43話 解かれる封印、千年長寿顕現
「うおおおぉぉぉぉ!負けるなお前等ああぁぁぁぁ!」
「「はいいぃぃぃぃぃぃ!」」
轟音にも匹敵するその声は、かの風に拮抗するほどであった。
「くっ…、流石にこの人数は──────」
組織の行く手を阻むために、一人この場所に残った陳湛は扇を何度も振るい、巨大な風を起こし続けていた。しかし、それも限界が近づいている。10分程度の時間、休まずに最大出力で術色を使用し続けている故無理はない。
途端、視界が揺らぐ。
ダメ…仙華様達が石板を取り返すまでは、何とか──────
「ガハハッ!女一人に負ける我々ではないわぁ!」
限界のガラスに罅が入って行く。
刹那。
「陳湛!風の向きを上に変更してくれ!」
その声の主を確認することなくそれに従う。何故なら、嫌いな声だからである。向かい風から上昇気流へ。瞬間、彼等の足元の地面が思い切り上に上がった。組織はそのまま風に乗り、やがて向こうに見える海に落ちて行った。その途中、情けない悲鳴が幾つも重なり、次第に遠のいていった。彼等が無事かどうかは、短日衛団に任せるとしよう。一応解決できたとはいえ、あの大群をこのまま引き連れていたらどうなっていたか…
それはそれとして、地面を上に上げる、あの芸当ができるのは黄の術色で範囲術を扱える者しかいない。
「結構大変そうだったね」
崩星だ。
「何でこっちに来たんですか?」
「色々あってね。最後の石板も泥棒に盗まれた」
「そうなんですか。こちらも解決しましたし、あちらに向かいましょう」
「そうだね、早くしないと泥棒が扉を開けてしまう──────」
◆
「りょぽぽぽ~!このまま昇るッピ!」
「クソ!あいつ足速すぎだろ!」
「流石は泥棒ね、逃げ足だけはいっちょ前──────」
寧寧の後を追うように尚無鏡達は続くが、確認できるのは遠のいていく声だけで、姿は点も見えない程。体力はまだ余っているが、だからといって速度が向上するというわけではない。
一挙手一投足。曲がりくねった山道、湿った土を懸命に蹴る。その際、尚無鏡の頭に過る。陳湛が居ればひとっ飛びだったろうと。だが、陳湛があそこに残ってくれたから、後ろを気にせずに追えているのだろうと。
────────────
そしてついに、寧寧は封宝堂の扉の前にたどり着いてしまった。封宝堂の扉は地面に面しており、言ってしまえばこの山自体が封宝堂ということだ。元は建物があったらしいが地盤沈下により沈み、やがて山と一体化してしまったらしい。だが、そうなってしまったとて依然役割は変わらず果たしている。しかしついに、それは破られる。
「千年長寿~。もっといっぱい盗みたい~。温帆寧に並ぶ~大泥棒にオレちゃまはなる~」
余裕綽々と歌いながら割れた石板を一つずつはめていく。そして最後の三つ目をはめた瞬間に尚無鏡達が追いついた。今捕まえたとて、既に扉を開く条件は満たされている。それを理解しているのか、寧寧の傍には誰も近づくことなく、遠くから見ているだけ。
「遅かったか…!」
扉の隙間から光が漏れる。数多の柱となりて、千年の扉が開かれる──────
バンッ!と巨大な音を出して、勢いよく開かれた。
「キタキタキタ~!千年長寿ぅぅぅぅぅ!!!!!」
両手を掲げ、天を仰ぐ。その時、寧寧の目には何かが映っていた。
「ひょ?」
影だ。
しかもその影は次第に迫ってくる。どこかで見たことある形だ。しかし、それを思い出した頃には、彼の命はこの世になく、体は原型など留めていなかった。
「下がって!」
その影が落ちてくると気付いた巍儀芳は咄嗟に叫んだ。それに皆は対応し、その影に潰されることは無かった。木々を押しつぶし砂煙が上がる。
「な、何…あれ──────」
煙の奥でもわかるほどの巨大さ。すると、尚無鏡の後ろで木煙が声を漏らす。
「なんで…こいつが……」
「ねぇ木煙、あれは何?」
