「そのK、今もまだ関わっている可能性があるの?」


「はい、私もそう思います。Kが信田さんに与えた影響を考えると、彼が無関係でいられるわけがありません。」


陽子は黙ってそのファイルをじっと見つめた。そこには、10年前の事件に関わる人物のリストや、事件の進展が詳細に記されている。そして、その中に「K」と名のついた人物が何度も登場していることに気づいた。


「この中で、Kと関係がありそうな人物は誰ですか?」


陽子はファイルを開きながら尋ねた。田辺は少し考えてから、ゆっくりと答えた。


「おそらく、吉本興業内の高い地位にいる人物が関わっていると考えています。具体的な名前は挙げられませんが、Kが背後にいるということは確かです。」


陽子はその言葉に心の中で疑念を抱いた。吉本興業。信田の死に関わる重要な人物たちが潜んでいる場所だ。もしKが吉本興業内に存在する人物であれば、陽子はその人物を突き止めなければならない。


「ありがとう、田辺さん。」


陽子は静かにファイルを閉じ、田辺に向かって礼を言った。


「これで、何かが動き出すかもしれない。」


田辺は少し驚いた様子で陽子を見つめた。


「気をつけてください。あまり深入りすると、危険です。」


陽子はその警告に頷いた。


「分かっているわ。でも、私は信田のために、真実を知るために進むしかない。」


その言葉に、田辺は何も言わなかった。ただ、静かに陽子を見守るように座っていた。陽子はファイルをポケットにしまい、カフェを後にした。彼女の中で、真実を追い求める決意はますます強くなっていた。Kという人物が、すべてを解き明かす鍵になるのだと信じて。



お読みいただきありがとうございます。


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