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仙華頌籟 -A fateful reunion beyond a millennium-  作者: 織葉りんご
第一部 第四章 嵌合、夢幻、再会
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82話 二身一体、伝説の戦士誕生

 初めはその言葉を拒否した。あれは俺だけの秘密。誰にも知られたくない場所だからだ。されど、その絢爛豪華な男は笑みを浮かべながら、こちらに手を差し伸べてこう言った。


「安心しろ。君のことは絶対に後悔させない。寧ろ、君の求めていたものが手に入る」

「求めていたもの?なんだそれは……?」


 男は微笑んだ。そして、

「そこに行ったら教えてあげよう」

「絶対だな?」

「ああ、絶対だ」


 俺は壁を使って体を起こし、その男を連れて兄を埋めた場所に向かった。

 多分、何を言ってもこの男は退かないだろう。初対面なのに、俺に兄が居たことを知っているし、死んでいることも知っているからだ。一体何者なのだ……。

 そう不審に思いながら、男を後ろに歩いて行った。




                  ◆




「ここだ……」


 珊丹サンダンは兄を埋めた場所に男を連れてきた。その場所を見るや否や、男はポツリと呟いた。


「なるほど。始めに断った理由がわかる」


 兄を埋めたのは崖下のすぐ近く。墓地などではない。その場所を見て、なんとなく彼は察したのだろう。俺は言う。


「約束通りお前をここへ連れて来たぞ。お前も俺の求めているものとやらを出してもらおうか」

「なら、君の兄を掘り出してくれないか?」


 今、何と言った?兄を掘り出せと?

 珊丹サンダンは作った拳を震わせながら、その男に向かって怒りを込めて叫んだ。


「ふざけるな!そんなこと、できるわけがないだろう!」

 それに対して男は、変わらぬ笑みで淡々と返した。

「ふざけるも何も、君の求めているものなのだから」

「……は?」


 俺の、求めているもの?兄が────?しかし、


「どういうことだよ……」

「いずれ判る。約束してるだろ?絶対に後悔させないと────」


 ゴクリと喉を鳴らして生唾を飲み込む。その長い前髪から覗かせる虹色の瞳が一際輝きを増し、こちらの瞳孔を直視している。この男は、間違いなく“なにか”を持っている。

 俺は誘われるかのように、兄を埋めた所へ行き、必死に土を掘っていく。

 やがて、人間の足が見えてきた。構わずに掘り続けると、今度は腕と腹が見えてきた。視界に歪みが現れるも、構わずに掘り続けた。そして─────


「──────」


 兄の頭が出てきた。

途端に、視界の歪みは頬を伝った。俺は土に汚れた兄を抱き寄せた。最中、男は言った。


「これが、お前が求めたものだ。どれほど酷い仕打ちがあろうとも、限界までその形を崩さなかった『耐える心』だ」


 ここに来る前に、彼の言った言葉だ。そうか、これが俺の求めていたもの。無意識のうちに心はそれを渇望していたのだろう。しかし、それを持つ者はもう、このような姿なのだ。その術を伝授できる者はもう、こんな姿なのだ。


 すると、男がこちらに歩み、半分に破った札を兄の額に付けた。そしてそのもう片方を差し出す男に俺は口を動かした。


「それは、何だ……?」

「お前に足りないものを補う札だ」

「耐える心か?」

「ああ───だがそれだけではない。もっと強大な力が手に入る」


 強大な力──────


 俺は恐る恐る手を伸ばして、男の手にあったもう半分の札を受け取った。使用方法を聞いたところ、男は「同じように額に貼り付けるだけ」と答えた。言われた通りにその札を額に貼り付けた。


