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仙華頌籟 -A fateful reunion beyond a millennium-  作者: 織葉りんご
第一部 第四章 嵌合、夢幻、再会
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95話 Flamingo

「何って、どういう意味?」


 訝しむように尚無鏡シャンウージン春山チュエンシャンに聞き返す。


「どういう関係って意味だよ。あんなデカい男見たこと無いよ」

「私だって初めて見たよ」

「え、どういうこと?」

「あの人は2クラスに今日転校してきた人なの。私がいつものように屋上に居たら先に居てね、それで少し話したりご飯食べたりしたんだけど、その時に立ち眩みしちゃってね……」


 それを聞いた春山チュエンシャンは少し前のめりになってこちらの目を真っ直ぐ見ながら言う。


「それ、その転校生の仕業じゃないのか?だって今までそんなことなかったんだろ?無鏡ウージンがいきなり立ち眩みだなんておかしいよ。何かされたんじゃないのか?」


 言葉の圧と共に、徐々に薄い肌に赤い熱が広がっていくのが目に見えてわかった。

 この感じ、再びだ。


 一度だけ、春山チュエンシャンと都心へ出かけたことがあった。その日のことはもちろん楽しかったのだが、帰り際に自宅の近くの道を共に歩いている内に、だんだん春山チュエンシャンの目つきが熱っぽくなってきて、いささか冷や汗をかいたものだ。古くから関係を持った友人であっても、男の子は男の子であり、都心での解散ではなく自宅の近くまで来てしまったのは少々軽率だったと反省した。

 しかし、春山チュエンシャンのことは嫌いというわけではない。この学生生活の中でほっとできるごくごく僅かな瞬間の一つなのだから。


 意識を彼の言葉に戻す。


「そんなことしたとは思えないなぁ……別に誰かの刺客ってわけでもなさそうだし…」

「でも怪しいよ、あいつ」

「そうかなぁ………」


 春山チュエンシャンが言っているほど、一緒に昼食を食べている時に彼から怪しい雰囲気は感じ取れなかった。彼は一度、自分が食べている物と同じ物をこちらに差し出してきたが、断った後は自分でそれを食していた。故にそれには毒だの薬だのは盛られていないということ。会話も特に変わったことはなかった。それこそ、春山チュエンシャンが時折見せるような熱の帯びた眼光も向けられなかった。


「とにかく、あいつには────────」


 言いかけた瞬間、授業の終わりを告げるチャイムが校舎に響き渡る。ビクリと春山チュエンシャンは体を震わせた後に壁に掛けられてある時計に目を向ける。


「もうこんな時間なのか。ワンチャン保健室の先生が戻って来そうだなぁ……ごめん無鏡ウージン。僕先に行くね。それじゃ、お大事に」


 と軽い挨拶をして、春山チュエンシャンはそそくさと保健室から出て行ってしまった。「とにかくあいつには────」の後に何て言うつもりだったのだろうか。「気を付けて」とかだろうか。もし春山チュエンシャンの言う通り危険な人物であるのなら、既に私に何かしているだ。しかしそれらしい証拠は見当たらない。

 彼はどうしてああいうことを言ったのだろう?居ない間に、唯一の友人に知らない友人ができていたことへの嫉妬心か?やはり、男の子の考えていることはよくわからない。


 などと考えていると、保健室にコンコンとドアをノックする音が響き渡る。保健室の先生が帰ってきたかと思ったが、それならノックは必要ない。つまり保健室に用がある他の誰かということだ。

 ガラガラと扉を開く。すると、「阿鏡アージン、居るかい?」と柔らかい声が私の名前を呼んだ。


光琅グアンラン?ここだよ」


 カーテンの上を飛び越えるように、上に向かって声を出す。先ほどよりも大きな影が通り、シャッと薄橙色のカーテンを光琅グアンランが開けた。


「体はどう?もう大丈夫かい?」

「うん、もう何ともないよ。ありがとう。保健室に運んでくれて」

「当然のことをしたまでだよ」


 先ほどまで春山チュエンシャンが座っていた場所に光琅グアンランが座った。比べるのは申し訳ないが、本当に身長が高い。多分30センチくらいの差はあるのではないか。


「とりあえず、この時間はここで休もうかな」


 光琅グアンランが座った瞬間にそう口にした。それを不思議に思った尚無鏡シャンウージンは即座に尋ねる。


「え、どうして?」

「六限目は文化祭準備の準備みたいな感じで割と皆自由みたいだったし……阿鏡アージンの方のクラスはどうするんだい?」

「実行委員会じゃないからわかんない。行っても指示されたことをするだけだし、それに隙を見てサボる人も居るし─────」


 刹那、光琅グアンランはブレザーの胸ポケットから紙きれを二枚取り出し、それをひらひらとさせながら言った。


「じゃあサボっちゃおうよ…オレ達でどっか行かない?」


 突然の言葉に、尚無鏡シャンウージンは反応できなかった。昨年の文化祭自体は途中で抜け出したりとかはしたが、準備期間はサボるということはしなかった。というかそもそもその考えがなかった。無心でやっていればすぐ終わるだろうと思って何も考えずにただやっていた結果だろう。