その問いに、木煙は声を震わせて答えた。
「あ、あれは…現在の北将軍である駟昧様が将軍になる前に倒したはずの、四大霊獣の一角・冥淚玄武です──────!」
「ええ!?なんでそんなものが……!」
「僕にもわかりません──────」
四大霊獣。
それは嘗て天上に存在した仙界の脅威。それを討伐した者は、仙界を統治するほどの力を有すると言われている。将軍と肩を並べる者となる条件として、霊獣という強大な力を持った獣の討伐が絶対とされている。しかしこの四大霊獣はそれの上位互換。討伐した者に力が与えられ、その四大霊獣と一心同体となる。故に討伐した者が死すれば、魂は再び元の場所に戻り、再び姿を現す。
ならば何故、その四大霊獣の一角がここに居るのか。駟昧様が死んだのか?否、それであればとんでもない事。すぐ仙界から連絡が来るはずだ。しかもここは人界であり仙界ではない。一体、どういう事なんだ…。
◆
仙界、帝央殿にて──────
キィと扉を開ける音が、中央の室内に響く。到着したこの時には既に他の将軍が全員揃っていた。
「あら、早いのね」
「まさか、話をしなければならない者が最後に到着するとは…」
「ん?なに?話って」
そういう駟昧に、燃微が近づきながら書を開き、現在の人界の様子を彼女に見せた。
「これが、話さなければいけない内容だ」
それを一目見た駟昧は、目を見開きながら驚愕した。
「はぁ!?何でコイツが復活してるのよ!なに?もしかして私のことを疑ってるの?」
「もちろんです。だって冥淚玄武を倒したのはアナタではないですか。そもそも、あの封宝堂という扉についても聞きたいのですが──────」
晁薜が言い終わる前に、駟昧によって言葉を遮られる。
「知らないわよ。何で復活したかも、話に出てきた扉も、何も知らないんだって!死界で何かあったんじゃないの?」
「ならば、俺が死界に行って見て来よう。そっちの方が早いだろう」
と、雨晩が言い放った。しかし彼にはその手段がない、と思ったがすぐに答えが出てきてくれた。
「燃微、魔杯を貸してくれないか?」
そう言われた燃微は溜め息交じりに答えた。
「あまり気軽に使う物ではないのだがなぁ…だが今回ばかりは致し方ないだろう。死界に異常があった場合、人界へ影響が考えられる。悪の芽は取らなければならないからな」
言い終わると燃微は懐から細長い杯を出した。そしてそれを傾けて、空の杯から水を垂らす。地に着いた水がどんどんと広がっていき、やがてそれは人一人入れるほどの穴と化した。
燃微の持つ魔杯・青龍は、下に水を垂らすことで空間転移の門を作ることができる能力を持つ。雨晩はその穴に近づいて「それでは、行ってくる」と告げて入って行った。
「では我々三人は人界へ降りて、冥淚玄武の討伐を──────」
「その必要はありません」
燃微の言葉を晁薜が遮った。立ち上がる様子もなく、背もたれに寄りかかり足を組みながらそう言った。
「どういうこと?あれは放置するって言いたいの?」
「放置?いいえ、そんなことをするわけがないでしょう」
「じゃあ、どういう──────」
「人界には、尚無鏡が居ます」
「尚無鏡………あぁ、あの罪人のことか。だがそれでどうなるというの?」
「おそらくこの事態を見て、国主も向かわざるを得ません。嘗て『破壊』の鬼将を追い詰めた仙人と人類最強の人間、そしてその仲間達─────我々が出向くまでもありません」
晁薜の言った言葉に燃微も口を開いた。
「その判断、信じて良いのだな?」
「ええ、もちろん」
その答えに、燃微は自分の椅子に座った。同時に駟昧へと声を掛けた。しかし彼女は「いい、自分の所に戻る」と言って帝央殿を去ってしまった。
直後。
「どう思いますか?」
と晁薜が問いかけてきた。
「完璧な白とは言えない。寧ろ黒寄りと見ている…最終的な結論は、雨晩が戻ってからだがな」
「そうですね──────」




