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仙華頌籟 -A fateful reunion beyond a millennium-  作者: 織葉りんご
第一部 第三章 宝剣争奪、天地剣戟
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73話 それぞれの別れ、太子殿下からの招待

「助けて、くれた?」


 首無し騎士と化した難渉仁ナンショーレンは、見えぬ表情で語る。


「あいつがどんな幻術や呪術を使ったのかは知らん。だが、既に死に体だった俺をマネキンと融合させることで新たな命として復活することができた。それにより、黒手党マフィア老大ボスである猛明胡モンミンフーをこの手で抹殺することができた。俺の復讐を終わらせてくれたのは、間違いなくあいつだ。だから、感謝している」


 それを聞いた尚無鏡シャンウージンは思う。禁忌を犯した自分は誰も救えなかったと。規模なんてものは関係ない。私は誰一人として救えていない。流石は将軍幕下だ。でも、こういう話って崩星バンシンの前でしてよかったのかな……。特に何も起きてないし、気にしなくてもいいか。


 感覚が戻る。足元に座っていた飛川フェイチュアンが「さて」と言いながら立ち上がった。


難渉仁ナンショーレンは、これからどうするの?」

「巡守隊に戻ろうと思っています。この体のことを説明するのは少々長くなりそうですが……」

「そう、頑張ってね」

飛川フェイチュアンは行かないんですか?」

「もう少ししたら行くよ。だから先に行ってて」


 難渉仁ナンショーレンはそれに対し「わかりました」と応え、我々に挨拶をして部屋を出て行った。でも、私達仙人はわかっている。もう彼女は巡守隊には戻らないことを。どこかのタイミングで下頼殿の方術が途切れ、彼は彼女に関する記憶は無くなる。


「さて、典礼も終わったし、私もそろそろおいとまかな~。結構波乱な数日だったけど、案外楽しかったよ」


 慣れている。自分の記憶にしか残らないことに慣れている。経験数の高さを実感する。尚無鏡シャンウージンはその感覚を一度遮断し、彼女に向かって感謝を告げた。


「こちらこそ、もの凄くお世話になりました」

「どうかお気を付けて」


 飛川フェイチュアンは我々に手を振って、部屋から出て行った。それを見送った全員は、あることを頭に浮かばせた。残る宝剣はあと二つだと。木煙ムーイェンは言う。


「彼等はもう、目星を付けて向かっているのか?」

「どうなんだろう……基本的には私達の到着の方が早くように感じるけど……」

「とにかく、この先も油断はできません。我々皆疲弊していますので、本日はゆっくりと休んで明日の朝出発しましょう」


 陳湛チェンジャンの提案に皆頷く。

 途端、遠くの方からドタドタと足音が聞こえてくる。音のする方に顔を向けた瞬間、戸が勢いよく開かれた。


「いやー、えらいええ試合やったで!尚無鏡シャンウージンさん!」


 病室の部屋の戸を思い切り開けたのは、根張国の太子殿下である夕剪平シージェンピンだった。尚無鏡シャンウージンは始め誰だかわからなかったが、すぐに試合前に会いに来た人物だと思い出すことができた。とはいえほんの一瞬だけの会話、名前はすぐには出てこない。脳の奥底にあるであろう記憶を必死に探る。だが、答えはすぐに耳に届いた。


夕剪平シージェンピンさん、どうしてここに…」

「スタッフに聞いたんや。それでここまで来たんや」

 すると、

「すみません…うちの小平シャオピンが騒がしくしてしまい」


 彼の父親であろう人物が姿を現した。整った鼻筋の下には手入れされた立派な髭を携えている。その後ろには奥さんであろうか、とても綺麗な方が立っていた。


「初めまして尚無鏡シャンウージンさん。私は根張国の国主・夕剪花シージェンホワ。こちらは私の妻の軽王桃チンワンタオ、そしてそちらに居るのが根張国の太子殿下で我が息子・夕剪平シージェンピン。この度は、私の息子を妖血歩団から救ってくださりありがとうございます」

「いえいえ!私だけの実力ではありませんし──────」

「それでも、拉致された息子が帰って来たことには変わりありません。ですので、貴方達を根張国に招待しようと思いまして。準優勝という惜しい結果ではありますが、向こうで一緒に祝杯を挙げるというのはどうですか?」


 一国の国主からのお誘いだ。断るわけにはいかない。だが少し不安な部分もある。彼等が次に狙う宝剣がどこにあるかだ。もし真反対だった場合どうすればいいのか─────色々と考えている内に、木煙ムーイェンが近くに来てこう提案した。


「仙華様、是非行ってきてください」

「え…でも──────」

「宝刃戯派の方は僕達が何とかします。仙華様は彼等と交流して仙声を高めてください。確かに宝剣も重要ですが、今一番重要なのはあなたです。仙声を高めれば、彼等に負けないほどの力、嘗ての力に近づきます」

