たぬきの見つけたちいさなタネ
むかしむかし、ある所にたぬきが住んでおりました。たぬきはある日、小さなタネを拾いました。
このタネ、埋めたら大きくなるかな?たぬきはタネを土に埋めることにしました。
数日後、たぬきが気になって見に行くと小さな芽が出ていました。
たぬきはよろこびました。もっと、もっとおっきくなるかな?
たぬきはわくわくしてその芽が伸びていくようすを毎日毎日見届けました。
芽は苗になり、幹になり、たくさんの実がなりました。
たぬきは大喜びです。みんなの食べるぶん、あるかな?
たぬきはその実をひとりじめしようとは思いませんでした。自分が育てた実だからこそみんなで食べてほしかったのです。
するとそこにお腹を空かせたオオカミがやってきました。
いいもんあるじゃねえか、この実は全部オレのもんだ!
たぬきはオオカミが怖くてたまりません。オオカミは言いました。
なんだお前、お前がこの実の持ち主だってのか?
たぬきは怖くて怖くて体が震えていましたが、精一杯の大声で言いました。
ぼくのものじゃなくていいけど、あなたのものではないハズです!
なんだとこいつ!それならお前から食べてやろうか!
オオカミはたぬきにめがけ飛び掛かりました。
するどい牙が鈍くひかり今にもたぬきの喉元に喰らいつきそうになった、その時です!
黄色く赤く熟したたくさんの実がパァァン!!という炸裂音とともに破裂しだしたのです。
破裂した実とともに、その中に詰まっていたタネが勢い良く飛び出し、オオカミに次々と突き刺さりました。
痛え!痛え!助けてくれ〜!
オオカミはたまらず逃げ出しました。
たぬきはいったい何が起こったのかわかりませんでしたが、あたりを見わたすと育てた実がすべてなくなっていることに気が付きました。
たぬきはがっかりして頭を垂れました。せっかくここまで育ててきたのに……。
そこでふと、たぬきはあることに気が付きました。
地面にあの時の小さなタネが、そこらじゅうに、いっぱい、落ちているではありませんか。
たぬきはおおよろこびで駆け回りました。
これでもっともっともーっとみんなで分けて食べられるね!
「たぬきの見つけたちいさなタネ」
(注:ここからは蛇足です)
はい。この話にオオカミの団体からクレームが入りまして。
「我々はいつもこのような扱いを受けて大変迷惑している!このような差別的な扱いを受けることは耐え難き屈辱である!我々はこの作品に抗議する!」
とまあ、こんな感じのクレームでございまして……。
そんなこと言ってもだね、オオカミは古来からそのような扱いをされてきておる。じゃあ何かねキツネにでもしろと言うのかね、それこそキツネからまたクレームが来るではないか。
しかし、オオカミ達は一致団結して吠えてきておりますゆえ、早く何か対策を取らねば我々も食べられてしまうかもしれません。
それもそうか、何かちょうど良さそうな動物はいないのかね!?責任を負わせても何も問題ない悪役にピッタリの動物だよ!
ニンゲンなんてどうでしょうか、あの忌々しくひょろ長い四肢!ギョロギョロした目!不気味な毛の生え方!いかにもピッタリの悪役ではないでしょうか?
ニンゲンか、ニンゲンなら誰も文句は言うまい。これからの悪役はニンゲンにしよう。