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仙華頌籟 -A fateful reunion beyond a millennium-  作者: 織葉りんご
第一部 第四章 嵌合、夢幻、再会
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96話 クランベリーとパンケーキ

「お待たせ」


 レジに居る光琅グアンランを待っている私の元に彼は戻ってきた。先日私が開封したパックを買いたいということだ。


「え?それだけ?」


 戻ってきた光琅グアンランが持っていたパックは1パックだけだった。


「ああ、これで十分さ」

「ほんとに?私は1箱で出なかったよ?」

「それは阿鏡アージンの運がなかっただけだよ。オレは運が良いからね。この1パックだけでいいんだ」


 そんな都合のいいことがあるもんか。

 そう思考しながら腕を組んで、パックを開けようとする光琅グアンランを細い目で凝視する。ピリッとパックを破る。慣れた手つきで光琅グアンランN(ノーマル)のカードを退けていく。刹那、


「ほらね」


 とポツリと一言呟いて最後のカードをこちらに見せてきた。


「なっ─────!」


 まさか本当に………。

 目に映るのは、キラキラとした加工とレリーフが施されていた『竜滅化ドラゴニックシフト・機戦姫アリストス』のトップレアリティであるASECアクシオルシークレットだった。目を奪われるほどの豪華さ、煌びやかさに、思わず生唾を飲み込んだ。同時に、人の物であるのにも拘わらず、コレクターとして早くスリーブに入れないとという思考が走り、耐えられなかったか自然と口に出てしまった。


「ス、スリーブに入れないの?」

「もちろん入れるとも。ちょっと持ってて」


 カードをこちらに渡し、光琅グアンランはリュックから大小のスリーブを取り出して、ASECの『竜滅化ドラゴニックシフト・機戦姫アリストス』をスリーブに入れる。二重スリーブにより、余計なことが無い限りは傷なんて付かないだろう。


「いいなぁ……」

「欲しいかい?」

「……煽ってる?」

「いやいや煽ってないさ。本気であげようかと思ってるよ?」

「ほんとに?」

「もちろん─────ただし条件はあるけどね」

「条件?」

「このカードを入れたデッキでオレと戦って、勝てたら君の物って条件さ」


 戦う。つまり光琅グアンランと『機戦騎アクシオル/フルリベレイト』で対戦しようってことだ。確かにデッキは作ってはいるが自分はコレクター部分が強いので特別に強いというわけではない。


「いいけど……私コレクション中心だからそんなに強くないよ?光琅グアンランはどのくらいの実力なの?」

「ん~、大会レベルかな」

「え!じゃあ無理!やらないよ」

「ちゃんと手を抜くから安心して。さて、どこでやろうか………カードショップは人が多いし、そもそも阿鏡アージンって今デッキ持ってる?」

「いや…家に帰らないとないね。よかったら来る?」


 などと、口に出した瞬間にハッとした。

 何故、出会ったばかりの人間にこんなことを言ったのだろう。どこか懐かしいような安心感のせいなのかはわからない。その発言が軽率であるのは理解しているが、無意識に発言した故にどう言って片付ければいいのか………。


「あ、えーっと………」

「─────くっ、アハハ」

「な、何笑ってるの……?」

「いや……何も考えないで発言したんだなぁって思ってさ。ダメだよ、女の子がそんな軽率なことを言っちゃ。交流関係が長いならまだわかるけど、オレ達今日会ったばかりなんだよ?もう少し自分を大切にした方がいいよ」

「そうだよね……ごめん」

「君が謝る必要はないよ。そうだ、君が良ければオレの家に来ないかい?阿鏡アージンが嫌がるようなことは絶対にしないと約束できるけど、もし何かあっても阿鏡アージンの家じゃないから逃げ道は必ず存在する」


 確かに……自分の家に呼ぶよりかはまだ安全というわけか。まぁ、光琅グアンランからそういった雰囲気は全然ないし、本当に何もしないんだろう。


「じゃあそうさせてもらうね。住所とかって聞いてもいいかな?」

「いいよ、住所は───────」


 と、光琅グアンランはこちらの耳に口を近づけて囁いた。温かい小声が耳に届く。やがて、告げられた言葉に私は一瞬目を大きく見開いた。それに驚いたのか、光琅グアンランはポツリと尋ねる。