 さらに陳湛チェンジャンもこちらに近づいて、

「それなら、私が仙華様に付きます。あなた達は──────」

「僕も行くよ」

「いいです」

「ケンカしないの!」

「じゃあ、僕と魏君ウェイジュンで宝刃戯派を追う。仙華様と崩星バンシン陳湛チェンジャンは国主達と共に根張国に向かうことにしましょう」


 少しの話し合いが終わり、それぞれの役割が決まった。尚無鏡シャンウージンはベッドの上に座りながら、根張国主の方に顔を向けて、


「では、明日の朝にご一緒させてもらっても大丈夫ですか?」

「全然構いませんよ。ごゆっくりお休みください。ほら小平シャオピン、行くよ」

「はい爸爸おとうさま!ほなまた明日な!」


 夕剪平シージェンピンは父親の言葉に従い、私達に挨拶をして駆け足で戸の方まで向かって行った。少し騒がしかった空間に静寂が訪れる。その静寂を破ったのは魏君ウェイジュンだった。


「しかし、少し困ったな──────」

「何がだい?」

「俺達だけで宝刃戯派の相手が務まるかどうかという話だ。仙華様を倒した承影チョンイン崩星バンシンを倒し常詩チャンシィも警戒する赤霄チーシャオ。まずこの二人が来れば間違いなく俺達に勝ち目はない」

「それはそうだな……」

「短日国主と戦っていた太阿タイアーはどうなんだい?」

「未知数だな。戦っていたところを見ていたとは言え、相手は人類最強。自分達と戦った時、どの程度の強さなのかはまだわからん」

「そうか……加勢したいところだけど、阿鏡アージンが心配だからね」

「仙華様は私が付いてます」

「だから心配なんだ」


 あぁマズイ。このままいけばヒートアップしてしまう。そう思った尚無鏡シャンウージンは「とにかくっ」と言葉を放って会話を中断させる。


「明日は朝から行動するし、もう休もうよ」

「そうですね、賛成します」

「では、ここら辺で解散としましょう」

「じゃあ私、ちょっと連絡してくるから皆はもう戻ってていいよ」


 ようやく真面に動くようになった体を起こして小走りで部屋を出る。懐にはしっかりと通筆書が入っていることを確認している。建物から出て奥の角へ。通筆書を開いて思子宗スーズーゾンへ連絡を開始する。


「今、大丈夫でしたか?」

「はい。特に忙しいことはないので問題ないです。どうかされましたか?」

「実は、根張国の国主にお誘いを貰ったんですけれど……」

「良いではありませんか。外交もまた、仙声を上げる第一歩─────」

「それは百も承知です。心配なのはそこではなく、宝刃戯派の行動についてなんです。私達で話し合った結果としまして、私と陳湛チェンジャンと同行している少年で根張国に、魏君ウェイジュン木煙ムーイェンで宝剣の場所に行くことになりまして…………その、彼等が次にどこへ行くのかってもうわかりますか?」

「少し待っていてください」


 言葉の末尾が少し遠のきながら思子宗スーズーゾンは調べに入った。尚無鏡シャンウージンは調べるのに数分、十数分と掛かると思っていたが、本当に少し待っただけで質問の答えが返ってきた。


「お待たせいたしました。残念ながら、宝刃戯派の次の行動を知ることはできませんでした」

「そっか………」

「ですが、残る宝剣の在処は特定することができました。簡単な地図を通筆書に添付致します」


 数秒後、筆で書かれたような思子宗スーズーゾンがみるみると歪み始め、やがてそれは印のついた簡素な地図と化した。緩やかに波を描いた長い一本の線はおそらく道。左下にある、四角の中にバツ印が描かれている所が、現在私が立っている場所・墨走国だろう。そこから長い波線を辿って行くと途中に赤い丸が一つ、波線の終わりにまた一つ描かれていた。この赤い丸こそ、宝剣の在処だと予想する。

 思子宗スーズーゾンは、尚無鏡シャンウージンに地図の説明をする。


「四角の場所は貴方が居る墨走国。そこから線を辿り、手前にある赤い丸は陽柱国ようちゅうこく。その奥にある赤い丸は貴方方が向かおうとしている根張国です」


 な、なんだって!?根張国に宝剣があるの!?なんという偶然か。もし交流が上手く行けば、その宝剣を譲ってもらえるかもしれない。そこに置いておくより我々が持っていた方が安全だろう。向こうも良い人そうだし、下手な立ち回りにならないように気を付けないと。

 しかもだ、もう一つの宝剣の在処は根張国に向かう道中にある。真反対の方向でなくてホッとしている。皆が集まるのは明日の朝、その前に全員の所に訪問すれば早いが、生憎ここから部屋に戻るぐらいの体力しか残っていない。仕方ない。同室の崩星バンシンにだけ伝えておこう。


「ありがとうございます!とても助かりました」

「それは何よりです。それでは引き続き頑張ってください。では」


 と言い通信は切れた。白紙となった通筆書を閉じて、建物の中へと入って行く。

 なんという幸運だろうか。この嬉しさを噛み締めて、今夜は熟睡できそうだ。

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