第4話:「隠された真実」
陽子は心の中で何度も「信田の死」のことを繰り返し考えていた。死因は自殺とされているが、その背後に隠されたものがある。信田が最後まで抱えていたものは、業界の闇だけではなく、それを超えた何かだったに違いない。その真実を暴くために、陽子は一つずつ手掛かりを追っていくしかなかった。
「大和田……あの日、確かにあなたが最後に会ったはずだ。」
陽子はパソコンの画面を閉じると、スマホを取り出して大和田光司に電話をかけた。大和田は信田の後輩であり、陽子が信田の死後、最初に接触した人物の一人だ。芸人としては今一つ伸び悩んでいるが、信田と桐生との間には深い関係があった。
電話が数回鳴った後、大和田が電話に出た。
「もしもし、大和田です。」
「陽子です。ちょっと話をしたいことがあるんだけど、今、時間は大丈夫?」
大和田の声は少し慌てているように聞こえたが、それが彼のいつもの調子なのか、それとも何か隠していることがあるのか、陽子には分からなかった。
「はい、今、ちょうど空いてます。どこで会いますか?」
陽子は少し考え、駅前のカフェを指定した。そこは人が少なく、静かに話ができる場所だ。大和田と陽子は、店の隅の席に座った。
「どうしたんですか? なんで急に?」
大和田は警戒するように陽子を見つめた。陽子はそんな彼の態度に違和感を覚えつつも、冷静に答えた。
「信田の死について、あなたに聞きたいことがあるの。」
大和田は少し顔色を変えたが、すぐに平静を取り戻すと、テーブルの上のカップを手に取って口を開いた。
「信田のことは……すみません、俺もあんまり言いたくないんですよ。だって、どうしても触れられたくないことがあるから。」
その言葉に陽子は心の中で反応した。信田が亡くなった理由に関して、大和田も何かしらの秘密を知っているのだろう。その秘密を知るために、陽子はさらに掘り下げなければならないと感じた。
「信田の死に関して、何か気になることがあったら言って。私も真実を知りたいんだから。」
陽子は真剣な眼差しで大和田を見つめた。大和田はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「実は、信田さんが亡くなる前の日、俺と一緒にいたんですよ。俺、あの日、信田さんに車で送ってもらったんです。」
陽子はその言葉に驚き、思わず息を呑んだ。信田が自殺する前日に、大和田と一緒にいたという事実。それは陽子には知らされていなかったことだ。
「車で送ってもらった?」
「はい。信田さんが急に『送ってやるよ』って言って、俺を自分の車で送ってくれたんです。最初は普通に話してたんですけど、途中から信田さんが急に黙り込んで……」
大和田はその時のことを思い出しながら、目を遠くに向けた。陽子はその視線を追い、少し黙って待った。
「それで、どうしたの?」
陽子が再び尋ねると、大和田は深いため息をついた。
「信田さんが突然、『もう駄目だ』って言ったんです。『俺、どうしても抜けられないんだ』って。でも、何を言いたいのか、俺には分からなかった。」
陽子はその言葉に、さらに深い疑問を抱いた。信田が「抜けられない」と言ったのは、業界の闇に関してだろうか。それとも、もっと深刻な問題があったのか。
「その後、信田さんはどうなったの?」
陽子は、なるべく冷静に大和田に尋ねた。大和田はしばらく黙ってから、少し苦しげに口を開いた。
「その後、信田さんは『家に帰る』って言って別れました。でも、俺はそれが最後だと思ってなかったんです。まさか、あんなことになるなんて……」
大和田は最後の言葉をつぶやくように言った。その顔には、信田に対する深い後悔と罪悪感が浮かんでいた。陽子はその姿を見て、彼が本当に信田の死に責任を感じているのだと、強く感じた。
「でも、何かがおかしい。」
陽子は目を見開いた。
「どういうこと?」
大和田はしばらく黙っていたが、やがて深い息をついて話し始めた。
「信田さんが俺を送ってくれた後、車の中で何かメモを取っていたんです。途中で、信田さんが急に『これは、絶対に言えない』って言ったんです。そのメモには、『黒いヒマワリ』って書かれていました。」
陽子の胸がドキリとした。「黒いヒマワリ」という言葉が、再び浮かび上がった。信田がそのメモを残していたことが、彼女にとって新たな手がかりになる。
「『黒いヒマワリ』?」
「はい。俺もその時、何か意味があるんじゃないかと思ったんですが、信田さんが急にそのメモを破り捨てて、口を閉ざしたんです。それで、俺はもうそれ以上聞かなかったんです。」
陽子はその話を聞いて、信田が何かを隠そうとしていたことが確信に変わった。彼の死に何かしらの秘密が隠されている。それを明らかにしなければならない。
「大和田、あのメモを見せてくれ。」
陽子は、大和田に強い言葉で頼んだ。大和田は一瞬躊躇したが、やがてゆっくりと頷いた。
「分かりました。でも、あれが本当に信田さんが書いたものだとは限りません。俺もその時は何も分からなかったから……」
大和田はバッグからメモの破片を取り出し、陽子に手渡した。陽子はそのメモを受け取り、一枚一枚慎重に広げた。そこには、確かに「黒いヒマワリ」と書かれていた。その文字は信田のものに間違いない。
「信田が……」
陽子はそのメモを見つめ、深いため息をついた。何か大きな秘密が隠されている。それを探し出すために、陽子はさらに踏み込まなければならないと感じた。
「大和田、ありがとう。あなたが教えてくれたこと、無駄にしないわ。」
陽子はメモをポケットにしまい、再び大和田に向き直った。
「これで、何かが動き出す。」
陽子は深く息をつき、決意を新たにした。
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