59話 遂に対峙、二重の衝撃
嵐流青舞滝典礼の一回戦が全て終わり、二回戦に備えていたところ、「出場選手は控え室まで─────」というスタッフの声が響き渡り、暫しの休憩時間は終わりを告げた。その声の下、選手控え室に向かった尚無鏡と魏君等選手全員はスタッフから「勝ち上がった者同士ではなく、各試合、各陣営ランダムで数字を選び試合を行う」と言い渡された。つまりただのトーナメント戦というわけではないらしい。このまま進んで行っていれば、尚無鏡は大剣使いと、魏君は承影と準決勝で当たることになるが、今回のランダム選出でどうなるかわからない。
◇
ランダム選出によって尚無鏡も魏君も共に注目していた選手には当たることなく、苦戦を強いられることもなく二回戦を突破することができた。それはもちろん、あの大剣使いも承影も同様だった。試合を観戦していた飛川も承影の力の根源までを認識することはできず、次の三回戦で魏君に当たることを願っている。情報の分析は早いに越したことはないので尚無鏡も魏君もそう思っていた。とは言っても、魏君は端から負ける気はないとのことだった。
次に控え室に集められた時、人数の減りに多少驚いてしまう。始めに32名居た選手は二回の試合を経て8名にまで減少していた。人数が少なくなった故に、控え室に走る殺戮の稲妻はより伝わってくる。するとスタッフが控え室へと入ってきた。
私と戦う人物は三人。その中には魏君と共に怪しいとマーキングしていた大剣使いが居る。
「それでは、『1』と『13』の選手は舞台へと上がってください!」
どうやら三回戦からは一組ずつ戦うようで、これから舞台で戦うのは、私とこの大剣使いらしい。呼ばれた我々は、スタッフが入ってきた扉へと向かい、薄暗い廊下をカツカツと歩いて行く。
やがて光と共に、試合を待ち侘びていた観客の歓声を浴びせられた。四つあった舞台は一つに纏められており、今まで試合をしていた舞台より多少広くなっている。縦横無尽に駆け回れるほどではないが、今までよりかは戦術を広げられそうだと尚無鏡は感じた。
互いに舞台に上がり、従来通りここで対戦選手の名前を耳にする。あの大剣使いの大男の名前は扶寒輝。自身よりも倍近い身長を持ち、それは剣も同様であった。互いに自身の剣を抜く。こちらは青白い輝きを誇る氷のような剣。対して扶寒輝の大剣は、剣身はとても分厚く簡素だが鍔や柄の部分には剣には似つかわしくないほど装飾が施されていた。観客席からとは違い、それはより鮮明に確認できる。だが、何かの違和感が尚無鏡に迸ったが、そろそろ試合が始まろうとした雰囲気を漂わせていたので一度脳から退かした。
両者は剣を構え、歓声に満ちていた会場にやがて静寂が訪れ、開始を宣言する銅鑼を待っている。瞬刻、その静寂を吹き飛ばすように銅鑼がグワァン!と鳴らされた。
「リャァ──────!」
裂帛と共に扶寒輝は構えた大剣を思い切り振り下ろし、上段斬りが尚無鏡の脳天目掛けて迫り来る。迫る刹那、時を止めるかのようにして状況を確認する。構えも握りも至って怪しい部分は存在しない。筋肉と体重を乗せた、変哲もない上段斬りだと把握する。ならば、
「──────────」
ガキィィン!と甲高い金属音を響かせながら、扶寒輝の大剣を冷淵で受け止めた。その時に走った途轍もない衝撃に耐えながら、ギギギと二つの剣が噛みつき合っている。これ以上睨み合っても仕方がない。タイミングを見計らって剣を逸らし、追撃を狙う。
ここだ──────!と思考を迸らせて、足を後方に、体を捻る。振り下ろさせた大剣は前へと進み止まらない。前のめりになった扶寒輝の体目掛け、尚無鏡は右に斬り払う。瞬間、目前に少量の鮮血が舞う。尚無鏡は二回の試合を経て、『できれば武器破壊か場外での決着』という雑念を捨て切った。
「グ──────ラアァ!」
だが、やはり傷は浅く大男の扶寒輝にとっては微かなダメージでしかなく、すぐさま反撃の一撃を放ってきた。その大振りは剣で防ぐ余裕もなく、足に力を込めて後退する。戦う舞台が広くなったメリットを活かす。
呼吸を整え、剣尖を前に、眼前の敵を睨む。されど、その眼光は向こうも同様。途端、まるで再び合図が鳴ったかの如く、二人は同時に前進する。尚無鏡は弦を引くかのようにして右腕を後ろに引き、白い切先を叩き込もうとしている。けれど、今度の扶寒輝は何か違った。まるで投げられたボールを打ち返すように構え、水平斬りを行おうとしていた彼はどこか違和感があった。
