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3.

 俺はそれから毎日毎日、ずっと考え続けた。

 

 ノエルは死ぬ。でも俺に何ができる?

 まだ親の庇護が必要な子供で、魔力もまだちゃんと使えなくて、どうしたらいい?

 いくら考えてもうまく考えられなくて、どうしよう、そればかりが頭の中でいっぱいだった。

 人が死ぬのがわかっていてスルーすることなんてできない。それが親しい人なら尚更だ。俺はどうにかノエルを救いたいと思っていた。だって、小さなノエルは家族から愛されて天使のようにかわいくて、俺の名前をいっぱい呼んでくれて。剣士ごっこするとかっこいい! って手放しに褒めてくれて。

 そんなノエルがいなくなるなんて、想像できなかったから。

 

 悶々としていたあくる日、俺はとあることを思い出した。

 なんでこれまで気づかなかったのか、俺ってばかじゃないのか? 俺には、ギフトがあるはずだ。どんなものか知らないけど、きっとなんかいい感じになるんじゃないか!?


「そうだよ、魔改造されたギフトがあるじゃんか!」


 ネズ公は、俺が世界を謳歌できるようなギフトって言っていた。俺が悪役令嬢に転生することもわかっていたはずで、そんな俺に嬉しいものをくれる……だろ? 普通、そうだよな!?

 ――でも、一つ問題があった。ギフトの内容の、確認の仕方がわからない。

 

 ゲームにはスキル判定システムがあった。子供が物事の判別がつくような7歳になったころ、神殿で等しく受けられる儀式で行われるものだ。

 スキルは、やっぱり誰もが持てるわけではない。ごく一部の人間に宿る、特別な力らしい。

 ほとんどの場合ささやかなものだ。でも時々、ちょっと特別なスキルを持つ子供が生まれる。植物に愛される緑の手とか、ラッキー体質、だとかだ。世界の命運を左右するようなスキルはないらしいけど、数百年に一人、神の声が聴こえる神の子とかが出現するんだってさ。ほんとかよ? って思っちまうよな。

 だが、残念ながら俺はまだ5歳だ。スキル判定を受けるにはあと2年もある。その前に、ノエルは死んでしまう……。

 

「なんでだよぉ、大事じゃんかぁ~」


 クソネズ公、大事なこと全然教えてくれてねーじゃん!

 俺は一生懸命、ない頭をひねりにひねって考えた。そうしてどうにか一つの答えに行きつく。

 

「もうこれしかねぇ。神殿に行って、神様(?)に頼み込むしか」


 実際のところ、スキル判定システムなんて何歳だって受けられるものだ。ただ、国の法律で7歳って決まっているだけで。


 スキル判定は祭司により特別な祈りの間で行われる。 

 祈りの間には神殿が祀る神の力が分けられた水盤があり、宿っているスキルが本人と祭司にだけ見え、その儀式の後はいつでも願えば自分の頭の中にスキルが浮かぶようになるんだ。

 祀る神とは、きっと神の眷属のことだ。眷属ならば交渉の余地があるに違いない。だって、そういうシステムがある以上、眷属にはそれを行使する権限があるってことだからな。

 祭司ってのは、神殿に身を捧げて修行した人の中から選ばれる偉い人なんだけど、まぁ俺だって創造神の子分に身を捧げたようなもんだしどうにかできるんじゃね(適当)? って思う。

 

「問題は神殿へ行く方法と、祈りの間へどうやって入るか……あと、これが一番問題だけど、眷属への交渉の仕方、だよなぁ」


 ひたすら頭を下げ続けるしかないなーなんて、その程度しか思いつかなかった。まぁ、とにかく当たって砕けろだ。だめなら次の手を考えよう。

 そうと決まればやることはシンプルだ。

 俺はノエルの家にまたまた遊びに行きこれでもかと歓待を受け、家まで送ってもらう道すがら、神殿で下ろしてもらえるように頼む。家族が迎えに来るからって嘘をついて帰ってもらい、祈りに来た人に紛れて入り込んだ神殿で暗くなるまで隠れることにした。まるで忍者かスネークか、思ったよりも簡単に祈りの場への潜入を成功させてしまった。こういう時、子供って小さいし便利だな。



 ……どのくらい経ったのか、ホウ、ホウと夜の鳥の声が聴こえた頃。

 

「やべっ、寝てた!」


 じゅるじゅるいう音で目が覚めた。うっかり出た声に今更だけど口を手のひらで覆ってみる。ウン、ぬるってる。

 よだれで濡れた頬を袖で拭い、手のひらはスカートにこすりつけておく。……辺りを窺う。しんとした夜の静けさは、場所の雰囲気と相まって、何とも言えない気持ちにさせる。


「誰も、いない、な」

 

