表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仙華頌籟 -A fateful reunion beyond a millennium-  作者: 織葉りんご
第一部 第二章 約束の蒼炎
47/155

47話 飲まれる双星、託された火

 着々と陣に力が集められ、光の玉が大きくなってゆく。シャン無鏡ウージン達も力を献上し、助力に勤しむ。最中、あることに気が付いた。先ほどまで居た国主の姿が無い。弓を天に掲げながら辺りを見渡す。

 ターコイズブルーの髪を持つ長身の男。見逃すはずは無い。

 瞬間。


「グオオオォォォ!」


 冥淚玄武はこちらに向かって咆哮する。その咆哮は全てを破るかのようで、聴覚のみならず視覚すらも壊しかねないほどの爆音だった。

 それが狼煙か、冥淚玄武は右前足を大きく上げた。その様子を見たウェイイーファンは、手前に生成された巨大な光の玉を迅速に光る四角いへと変形させた。


「防大方術、展開──────!」


 今度は防大方術か。名前の通り、さっきの仕組みで構成された防御方術のようだ。

 主の声に応じ、光の四角形は視界を覆うほど巨大な壁となった。その刹那、大地が悲鳴を上げた。おおよそ5秒間耐えたか、本当に僅かな時間で巨大な壁は破壊された。目の前に景色が広がる。


「───────────」


 先の景色は、終末だった。地面は割れて、周りの木々は薙ぎ倒されている光景が広がっていた。あの白い壁があったから短日国は守られたが、もしあれを展開できていなければ────────


 いや、それよりも、玄武のたった一回の足踏みで辺り一面は崩壊間近と化した。仙界の将軍等は、このレベルの敵を相手に一人で……。正直考えられない。考えられないほどに、あの怪物の強さが異次元なのだ。