 瞬間、視界が白に覆われた。反射で目を瞑った。なのにも拘らずその白は突き抜けてくる。

 体が熱い。まるで溶けているようだ。

 何が混じってくる。溶けた体に何かが撹拌していくような感覚が現れる。

 意識がどこかへ行こうとする。しかし、それを誰かが掴んで離さない。暴風に飛ばされそうな布のような魂を、誰かが掴んでくれている。それは紛れもなく────


 兄さん─────





                  ◆





 体に重みがある。どうやら先ほどの感覚はどこかに行ったようだ。次に訪れたのは黒。瞼を貫通する白とは真逆。なんとも落ち着いた視界だろう。

 目を開ける。目の前には男の姿がある。しかし、


『え──────』


 抱えていた兄の亡骸が無くなっている。その現実に、俺は立ち上がって、


『おい!兄さんの遺体はどこへやった!?』


 男に向かってそう叫んだ。視界に何か見えるが、そんなことを気にしている余裕はなかった。

 男は依然として表情を変えることは無かった。そして懐から何か板のような物を取り出してこちらに渡してきた。裏返すとそれが鏡であると判った。

 俺は恐る恐るその鏡に顔を覗かせると──────


『──────────』


 知らない、いや、知っている。自分が何を思っているのかわからない顔が映っていた。俺の要素もあるし、どこか兄にも似た顔。そして垂れる札。

 何か言いたげな俺に、男は先に口を開いた。


「どうだ?オレの創った札は」

『何が、どうなっているんだ?』

「お前は今、兄の体と融合したのだ。お前という武の強さ、兄という心の強さ。今一つとなって新しい戦士が誕生した」


 俺と、兄さんが、融合────

 その予想だにしない現実を咀嚼している間に、男は身を翻して去ろうとした。その背中に俺は声を掛けた。


『おい!どこに行くんだ!俺は、俺はこれで何をすればいいんだ!』


 男は出会った時と変わらない顔で返した。


「これから歩く道はお前自身が決めるんだ。オレは何も言うことはない………あ、ただ一つだけ、その札は決して剥がさないことだ」


 そう言って、不思議な男は去って行った。

 呆然と立つ。しかし、これは現実。夢でも何でもない。俺は今、兄さんと合体している。故に、俺に足りなかった『耐える心』が備わったということだ。

 拳を握りしめて、新しく誕生した戦士は大きな一歩を歩き出した。







                  □







「これが、嵌合札とその戦士の誕生秘話だ」


 話を聞いていた木煙ムーイェンは、なるほど、と思いながらも、

「えっと、その続きは?」

 と、老爺爺おじいさんに問いかけた。老爺爺おじいさんは「なんだ?物足りんのか?」と暗闇から言い返してきた。木煙ムーイェンの傍で同じく話を聞いていた魏君ウェイジュンが言い出した。


「その後は語るまでも無いだろう。伝説の戦士と語り継がれているのだからな。その起源に触れるだけでも十分だ────話を聞く限り、その札には元々名前はなかったが、その成り立ちから嵌合札と名付けられたのだろう」

「そういうことだ。これからお前さん等は、ここから出て嵌合札を取り、半分に破って互いの額に付けて常紗チャンシャと戦うのだ」

「待ってくれ。もちろん戦う気はある。しかし、先ほどの話を聞いていると、嵌合札を着けたら合体するんですよね?その後はどうなるんです?僕達はくっついたままなのですか?」


 木煙ムーイェンの問いに老爺爺おじいさんは笑いながら答える。


「そうだった言うのを忘れていた。嵌合札は長年調べられあることが判明したのだ。それは、三十分以上着けたままでないと完全な合体にはならなく戻ってしまうらしいのだ」

「つまり、三十分以内に剥がせば元に戻れるということですか?」

「そういうことだ」


 となると、タイムリミットは三十分。その間に常紗チャンシャを倒さなければならないということだ。それだけではない。この国には宝刃戯派も迫っている。こうしている間にも宝剣が狙われているかもしれない。


「その嵌合札ってのはどこにあるのですか?」

 木煙ムーイェンが闇の奥へと問う。


「この地下室の近くには武器庫がある。そこを抜けて真っ直ぐ行けば大きな扉がある。内装が変わっていなければそこに宝剣と共に管理されているはず。今は常唐チャンタンがここを支配しているから警備とかは手薄のはずだ」


 暗い中で、魏君ウェイジュン木煙ムーイェンが目を合わせて頷いた。直後、魏君ウェイジュンは黒の奥に居る老爺爺おじいさんへ言い放った。


「わかりました。では、あなたの方術を牢の鍵と俺達の枷に施してください」

「ふ─────行くのか?」

「ええ、俺達は晄導仙華を信仰する者。必ずこの国に再び光が差すことを約束します」

「そうかい………」


 老爺爺おじいさんは一言、そう呟いた。瞬間、三つの場所から金属が歪む音が聞こえてきた。二人はそちらの方に目を向けると、自分達に付けられた枷の形がどんどん変わっていく。そして、饅頭をちぎったかの如く、人界で最も硬いであろう枷は外れ、同時に牢を固定していた鍵も落下した。


「おお………」

「これが、あなたの方術─────」

「さぁ行って来い若者等よ。俺はここから、激戦を耳にするとしよう」


 疲れ切った老爺爺おじいさんの声が響く。二人は立ち上がって檻を開いた。最後に暗闇の奥に居る老爺爺おじいさんの顔を拝もうとしたが、それは全てが終わってからでも十分だ。


「行こう……」

「ああ。やることが少し増えてしまったが、国の奪還と宝剣の死守……必ず果たそう!」


 そう意気込んで、二人は黒に染まった階段を一段ずつ上って行った。

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