第29話:「最後の会話」
陽子は信田の死に関する全ての証拠を手に入れ、ついに流星グループの不正を暴き切った。これまでの戦いの中で、彼女は数々の試練と向き合い、幾度も命をかけた状況に直面してきた。だが、すべてが終わったわけではなかった。信田の死を暴露することで得た結果は、想像以上に大きな波紋を呼び、陽子をさらなる決断へと導いた。
「これで、終わりだね。」
陽子はその言葉を、深い静寂の中で呟いた。彼女が進んできた道は、確かに信田の死を暴き、流星グループの闇を完全に白日の下に晒すことができた。しかし、その代償として多くのものを失ったことも事実だった。彼女はまだ、最後に残された何かを感じていた。
その日、陽子は最後の証拠を警察に提出した。流星グループの幹部たちは、これで完全に法の裁きを受けることになる。しかし、陽子の心には安堵の気持ちだけではなく、複雑な感情が渦巻いていた。最初に始まった復讐の道は、次第に彼女を人間として大きく成長させた。しかし、それでも信田の死に直接関わった人物、特に信田の相方である桐生との関係が気になって仕方がなかった。
陽子は警察から帰ると、真っ先に桐生の家に向かった。桐生とは、これまで数多くの時間を共有し、共に信田の死を追い求めてきた。だが、その道のりで桐生は次第に精神的に追い詰められていった。そして今、陽子は桐生と最期の会話を交わすことを決意していた。
桐生の部屋に到着した陽子は、扉をノックした。桐生がしばらくしてから、少し弱々しい声で答えた。
「誰だ?」
「私だよ、陽子。」
陽子が答えると、しばらくしてから扉が開かれた。桐生はまだ回復途中で、体調は完全ではない様子だったが、顔に浮かんでいる表情はどこか穏やかだった。
「陽子か……。」
桐生は少し驚いたように言ったが、すぐに無理に笑顔を作って陽子を部屋に迎え入れた。
「座ってくれ。」
桐生は椅子を引き、陽子を座らせた。陽子は一度、桐生の顔をじっと見つめ、そしてゆっくりと口を開いた。
「桐生、これで全てが終わった。信田の死に隠された真実は、もうすべて明らかになった。」
桐生はその言葉を静かに受け止め、少しだけ目を閉じた。陽子は桐生の様子を見守りながら、続けた。
「信田が残した証拠がすべて明るみに出た。そして、流星グループはその責任を取らなければならない。」
桐生は長い間黙っていた。やがて、深いため息をつきながらゆっくりと口を開いた。
「陽子、あの時、俺は信田を守りたかった。でも、俺はできなかったんだ。信田が暴こうとしていたこと、俺は知っていた。それでも、俺は助けられなかった。」
桐生の声には、あふれるほどの悔しさと後悔が込められていた。陽子は黙ってその言葉を聞きながら、心の中で理解した。桐生は信田の死に深く関わり、その重い責任をずっと抱えていたのだ。
「桐生、あなたが信田を守れなかったわけではない。信田は最初から、暴露しようとしていた。その決意を止めることは、誰にもできなかった。信田が命を懸けて追い求めた真実を、私たちが今、暴いた。それが、信田が望んだことだと思う。」
陽子は静かにそう言いながら、桐生の目を見つめた。桐生は一瞬目をそらしたが、すぐに再び陽子を見つめ直した。
「でも、俺は信田に対して、あまりにも無力だった。あの時、もっと早く行動していたら、信田は……。」
桐生は言葉を詰まらせた。その言葉に陽子はしばらく黙っていたが、やがて静かに言った。
「桐生、もう後悔しないで。信田が望んでいたのは、真実が明るみに出ること。そして、それを実現するために、私たちは戦ってきた。信田の死を無駄にしないために、私たちがやったことは正しかった。」
桐生はゆっくりと頷き、肩の力を抜いた。その顔には、どこかすっきりとした表情が浮かんでいた。陽子はその様子を見守りながら、静かな声で続けた。
「でも、桐生、私たちはまだ終わっていない。信田の無念を晴らしたからこそ、これからは別の戦いが待っている。流星グループが崩れた今、私たちはその後の処理をしていかなければならない。」
桐生はその言葉に、少し驚いた表情を浮かべながら答えた。
「でも、陽子、もうこれ以上傷つきたくない。信田が死んで、俺たちももう十分だと思う。」
陽子は桐生の言葉に深い理解を示しながら、静かに答えた。
「私は信田の死を暴いた。もう後悔しない。だけど、私たちの戦いは、これで終わりじゃない。私はこれからも、信田のために戦う。」
桐生はその言葉をじっと聞き、しばらく黙っていた。やがて、彼は力なく微笑んだ。
「陽子、君がいるから、俺はここまで来たんだ。信田のために、そしてお前のために、俺も最後まで戦う。」
陽子はその言葉を聞き、桐生に微笑み返した。その時、陽子はようやく気づいた。これで、すべてが終わったわけではない。ただ、信田が望んでいた真実が明らかになった。その先には、まだ見ぬ道が待っている。しかし、陽子はその道を恐れることなく、確かな足取りで進んでいくことを誓った。
「これで、終わりだね。」
陽子のその言葉に、桐生は静かに頷き、二人はしばらく無言で向かい合った。信田の死を超えて、彼らは共に歩んできた道を振り返りながら、最後の戦いの幕を下ろす準備を整えていた。
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