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仙華頌籟 -A fateful reunion beyond a millennium-  作者: 織葉りんご
第一部 序章 再び回り出した歯車
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2話 謎の少年、妖血歩団

 ん?石蔵が?破壊された?

 いやいや、そんなことあるわけがない。あの石蔵は将軍はもちろん、幕下並みの力が無ければ破壊はできない物なんだぞ?


『自然に倒壊したとは思えない壊れ方と轟音。誰かが破壊したとしか思えません。その件があるが故に貴方の手伝いをする武官の到着がさらに遅れる可能性が高いです。もしかすれば合流は少し遅くなるかもしれません。道中お気を付けて』


 通筆書から声が聞こえなくなる。何やら割ととんでもない事が仙界で起こったらしい。けれど、今は自分の事に集中しなければならない。仙声せんせいも底の底。他人に協力を頼まなければならないほど。三人の武官が到着するまで極力厄介事は避けないと。


 しばらく風を受け続けていると、だんだんと地面が近づいてきた。だがそれは山道。奥に冰有国がある。

 そう、着地地点がズレている。考えられる原因としては、あの亀裂を避けようと体の向きを変えたからだろう。それ以外思いつかない。

 だが考えてる暇は無く、そろそろ着地する姿勢をとらないと頭から突き刺さることになる。それだけは避けたい。


 体を回して足を下に向ける。迫る地面に合わせて膝を曲げ、衝撃を吸収する。着地自体は無事にできた。が、やはり感覚だけでなく身も衰えているようだった。少し足が痺れている。歩くことはできるが、ここから冰有国まで歩くとなると少々気が遠くなる。

 歩き出そうとした瞬間、後ろから声か聞こえる。


「そこの小姑娘おじょうさん。こんな山道で何やってるの?獣に襲われても知らないよ」


 振り向くとそこには牛車に乗った黒衣の少年が居た。握る手綱を巧みに使い荷車を引く牛を止める。

 実年齢はわからないが見た目から推測するに十七、八歳ぐらいだろう。顔立ちはしっかりしているが、どこかまだ幼さが抜けていない。


「その服を見るからに、小姑娘おじょうさんは道士なのかな?」


 仙界の禁忌の一つに『自身が仙界の使者であると人界の民に明かしてはならない』というものがある。人界に降りた以上、自分の身分は偽らなくてはならない。この少年が私の姿を見て道士だというのなら、人界での身分は道士ということにしておこう。


「まぁ、そんなところだね」

「道士様がどうしてこんな山道を?」

「えーっと、冰有国にちょっと用事があってここを歩いていたんだ」


 濁すように言葉を並べる。

 それを聞いた少年は微笑みながら私に話す。


「乗り物は?もしかして歩くのも修行の一つ?それなら邪魔はしないし、もし歩くのが修行でないのなら荷車に乗りなよ。丁度僕も冰有国に用事があるんだ」


 人界に降りて早々幸運が舞い降りた。移動に便利な牛車。優しい少年。この仙声集めの旅の始まりは少々恵まれすぎているかもしれない。故その後が少し不穏だ。このまま何も起きないでくれ。


 シャン無鏡ウージンは小さく頭を下げ、荷車に乗り込んだ。乗り込んだことを確認した少年は再び手綱を巧みに使って牛を動かす。荷車には箱と藁が乗せてあり、私はその藁の山に寄りかかった。



                  

                  ◆




 数分経って少年が道中の暇つぶしに何か話でもしないかと尋ねてきた。特に何もすることなく黙っていられるわけもないのでもちろん承諾した。


「道士様は何をしに冰有国に行くの?」

「詳しいことはよくわからないんだけど、最近冰有国が何か不穏な空気を漂わせてる気がして………修行がてら代わりに見に行ってきてって言われてさ」


 すると少年は、聞いたこともない単語を口にした。


「それって多分、ようけつ歩団ほだんの件じゃないのかい?」

「妖血歩団…?それって、何?」

「妖鬼の集団の名前さ。でもただの妖鬼じゃない。そいつ等は体が青ではなく赤、さらには食らうのは肉ではなく血液。血を啜りに夜灯を持って群れで歩くことからこの名が名付けられたそうだ。近頃は冰有国付近に留まり、脅かしているらしい」


