第1章 1.獣人少女チロ
技術革新による商品の大量生産、物流の発達、それによる生活品質の向上。
ここは産業革命の恩恵によって近代文明が花開きつつある、とある世界だ。
だがこの世界には、理では説明が付かないある事象があった。
全体像は明らかに人間の身体にもかかわらず、そこに獣の耳と尾を持って生まれた存在…。
生物学的に獣人類と分類される、所謂 “獣人” が存在しているのだ。
彼らは人間と異なるその外見と特性故に、古くより下等な存在として扱われ続けて来た。
そんな獣人差別を象徴する一つの例が、北大陸内陸部に位置する大都市ライオス。
大陸全体の5分の2を占める、ルーベニア国の首都である。
他国をも跨いで南北に縦断する鉄道により、北部の山岳国家デリードからは鉱物資源の調達が、南部の港湾都市リベアへは商品物資の輸出入が可能で、この街は主に工業が盛んだ。
だがこのライオスが工業都市として栄える大きな要因…、それはこのような恵まれた地理条件や交通条件によるものだけではなかった。
何故ならば、この街は多くの獣人類を奴隷労働させることにより、工業都市としての競争力を誇っているからである。
ライオスで生まれ生きる獣人類は、奴隷として所有者に管理され、日々単純労働に勤しむ。
とはいえ、裏を返せばそれは街の産業を支える貴重な労働力ということでもあり、彼らに対する非道な扱いは法によって厳しく禁じられている。
また当の獣人たちも、頑張れば頑張っただけ僅かながらの褒賞がもらえるため、彼らはただ黙って日々課せられた労働を熟し続ける。
もちろん人間に逆らったところで、その末路は碌なものではないことは言うまでもない。
さて、ここはライオスの高級住宅地にあるとある屋敷。
この屋敷の主人の名はガルヴィン・リトレイン。
鉄道特需に乗ってここ十数年の間に一気に財を築いた、いわゆる成金である。
当然ながら、彼が経営している工場でも獣人奴隷たちを労働力として使っている。
またその一方で、それ以外にも屋敷では雑用係として彼らを使役していた。
さて今、敷地内の渡り廊下にいるのは、ややぶかぶかな給仕服を身に纏った小柄な少女。
少女は上半身が隠れてしまうほど大きな洗濯カゴを抱えており、その足取りは頼りない。
肩に付く長さの跳ね毛の黒髪に、琥珀色の円な瞳…。
だが彼女には、さらに髪色と同じ黒の猫耳と尻尾が生えていた。
無論それ以外は、愛らしいごく普通の幼い少女といったところだ。
するとその時…
「……!」
洗濯カゴで塞がれた前方視界の僅かな隙間から少女が見たもの…。
それは彼女の行手を遮るようにして立つ一人の女性だった。
年齢は30代半ばほどで、艶かしいブロンズの髪に端正な顔立ち。
淑やかさと凛々しさを併せ持ち、その佇まいからは育ちの良さが見て取れる。
「チロ、ちょっとこっちにいらっしゃい?」
女性は抑揚のない声で、『チロ』という名の獣人の少女を呼び付けた。
「は、はいっ…、おくさま…」
洗濯カゴをその場に置いて、大層不安な面持ちで女性の元へ向かうチロ。
「あ、あのぅ…、わたし…何か……」
何かしらの粗相をやらかしたと思い込み、『おくさま』と呼ぶ女性の前で声を震わすチロだったが……
「え…?」
不意にチロのエプロンのポケットに何かを忍ばせた女性。
「頂き物だけどクッキーよ。あとでみんなに見付からないように、こっそり食べなさい」
女性はチロの耳元でそう伝えると、一瞬の優しい笑みを残して去って行った。
(おくさま…。よーしっ、がんばろう!)