 終焉の眼差しか、冥淚玄武はこちらを睨む。こちらの体力も限界。あの玄武が手下などを召喚して来ないことのみが幸いだった。

 されど、光はここに。


「よし、準備完了っと」


 意気揚々と声を上げたのは、先ほどまでここに居なかった短日国の国主・チャンシィだった。けれど服装が違う。上は一枚、下はバギーパンツのようにゆとりがある。


「国主!どこ行ってたんですか!」

 とチャンシィに向かってウェイイーファンは叫んだ。

「ちょっと着替えてきたんだ」

「それは見たらわかりますけど…って、着替えてきたとか悠長なこと言ってる場合ですか!こっちは──────」

「わかってる。だから着替えてきたんだ」

 辺りに緊張が走る。

「さっきの一撃で傷一つ付かないことは理解した。おそらくあいつの外側は非常に硬い。あの甲羅、あの皮膚。何も攻撃を通さないんだろ」

「では一体……」

「ボクが、玄武の腹の中に入る。衛団は防御に徹してくれ」


 辺りがざわめく。無理もない。人類最強の男、この場の光が、あの怪物の腹に入ると言っているのだ。皆彼を信頼している。だからこそ、そのベットはあまりにも重すぎる。

 されどチップは止まらない。


「本当に、行くんですか?」

「ああ、もちろん。だけどもし帰って来なかったら、代理国主として事の顛末を整理し、皆に報告しておいてくれ」

「国主──────」

 侵入は一瞬できる隙の時に行う。おそらく次の咆哮が合図か。


「何かとんでもない事になってるね」

 と、シャン無鏡ウージンの背後からよく知っている声が聞こえてきた。振り返るとそこには途中どこかに行ってしまった彼が居た。


バンシン!どこ行ってたの!?」

「ちょっと用事があってね。はいこれプレゼント」

 そう言ってバンシンは青い炎を私にくれた。

「これは?」

「これから僕もあの玄武の体内に入る。彼と一緒に体内から砂塵を起こすから、その炎を使って弓で撃って欲しい」

 尚無鏡シャンウージンに嫌な予感が走る。砂塵、そして青い炎、まさか──────

「ダメ!絶対にダメ」

「どうして?」

「危なすぎる!もし二人とも死んじゃったら私、責任なんて──────」

「大丈夫。僕はまた、君の前に現れるさ。もちろん国主も。別に信じなくてもいい。でも、帰ってくるという約束だけはさせてくれ」

 そこまで言うのなら、何か策があるのだろう。彼の目をぢっと見て、いってらっしゃいと頷く。それに微笑みで返すバンシンは、くるりと体の向きを変える。

 瞬間。


「来た!咆哮だ!」


 スタートの合図が鳴らされた。チャンシィバンシンは別々に高速のスタートを切って、玄武の口の中に入って行った。


「今の……」

「もしかしてバンシンさん?」

「───うん。彼も玄武の中に入るって。そしてこれを……」


 三人はその青い炎を見て首をかしげる。ムーイェンは「少し前に見たことあるけど、こんな濃い色ではなかった」と言っていた。

 尚無鏡シャンウージンは揺らめく青い炎を落とさないように気を付けながら将軍の元に駆け寄る。


「大丈夫かな、国主」

「それよりも、私の仲間から聞いた作戦が凄く心配なんです」

「どういう作戦?」

「僕と国主で砂塵を起こすから、この青い炎を弓で撃ってほしいって」

「それってつまり、粉塵爆発を起こすってこと────?」




                  ◆




「まさか、ボクの他にもう一人お客さんが来るとはね」

「そのお土産に、良い策を持ってきましたよ」


 玄武の腹の中に居るとは思えないほどに空気が軽かった。この胃袋とも言えない謎の空間で座りながらバンシンチャンシィが会話する。


「そのお土産ってなんだい?」

「これですよ」

 バンシンは懐からシャン無鏡ウージンに渡したのと瓜二つの青い炎を取り出した。

「これは?」

「協力者ってところですかね。仲間のシャン無鏡ウージンにこれと同じ炎を渡しています。これはそのもう一つの炎が起こす事象を共有することができる。そしてこれから僕達は協力して、冥淚玄武の周りに砂塵を巻き起こす」

「なるほどね。その青い炎で、外で起こる粉塵爆発を腹の中でも起こすって寸法ね。考えたね」


 よっと声を漏らしてチャンシィが立ち上がる。真っ黒が続く天井を見上げながら続ける。


「恥ずかしい話、実は無策でね。何とかなるかな~ってここに来たんだ。でも良かった、君がここに来てくれて」

「最強でも、弱音は吐くんですね」

「もちろんだとも。強いのは外側だけさ─────それはそれとして、一体どうやって彼女とタイミングを合わせるんだ?」


 チャンシィバンシンにそう尋ねる。すると、崩星バンシンから返ってきた答えはなかなかのものだった。


「次の玄武が攻撃した時に僕達で砂塵を起こすのが彼女への合図です。おそらく、衛団の体力的にも防大方術を展開できるのは次で最後だろうから、この一回に賭けるしかないってのが少し怖いところですけど」

「まぁ、無策で何も突破口を見つけられぬまま死ぬよりかは、全然良いさ。投げる時は投げるって言えよ?防御に回るのが遅れたら堪ったもんじゃない」


 瞬刻。

「グルアアァァァァ──────!」

 と冥淚玄武が咆哮を上げた。体内に居るので、外よりも大きく聞こえる。


 来たか……バンシンの方へ眼を向ける。

「やりましょう──────」

「──────だね。頼りにしてるよ」

「それ、僕のセリフですよ」


 二人の居る空間が大きく揺れる。外の状況は確認できないが、おそらく足を思い切り叩き付けて地割れ攻撃を行ったのだろう。いや、そうであってくれなければ計算が狂ってしまう。

 そう強く願いながら、バンシンは掌を下に付け地面の流れを探る。流石はつちの力を司る脅威、冥淚玄武。ここからでも大地の鼓動を感じることができる。


 集中する。

 これは今までとは違う。自分だけならどうとでもなるが、今は沢山の命が懸かっているのだ。失敗は、決して許されない。


「────────────」

 玄武が割った地面をさらに細かく、より辺りに舞うように術色を流し込む。

「お願いします!」

「はっ!任されよぅ!」


 手中に生成した風の玉を、思い切り握り潰す。玄武の周りで暴風が起きているのが腹の中に居ても聞こえてくる。

 あとは、アージンがいつ撃ってくるかだ。ここを外してしまえば、この国は終わってしまうだろう。精神を研ぎ澄ます。暴風の奥から聞こえてくるであろう業炎の音を逃さないように。

 いつだ。


「──────────」


 生唾を飲む。

 刹那、右手に持っていた青い炎が肥大化し、火花を散らし始めた。その弾け上がった炎を信じて、バンシンは前方へ投げ込んだ。



 俺のせいだ。

 俺が、あの石板を壊していれば、民は争わず、こんな怪物が外に出ることもなかったのに。

 たかが一目惚れで、あの方にも迷惑を掛けちまった。それが何であるかもわからずに爆弾のスイッチを持ち続けた阿呆。

 届きましたか、俺のケジメ。最期のフラッシュオーバー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