そう、観客席でも見ていたあの独特の振り方だ。片方の手を捻った不思議な大振り。尚無鏡は前進を止めて引いた右腕を畳み、防御態勢に入る。理由は単純だ。この二人の一撃は、ほぼ同時に命中する。けれど、こちらは突きに対してあちらは水平斬り。片手剣と両手剣。体格も倍近く離れている。それに加え、正体不明の振り方による高威力の斬撃が迫る。それらを考えた上で、至った答えがこれだというわけだ。
暴風を纏った水平斬りが尚無鏡の握る剣に接触する。須臾、
「!?──────」
無気力でリボルバーを撃った腕かのように、一撃に接触した剣と体は思い切り後方へと持っていかれた。しっかりと体全体に力を入れていたのにも拘わらずだ。舞台が広くなっていなければとうに場外で敗北していただろう。扶寒輝の二回戦も、この強烈な一撃によって選手が場外となり勝利を収めた。
「チィッ!」
場外にならなかった事に納得がいかなかったか、こちらにも聞こえるほどの舌打ちを響かせた。
腕の痺れを感じながらも、先ほど受けた一撃を分析する。
初めに振り下ろされた一撃とは似て非なるものだった。まるで扶寒輝が二人居て、同時に攻撃されたようなそんな感覚が伝わってきた。
二重の衝撃。この分析の時間を利用して、試合が始まる直前に抱いていたが退かしていた違和感を思い返す。あの時に抱いていた違和感は、扶寒輝の大剣についてだ。控え室で目撃した帯革に納まっていた大剣と今手に持っている大剣を比べると、多少デザインは似ているがあんな装飾は施されていなかったし、あんなに刃も分厚くなかった。もっとシンプル且つコンパクトな感じだった。彼の技ばかり気にしていたので少し気付くのが遅かった。
だがまだ分析は必要。そう思った矢先に、扶寒輝がこちらに向かって大剣を叩き込もうとしてきた。そしてそれは例の──────
「ウリャァァ!」
「──────────!」
脳が必死に「この攻撃を受けたら終わる」と叫んでいるのを感じ、右側に跳んで回避する。その際、振り下ろされた大剣を横から確認する。
この回避で、尚無鏡は確信した。あの剣には、細工が施されていることに。だが、一体いつから、そしてどこで。
横に跳んだ体は一回転し、低姿勢で着地する。自分の元居た場所にはクレーターができており、危うく斬り潰されるところだった。思考を巡らせる。必ずどこかにヒントが隠されているはずだ。それまでは牽制と回避を繰り返すしかない。体で受けても剣で受けても、あの大剣の前では粉砕される未来しかないだろう。
左手を前に、自身に眠る緋を巡らせる。掌に現れる火の玉は、いつ放たれてもいいようにスタンバイしている。狙いを定めて火炎を放つ。主を飛び出した炎の玉は無事に彼に命中した─────と思ったが、それは分厚い大剣によって防がれていた。
「フン、安っぽい技だな」
確かに安っぽい。これは牽制でしかないのだから。もっと火力を込めた術色を放つことはできるが、溜めに時間が掛かる故にこの制限された舞台ではそんな無防備な姿を晒すわけにはいかない。炎の斬撃も同様。すぐに距離を詰められるこの舞台では意味がない。
煙る残り火を大剣で振り払い、切先をこちらに向けて突撃してくる。突進攻撃ならば、あの攻撃は来ないと読み、こちらも全力で斬りかかる。私の体を剣尖が捉えたか、もの凄い勢いで大剣の切先が迫る。刹那、その穿つ剣をスレスレで回避し、扶寒輝の右脇腹に向かって水平斬りを見舞う。
斬られた箇所からブシャッと血潮が放たれ、尚無鏡はそのままの勢いで背中側に回り込み更なる攻撃を与えようとしたその時だった。
ある二つのことが目に入ってきた。
一つ目は、彼の背中にあったマーク。彼は背中に剣を携えていたのでここで初めて確認することができた。観客席からも彼の背中は見ることができたが、ここまではっきりとは映らなかった。
そして二つ目は、突進攻撃を回避されてからのリカバリー。例の強烈な薙ぎ払いが起ころうとしていたことだ。
攻撃の手を止めてすぐさま防御姿勢に入った尚無鏡は、間一髪のところでガードすることができた。しかし、その衝撃は凄まじく、今度は場外に吹き飛ぶほどの威力であった。
「くっ────────!」
尚無鏡は剣を地面に突き立て、ガリガリと音を立てて徐々に減速していく。やがて後退する体は止まり、確認すると踵が舞台からはみ出ていることがわかった。場外に吹き飛ばされなくて良かったと安堵の息を吐いた後、反対側に居る扶寒輝を睨む。
───────分析は完了した。
「落ちなかったか」
「ええ、凄く危なかった。私が落ちたら、剣に細工したあんたがまた勝っちゃうことになるからね」
その言葉に扶寒輝の眉に皺が現れ、聞いていた観客は一斉にどよめき出す。扶寒輝は尚無鏡に向かって声を張って言ってきた。
「細工?バカ言うなよ女。俺の力に圧倒されて出た言い訳がそれか?笑わせるぜ!」
「ならその笑い、無くしてあげる」