心機一転、再び重労働へと戻るチロ。
相も変わらずその足取りは危なっかしいが、彼女の尻尾は楽しそうにゆったりと揺れていた。
ところで、チロが『おくさま』と呼んでいた通り、この女性は主人ガルヴィンの妻セリーナである。
夫が獣人奴隷たちを下劣な存在として蔑む一方、彼女は彼らに対し “人” として敬意を持って接していた。
当然ながら、獣人差別が常識のこの世界では、むしろセリーナのような人格者が異端者だ。
それでも、妻の言動に対し夫ガルヴィンが何も言えないのは、彼女がこの街の最高権力者の三女だからに他ならない。
実のところガルヴィンの成功も、妻の実家のコネの力によるものが大きい。
さてこのセリーナだが、彼女は特にチロのことを目にかけ可愛がっていた。
その理由は、死の間際のチロの母親との主従を超えた盟約に他ならない。
『奥様…、どうかお願い…です……。チロのことを…どうか……』
『大丈夫よ、リオラ…。あの子のことは私に任せなさい』
5年前に38歳で亡くなったチロの母親リオラ。
辛い境遇でも決して笑顔を絶やさず、他人思いで獣人にもかかわらず頭の回転が早い、仲間たちから愛される女性だった。
獣人はその特性上、寿命が人間の半分程度しかない。
奴隷という身分で十分な医療を受けられないことを考えれば、むしろ長生きした方だろう。
また獣人類のもう一つの特徴として、第二次性徴期を過ぎると外見にそれほど変化が起きなくなる。
死の間際のリオラも、その見た目は20代前半のようだった。
こうして、リオラの娘への切実な想いを受け継いだセリーナ。
その関係は主人と奴隷に過ぎないが、それでも彼女はチロに菓子を分け与えたり、読み書きや勉強を教えたり、たまにお供として外出させたり……。
人目を忍びながら、母親代わりとしてチロに精一杯の愛情を注いだ。
といっても、流石にセリーナのチロへの贔屓ぶりは完全に隠し通せるものではない。
ただこの屋敷内でチロが唯一の子供であること、そして彼女自身の純朴な人柄もあって、不平の声は今のところは表立ってはいなかった。
ある日のこと、セリーナはチロを連れ立って街へ出ていた。
あくまでその名目は主人のお供であるが、普段屋敷の外に出ることが出来ないチロにとっては、この上なく楽しみな時間である。
そしてセリーナは、チロに給仕服ではなくゆとりのあるワンピースを、頭には深めの帽子を着用させ、彼女が獣人だと周りからバレないよう配慮していた。
「だいぶ人通りが増えて来たわね…。チロ、私の手をしっかり握ってなさい」
「え…、で、でも…わたしなんかがおくさまの手を……」
「もうっ、何つべこべ言ってるの? あなた人混みに慣れてないでしょ?、迷子になっちゃうわよ。ほらっ」
「あっ……」
子供ながらに畏まるチロの手をセリーナは強く握りしめる。
その掌から滲み出る彼女の熱い体温は、チロに亡き母との遠い記憶をそこはかとなく思い起こさせた。
そうこうして買い物やらなんやら、ある程度用事を済ませたセリーナはチロを連れて一軒のカフェに入った。
これまで街に出たことは何度もあるが、こういう店に入るのは初めてのチロ。
人目が大層気になるのか…、それとも見るもの全てが新鮮に映るのか…、彼女の視線は泳ぎっぱなしだ。
「チロ、あんまりキョロキョロしないの。ところで私はハーブティーにするけど、あなたは何にする?」
「えっ…、あ、あのぅ……わ、わたしも同じもので……」
「何を言ってるの、あなた猫舌で熱いのなんて飲めないでしょ? すいません、私はハーブティーで、この子にはアイスミルクセーキとあとフルーツケーキをお願いしますわ」
