第2話:「消えた夫の痕跡」
信田拓也が亡くなってから数日が経った。陽子は何もかもが虚ろで、ただ時が流れていくのを感じるばかりだった。ネット上では、信田の死をめぐる憶測が飛び交い、炎上するコメントが彼女を包み込む。彼女の心は日々深く冷え込み、まるで足元の大地が崩れ去るような感覚に襲われていた。
無言の電話が何度も鳴り、留守番電話には不気味な声が残されている。親しい人からは慰めの言葉が届くが、それらの言葉も次第に響かなくなってきた。信田が抱えていた闇営業の問題は、彼だけでなく陽子の生活も一変させた。彼女はすでに失われたものを嘆く余裕もなく、ただ次に何をすべきかを考えていた。
「何か手がかりが……」
陽子は静かな部屋の中で、信田の遺品を整理していた。彼女は彼のものをひとつひとつ手に取り、彼の過去を探るかのように触れていった。アルバム、仕事道具、着古したTシャツ……。どれもこれも、信田が長い間大切にしてきたものだ。しかし、それらには一つとして、彼が真実を語るための手がかりが隠されているような気がしなかった。
「これが最後の手がかりかもしれない。」
陽子は信田が生前よく使っていたスマートフォンを手に取った。指先で画面をタップすると、数秒後にロック画面が表示された。そこには、何も目立ったものはなかった。ただ、信田のいつもの笑顔の写真が映し出されているだけだ。しかし、何度もロック画面を見つめるうちに、陽子の目が一瞬鋭く光った。
「これ……」
画面の中にある、異様なアイコンが目に入った。「黒いヒマワリ」という名前のアイコンが、わずかにぼやけて表示されている。そのアイコンは、どこか暗いイメージを持つものだった。陽子はそのアイコンを無意識に指でタップし、詳細を確認した。
「何だろう……このアイコン。」
そこには、明らかな矛盾があった。信田のスマホに入っていたアプリケーションや連絡先は、全て陽子も知っているもので、疑う余地のないものだった。しかし、この「黒いヒマワリ」に関しては、彼女には一切心当たりがなかった。信田が隠していたのだろうか、それとも誰かから送られたものなのだろうか。
「まさか、信田が……」
陽子は胸騒ぎを感じ、さらに詳しく調べる決意を固めた。スマホを開き、アイコンをタップする。その瞬間、画面にメッセージが表示された。
「信田さん、あなたが私を見つける番です。」
その文字を見た瞬間、陽子の心臓が一瞬止まった。信田が死ぬ前に何か関与していた人物がいると確信する。そのメッセージは、信田の死が単なる事故や自殺ではなく、誰かが関わっていた可能性を示唆している。
「どうして……」
陽子は思わず声を上げた。彼女は震える手でメッセージを読み進めたが、内容はさらに不気味だった。
「私があなたを導いてあげます。黒いヒマワリを探して。」
そのメッセージが、まるで暗い予感を呼び覚ますようだった。陽子は迷わず返信を試みた。
「あなたは誰ですか?」
数分後、返信が来た。しかし、その内容は予想を超えるものだった。
「私の名前は明かせません。ただ、真実を知りたければ、このメッセージを信じて。」
その一言が、陽子の心をさらに揺さぶった。信田の死の真相に近づくための手がかりが、ついに見つかったのか。それとも、これは新たな罠なのか。陽子は迷うことなく、次のメッセージを送ることに決めた。
「どうすれば、黒いヒマワリを見つけられるの?」
すぐに返信が届く。
「あなたが必要です。」
その一文に、陽子は一度立ち止まった。信田が残した、この「黒いヒマワリ」という謎のアイコンに隠された意味が、少しずつ明らかになる気がした。
陽子はスマホを手に取りながら、深く息をついた。もう後戻りはできない。彼女の中で、信田の死の真実を突き止める決意が固まっていった。闇営業の問題が、信田の死にどれほど関与しているのか。彼が死ぬ前に何を知っていたのか。信田を死に追いやった者たちを突き止め、復讐するために。
その時、電話が鳴った。陽子はスマホを手に取り、画面を確認する。それは、信田の相方である桐生竜一からだった。
「桐生……」
陽子は一瞬ためらい、受話器を取る。
「陽子さん、信田のこと、あまり考えすぎない方がいいよ。」
桐生の声は、いつになく低く、悲しみを含んでいた。その声に、陽子は少し驚いた。しかし、彼の言葉に対して、すぐには反応できなかった。
「桐生……あなたが何か知っているんでしょ?」
陽子は冷たく問いかけた。その言葉に、桐生は沈黙した。数秒の沈黙が、陽子の中で不安を募らせる。
「信田が死んだ理由、絶対に教えて。」
陽子の声は強く、必死に桐生に訴えかけていた。桐生は、しばらく沈黙した後、重い声で返答した。
「……俺も、真実を知りたくて、ずっと調べてる。でも、まだ分からないんだ。」
その言葉に、陽子は疑念を抱いた。桐生は信田のことを知っているはずだ。何かを隠している、そんな気がしてならなかった。
「桐生、お願いだから、真実を教えて。信田の死の真相を。」
桐生の返事は、思っていたものとは違った。
「お前が……信田の死を暴こうとするなら、気をつけろ。あんまり踏み込むな。」
桐生の声は、警告のように響いた。その一言が、陽子の胸に重くのしかかる。
「……分かったわ。」
陽子は、受話器を置くと、再びスマホの画面を見つめた。彼女の目には、強い決意が宿っていた。信田の死に関わる闇を暴くため、もう一度、足を踏み入れる準備ができていた。
その時、陽子は感じた。すべての答えが「黒いヒマワリ」に隠されているのだと。
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