 どきどきと高鳴る胸のコドウに突き動かされるように、水盤のある場所へとゆっくりと進んだ。

 水盤は水があふれて床へと消えて行く。どういう原理かさっぱりで、もうただの不思議水だ。

 

「はー、不思議だなぁ」


 水面は窓からそそぐ月明かりに照らされて、きらきらと輝いているように見えた。うん、これはキレイだ。

 

「よし。とりあえず祈ってみるか」


 ぼそりと呟く声が、不思議と響かず夜に霞んで消える。まるで誰かが握って隠してくれているみたいだ。

 

「ここは不思議部屋か?」


 きょろきょろと見回すけど、なんもない。どんな魔法だ。でも、これならだれにも見つからずに済みそうだ。

 脱線してしまいそうな自分を自分で叱咤し、背伸びして水盤を覗き込んだ。5歳の俺にはまだちょっと高いのだ。

 

(眷属様、寝てたら起きてよ。こんな時間に悪いって思うけど、俺もすげー切羽詰まってるの。お願い、俺のスキルを教えてくれ……クダサイ。俺は前世で神様の側仕えというやつを助けて、神様からトクベツなギフトをもらいました。それがどんなものなのか、知りたいです。それでなんとかして、ノエルのこと助けてやりたいんです)


 頼むから、そういう系のスキルであってくれ。

 頼むから、魔改造がいい感じに仕事していてくれ。

 だってアイツは、俺にいいようなギフトだって言ってくれた。

 お願いだから、あんな小さいノエルを、このまま死なせないで。

 ノエルママがきっとまた、一人で声を殺して泣いてしまうから。

 それはなんか嫌だよ。だから、どうか。

 

 その時、必死に閉じていた瞼の裏に、きらきらとした星が舞った気がした。

 

「……っ」

 

 びっくりして目を開けて水盤を覗き込むと、水の中がまるで宇宙みたいに黒く、そしてきらきらとしたものがたくさん光っては消えた。

 

「わ、すげぇ」


 初めて見る光景に思わず魅入る。たぶん、あんぐりと口を開けていたと思う。仕方ない、それくらいキレイだったんだ。

 

「あ」


 光っていたものが明滅して消え、水盤が元の水に戻ったころ。ふと、俺の頭の中で何かが浮かんだ。

 

「んん?」


 目、というか意識を凝らして集中し、浮かんだものを追う。すると、それははっきりと文字として浮かび上がった。

 

   レミ・アシャール(前世:九世の側仕えの救い人/創造神の養い子(じっけんたい)

    【エクストラスキル】

     ★「乙女の祈り」願いは光となり生涯に一人一度だけ力を与える

     ★「絶対領域(不可侵)・改」悪意ある者からの攻撃を受けずにその相手に不幸を返す

     ★「たった一つの愛・改」誰よりも愛される特別な一人になる

    【魔力】

     ☆魔力ブースト:対風属性

     ☆火属性強制使用(改)

  

 ………? いやなんか、突っ込むべきところがいくつかあるけども。

 

「……これ、もしかしてすげーやつじゃね?」


 エクストラスキルの『乙女の祈り』は、どうやらなんかすごそうな力に思える。しかも、ざっくりしすぎててどうにでも悪用できそうですらある。

 3つ目はすでに効力ねぇなって思ったけど、まぁ、それはいい。それよりも3つももらえていたことにびっくりしているし、ちょいちょい見える『改』の文字が笑える。

 古今東西、今も昔も、なんでかわからんけども願い事は1つか3つが王道だもんな! よしよし、ラッキー!!

 

「わはっ」


 俺はこらえきれなくなってつい笑い声を上げてしまう。いかんいかん、まだ朝まで見つかるわけにはいかねーんだ。

 

(眷属様が俺の頼みを聞いてくれたの? マジでサンキュー!)


 水面はもう静かになっていて、うんともすんとも言わない。相変わらずきらきら光っているだけだ。

 

「ねぇ、モル公と神様にもサンキューって伝えてくれる……?」


 ついでにそう言ってみる。やっぱり声は静かに消えていった。

 神様が俺にギフトをくれたから、俺はノエルを助けられるかもしれない。ただの悪役令嬢で死ぬだけの俺が人を助けられるとしたら、その俺自身の運命だって変えられるはずだ。

 その力を、神様もモル公もくれたんだ。

 なんでレミなんだって正直クサっていたけど、レミだからこそやれることってきっといっぱいあるんだって思えた。

 

 喉が渇いてしまったので、光っては消えて行く不思議水を少々いただきレミちゃんして、俺はまた、寝床に決めた場所へと戻る。

 まだまだ、考えることもやることもいっぱいあるんだから、まずは良く寝て、ここから出よう。全てはそれからだ。

 俺は急に目の前が拓けた気がして、いい気分で丸まって眠った。

 

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