数分後注文した品が全て到着し、チロは色とりどりの果物がデコレーションされたケーキを至福そうに頬張る。
その様に、セリーナはまるで我が子の成長を見るように屈託なく微笑む。
するとその時…
「おや?、これはこれは…、ガルヴィンさんの奥様ではありませんか」
不意にセリーナに挨拶をして来た二人の男。
どうやら夫ガルヴィンと親交がある者のようだ。
セリーナは事務的に愛想を整える。
「あら、こんにちわ。いつも主人がお世話になっております」
「いえいえ、こちらこそ。ところでこちらのお嬢さんは? 失礼ながら、お二人にはお子さんはいらっしゃらなかったと記憶しているのですが…」
「ええ、この子は私の姪のリディアですわ。先ほど街で偶然出会いまして、少しお茶でもと。リディア、おじさまたちにご挨拶なさい」
セリーナは全く焦る様子もなく、こうなった時用の想定回答を予め用意していたようだ。
突然、チロに “リディア” として挨拶をするよう促す。
「……っ?……こ…こんにちわ……」
取り乱しそうになるチロだったが、それでもセリーナの無茶振りに対し最低限の期待には応える。
『よく出来ました』と言わんばかりに、彼女に含みのある笑みを投げかけるセリーナ。
「はははは、これはこれは、初々しくて可愛らしいお嬢さんだ。ならば、お二人の水入らずを邪魔しては悪いですな」
「我々も休憩がてら少し茶でもと寄っただけですのでお気になさらず。では」
男たちは丁重に会釈をして自分らの席へと戻って行った。
こうしてセリーナとチロは、引き続き憩いの一時を過ごしていた。
ところが…
「あれか、ガルヴィンさんの例の変わり者の嫁というのは…」
「ああ、獣人共にえらい懐かれてる変人女だ。しかも噂では不妊症みたいで、子も産めないらしい。まあガルヴィンさんはあの女の家柄と結婚したみたいなもんだからな…、子は二の次なのだろうが。それでもあの女の我儘っぷりには苦労してるようだぞ」
「しかしそんな奇人なら、むしろ子など出来ない方がいいな。その生まれた子も遺伝でおかしくなってしまう可能性があるからな」
「はははは、確かにそれは言えてるな」
一見紳士風に見えた男たちだが、その裏ではセリーナのことを酷く誹謗していた。
無論、彼らの席は10メートルほど離れた店内隅にあり、その会話の内容はセリーナには聞こえない。
ただその嫌らしげな仕草から、男たちが自身の陰口を叩いていることは容易に察しられた。
それでもセリーナは “我関せず” を貫き通すが如く、優雅に紅茶を嗜む。
きっとこのようなことは日常で、本人は何とも思っていないのだろう。
いつものようにやり過ごすことだけしか考えていないセリーナ。
だが、ここで彼女はとんだ大誤算をしてしまう。
チロが口に頬張る手を止めて、信じられないものを目の当たりにしたように男たちを凝視していた。
普段は屋敷の外の世界を見ることが出来ないチロ。
幸か不幸か、彼女はセリーナのこのような外聞を知る機会がなかったのだ。
そしてセリーナがもう一つ失念していたこと…、それは人間よりも優れた獣人の聴力。
今チロの耳は帽子に覆われてはいるが、それでも男たちの会話の内容の半分程度は聞き取れた。
「チロっ…?」
ようやくセリーナがチロの異変に気付く。
「ダメよ、チロっ…、落ち着きなさいっ…」
攻撃的な目で男たちを睨み付けるチロを、セリーナは必死に宥める。
しかし、ただでさえ理性的思考が劣り感情の制御が苦手な獣人だ。
セリーナの対応はあまりにも遅すぎた。
「チロっ…!」
チロは憤激に支配されるがままに、男たち目掛けて一目散に飛び掛かった!