 一般的な肉を食う青い妖鬼とは異なり、体は赤く血をくらう。故に、血や肉が散乱することは無く被害を受けた人の発見がかなり困難となる。妖鬼退治に秀でた者が居ても対処は難しそうだ。極めつけは集団行動。本来妖鬼は単独行動をする習性がある。一緒に居れば、同族であろうが食い殺す怪物なのだ。それが集団とは。相当特殊な存在なのだろう。

 寄りかかったばかりの藁の山から起きて、少年の近くまで行く。


「君はその妖鬼の集団のことをよく知ってるの?」


 興味津々に少年に問いかける。少年は応じる。


「そうだよ。だから何でも聞いて。でも全知全能じゃないから答えられる範囲は決まっているけど」


 それでも十分だ。

 聞きたいことは色々ある。だが初対面の人に図々しく質問攻めをするのは失礼極まりない。きちんと頭の中で整理して面倒くさがられないよう質問する。


「その妖血歩団には長みたいな奴は居るの?」

「居るよ。聞いた名前は確か、チウハーと言ったかな。最近はそいつの名前をよく聞く」


 チウハー。聞き馴染みのある名前だ。確かしょうこくで同名の人物がいた気がする。だが所詮は妖鬼。偽名でもなんでも使うだろう。過去に居た彼と同一人物とは限らない。だが、


「最近?」

「ああ、最近だ。そもそも妖血歩団の存在自体が最近だ。昔から血を啜る赤い鬼の噂はあったんだけど結局は噂だった。だけど最近になってただの噂でしかなかった赤い鬼の目撃情報が多発。それでその名が付けられた。チウハーは高笑いして自分で名乗ったそうだ。人伝だから必ずそうだったとは言えないけど」


 昔からの噂。 千年前あのとき、そんな噂を耳にしたという記憶が無い。これは間違いなく言える。彼は知っているだろうか。他の質問を退けてダメ元で聞いてみることにした。


「昔からの噂って、いつぐらい昔なの?」

「僕も正確にはわからない。でもかなり昔かららしい。十数年とか数十年とかじゃなく、数百年単位だそうだ」


 数百年単位と聞いてシャン無鏡ウージンは眉をひそめる。

 自意識過剰かもしれないが、それぐらい昔の話なら私が関係している可能性もあるということだ。千年前にあんなことが起こっているんだ。考えたくはないが、その怨念が募った民達が妖鬼となり、血を求め彷徨い歩いていてもおかしくはない。

 しかし世間全てを知っているわけじゃない。私が罰を受けている間に誰かが禁忌を犯して人界に影響を及ぼしている可能性だってある。一旦、可能性達を脳の奥に仕舞い、シャン無鏡ウージンは質問を続ける。


「奴等の目的とかは?」

「残念ながらそれもわからない。まぁ他の妖鬼同様に腹を満たすために殺しているんだと思うけど」

「そっか…じゃあ妖血歩団の規模はわかる?」

「それならわかる。でも正確じゃない。ざっと数えて二十くらいだった」


 二十と聞いて想像していたより少なすぎると感じるが、その考えは間違いだ。通常の妖鬼とは異なる習性を持つ。十分に解明されていない妖鬼が束になってかかってくるとなると全体の数が二十でも恐ろしい。対峙する際は慎重に行かなければならない。


 険しい顔をしているとふとあることが頭を過ぎる。

 こんなに話しているのにまだお互い名前を知らない。先に聞くべき内容が飛んでしまっていた。尚無鏡シャンウージンは彼に申し訳なさそうに問う。


「そういえば、君の名前を聞いてなかったね。何て言うの?」

「名前?」


 少年は少し間を置いた後、シャン無鏡ウージンの目を見て答えた。


「─────名前はバンシンだ」


 彼が言った名前を何度か口の中で転がした。変わった名前ではあるが転がしていく内にしっくり来た。


「私は性がシャン、名が無鏡ウージンの二文字」


 互いにやっとの自己紹介を済ませた。

 その後も二人の話は尽きず、西寄りに傾いていた青空の太陽は、空を橙色へと染め上げながら山の奥へ潜ろうとしていた。

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― 新着の感想 ―
非常に練り込まれた中華ファンタジーですね。 緻密な文章&設定なので読む方にも熱量を求められますが、 書き手はもっと大変かつ熱量が求められるでしょうね。 とても伸びしろのある作品だと思います。
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