「…どうしたの?」

「いや…私の家と場所が近いなって」

「そうなのかい?それなら、移動費も掛からなくて安心だ。それじゃあ一旦ここで解散しよう。待ってるよ」


 相も変わらない微笑みを浮かべながら、肩越しに尚無鏡シャンウージンの方を見ながら手をひらひらとさせて遠くへと歩いていく。


 本当に不思議だ。彼と話していると予兆もなく緩む心。まるで何日も、いや何ヶ月も一緒に過ごしていたような距離感。どこか神経が麻痺しているような────


 冬が近づいていると感じることができるほどの冷ややかな風に髪と服を揺らしながら、尚無鏡シャンウージンは自分の帰路へと向かった。最中、これからのことを思う。


 そう言えば、今まで一回も男の子の部屋に上がったことが無いな……古くからの付き合いがある春山チュエンシャンの部屋でさえも行ったことが無い。なんか急に緊張してきた…どうしよう、行くのやめようかな。いやでもそれは流石に酷いか……今から断ろうにも連絡手段も無いし、うん、行こう。





                  ◆





「お邪魔します………」

「好きな所に座って。今、お茶出すよ」


 なんで?なんで………なんで初めて行く男の子の家がマンションなの!?私のアパート何個入るのコレ!?想像できない………お金はどうなっているのだろう…こんな大きな部屋に一人暮らしって、彼は何者なの………。


 ソファに腰を掛ける。沈む体に少々驚きながらも有難く寛がせてもらおう。ふぅと一息吐いたと同時に、光琅グアンランがお茶を出してくれた。しかもそれだけでなく菓子まで。


「昨日作ったパンケーキで悪いね」

「全然……寧ろいいの?」

「いいとも。第一号のお客様をもてなすにはこれぐらいしなくちゃ」


 そう言うってことは、光琅グアンランの部屋に入ったのは私が最初ということか。ならば、そのご厚意を踏みにじるわけにもいかないな。夕方にパンケーキを食べるのはどうかと思うが、そもそもの食生活が良いわけではないので今更だと思って、フォークで一口分サイズにしたパンケーキを口に運ぶ。


「────美味しい」

「それはよかったよ。そうだ。今デッキケースを持ってくるから、阿鏡アージンはゆっくり食べてていいよ」


 パタンと扉が閉まる。静かになったリビングでもぐもぐと咀嚼しながら、『機戦騎アクシオル/フルリベレイト』のルールを一度確認する。


 『機戦騎アクシオル/フルリベレイト』は、40枚のデッキを組んで、マスターと呼ばれる主機体を前衛機体で守り、後衛機体で援護しながら、システムという魔法カードのようなものを駆使して相手のマスターの破損率を100%にする対戦型カードゲーム。


 大まかな流れやルールは覚えているが、細かな裁定などは何とも言えない。まぁ彼のことだし、もし間違っていても見逃してはくれそうだけれど。

 扉の開く音に、私の顔は正面を向く。


「お待たせ………そう言えば阿鏡アージンって、アリストス何枚持ってる?」

「え?1枚も持ってないけど………どうして?」

「せっかくだから使わせてあげようって思ってさ。1枚もないなら─────はい、デッキに入れる4枚と、マスターにするための1枚」


 な、なんだと………さっきのASECに加えてUR(ウルトラレア)のアリストスも4枚持っているだと……この人、どこのお坊ちゃんなんだ一体────


「でも、光琅グアンランも使いたいでしょ?」

「いつでもできるからいいよ。それに言ったでしょ?オレは大会レベルだって。現環境のアリストスデッキを阿鏡アージンが使って、オレは一年前の環境デッキでやれば丁度いいだろうって思ってさ」

「ふーん」


 尚無鏡シャンウージンは短く唸りながら、差し出された5枚のカードを受け取った。そして口角を上げて彼の目を見て言った。


「負けても泣いて言い訳しないでよ」

「大丈夫、泣いて言い訳するのは君の方だから」


 受け取ったアリストス4枚を自分のデッキに組み込み、溢れてしまう4枚を選別して抜いた。デッキをシャッフルして、互いに自分のデッキを相手の方に、不正が無いようにカットをして相手に返す。

 マスターを置く場所にASECのアリストスを設置しようとした刹那、何か緊迫した感覚と閃光が自分の中を駆け抜けた。高鳴る鼓動。マスターとなったアリストスのイラストを見る。


 知っている─────ここではないどこかで、これに似たものを見た、いや見たのではなく見せた?しかし何故知っているのか。きっと何か別の記憶と勘違いしているのだろう。


 残った香りへの意識は、手札を確認する光琅グアンランへと向かわせる。マスターゾーンにアリストスを裏向きに設置、そして手札が5枚になるようにデッキからドローする。


「準備はいいかな?」

「うん、いつでも行けるよ」


 互いに、裏にしたマスターに指を掛け、

「「主要機戦騎・起動ッ!」」

 という掛け声と共に、マスターを表にした。

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