 この準備期間………その前のこの一限から放課後前に行うホームルームは省略される。だが下校の時間はキッチリと定められている。しかし、そのシステムには穴がある。それが、光琅グアンランが揺らしている紙、校外出許可証と言うものだ。この許可証を提出すれば、その日は放課後でなくても学校の敷地外に行くことができる。つまり、二人で許可証を提出して、今日はもう帰ってしまおう、ということだ。


「……っていうか、よく知ってるねソレ…」

「何人か話しているのを耳にしてね。せっかくならって思ったんだ。どうだい?もしまだ少しでも具合が悪いのだとしても、ここで黙っているよりかは病院に行って診てもらった方がオレはいいと思う」


 特に体はおかしくない。寧ろ元気が有り余っているぐらいだ。それを十分に消費できるほど活発ではないのだが………。


「いや、具合はもう大丈夫。完全に治ってるから」

「それはよかった────それで、どうする?無理強いはしない。阿鏡アージンが選んでくれ」


 ここに居てもただ時間を無駄にするだけだ。ならばいっそのこと─────


「…いいよ、もう帰っちゃおう」

「わかった。それじゃあこの許可証あげる。書いて先生に提出して荷物を纏めたら裏門に来てくれ。それじゃあオレは先に行くね。また」


 こちらに許可証を渡して、スッと彼は保健室から去って行った。空欄だらけの許可証を眺めながら、ふと彼の不思議な感覚を思い返す。

 彼の表情には終始熱は籠ってなどいなかった。その逆も然り、冷徹な部分もなかった。あったのは、出会った時と変わらない穏やかな微笑みのみ。故にどこか安心するような気持ちであった。


「─────────────」


 瞬刻、胸の奥で何か温められたような感覚が滲んだ。されどそれはすぐに消え去ってしまった。この懐かしい気持ちは何だろうか。彼とは以前どこかで─────そんなことはない。今日の屋上でのあれが初対面なのだ。

 尚無鏡シャンウージンはぐっと背伸びをして体を解し、誰も居ない保健室を後にした。





                  ◆





 そういうシステムがあるが故に、特に変な目で見られることなく校舎から出ることができた。少しドキドキしたが、外の空気を吸うや否や心臓の高鳴りは収まっていった。校舎周辺をぐるりと回って裏門へと歩む。

 すると、裏門に寄り掛かりながらスマートフォンを弄っている長身の男子生徒が視界に映る。待たせていると認識して私は少し小走りでそちらへと向かう。


「ごめん…待った?」

「いいや、そんなに待ってないさ。それで、どこに行く?オレはこの辺りを全然知らないから阿鏡アージンのオススメの場所とかあるかい?」

「オススメかぁ………」


 顎に手を当てて橙色が押し寄せてくる青空を見て考える。と、


「────それって、バブルン?」

「え?」


 光琅グアンランにそう言われ、今度は自分のザックに付けている水色の丸々としたキーホルダーを見下ろした。


 バブルンというのは、『機戦騎アクシオル』に登場する主人公・アリストスの相棒兼作品のマスコットキャラクターである。水色の球体をした謎の生命体であり、見た目がシャボン玉に見えることからアリストスがそう名付けたのだ。


光琅グアンランもアクシオル知ってるの?」

「もちろん知ってるよ。アニメも全部見たし、カードの方もやってる。阿鏡アージンも同じ?」

「うん、私も同じ」


 驚いた。今日初めて出会った男子生徒が、まさか『機戦騎アクシオル』を履修しているとは。しかも私と同じようにカードゲームの方にまで手を出している。


「それじゃあ、そこら辺をフラフラと歩きながらカードショップにでも行こうよ。丁度欲しい物があるからさ」

「うん。じゃあそうしようか。近くのカードショップに案内するよ」


 そう言って、尚無鏡シャンウージンはバブルンのキーホルダーを揺らしながら、光琅グアンランと共にカードショップへと足を運んだ。

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