その弾みで帽子が取れ、彼女のつんと立った猫耳も露わとなる。
「何なんだっ……うわっ!?、こいつ獣人かっ…?」
「な、何で獣人がこんなとこいるんだっ…!?」
突然襲い掛かられて、男たちは酷く狼狽する。
ちなみにこの男たちだが、二人とも体格は平均よりも大きめだ。
普通に考えれば、10歳ちょっとの少女に不意打ちを食らったところで、そんなのはお遊びに過ぎないだろう。
ただ生憎、相手は少女とはいえ獣人である。
思考よりも動物的本能が先に働く敏捷な動き、また人間のものよりも鋭く硬質化した爪と歯…。
たった一人の少女を取り押さえるのに、大の男二人はてんてこ舞いにされる。
「誰かぁっ、誰か警察呼んでくれっ! 獣人のガキが店の中で暴れてるぞっー!」
チロが巻き起こした乱闘騒ぎで大混乱に陥った店内。
するとその時、呆然とその場に立ち尽くしていたセリーナが動いた。
「チロっ!、いい加減にしなさいっ!」
彼女の怒気に満ち溢れた大喝で、騒然としていた店内は瞬く間に静まり返る。
さらにセリーナはチロの元へ行くと…
ピシャッ
チロの頬を痛烈に平手打ちした。
一転静寂の場と化した店内に、乾いた叩音が良く響く。
一方の打たれたチロ。
セリーナのこれまで見たことのない鬼気迫る顔を見て、一瞬で激情が消え失せた。
「皆様、当家の者がご迷惑をおかけして申し訳ございません。何か私どもで補償させていただくことがございましたら、何なりと当家にお申し付け下さい」
セリーナは男たちを含む客と店員に、真摯に頭を下げて謝罪をする。
そして決して人目を憚る様子はなく、茫然自失したままのチロを連れて颯爽と店を後にした。
それからおよそ10分後…、セリーナとチロは市街中心から外れた人通りの少ない道を歩いていた。
あれから二人の間には一切会話はなく、居た堪れない沈黙にチロの表情と心は酷く沈んでいる。
目下の心配事は、この一件で酷い罰を受けること。
だが、彼女が本当に恐れているのはその先のことだった。
(どうしよう…、わたし大変なことしちゃった…。これじゃあ、きっとおくさまもわたしのこと……)
罰だけなら一時の苦痛に過ぎないからまだいい。
もしもこれが原因で大好きなセリーナに嫌われてしまったら…。
前を行くセリーナの数歩後をただ付いて歩くだけのチロ。
沈黙と相まってセリーナの表情が見えないだけに、余計に彼女の不安は募っていく。
するとその時…
「チロ」
立ち止まって、だが振り返ることはなく、セリーナは淡々とした口振りでチロの名を呼んだ。
一瞬、この針の筵のような沈黙から解放されて安堵するが、すぐに恐怖がぞわぞわと押し寄せる。
返事すら返せず、チロはただその場で下を向いたまま震えて固まっていた。
ところが…
「……ッツ!?」
セリーナはチロの方にバッと振り返ると、その勢いのままに彼女を強く抱き締めた。
「えっ……あの……」
予想だにしない展開に、チロの思考回路は煙を上げてショートする。
ただセリーナの体温がその小さな体全体に伝わり、気付けば不安や恐怖は消えていた。
「さっきはごめんね、チロ…。痛かったでしょう? あの場を切り抜けるには、ああするしかないと思ったから…」
セリーナは沈痛な面持ちでチロに謝ると、自身が打った彼女の頬に優しく手を当てる。
「おくさま…。で、でも…悪いのはわたしで……」
「そうね…、確かにあの場でのあなたの行動はいけないことだったわね。でも、あなたは私のことを思って代わりに怒ってくれたんでしょ? それについてはとても嬉しく思うわ」
チロの顔を間近で見つめるセリーナの目は、とても温情に満ちていた。
一方のチロ…、未だに頭の整理が追いつかず、きょとんとしたままセリーナの顔を見る。
「家に帰るにはまだ時間あるし、ちょっと座ってお話しでもしましょ」
セリーナはそう言って場を仕切り直すと、チロとともに近くの公園のベンチに腰を掛けた。
ぎこちなさそうにもじもじしているチロに、セリーナは心にそっと染み入る深みのある声で語り始めた。
「あのねチロ…、私はね、あなたに今の世の中を変えて欲しいの」
「え…?」
「ああ、ごめんなさいね…、いきなりそんなこと言われても訳がわからないわよね。私が言いたいのは、今の人間と獣人との壁がなくなって、みんなが仲良く平等に暮らせる…。いつかそんな世界が実現するとしたら…、あなたにはそのきっかけになって欲しいの」
「そ、そんな…む、むりです……。だってわたしたちバカだし何もできないし…。それに…わたしたち人間よりも早く死んじゃうし……」
「そんなことないわよ。だって私が読み書きを教えてあげたら、あなたすぐに字を覚えたじゃない。これまで身分のせいで機会に恵まれなかっただけで、本来あなたたちと私たちとでは知能の差なんてないと思う。あなたのお母さんのリオラも頭が良かったしね。彼女が一体どこで学んだのかは最後まで話してくれなかったけど…。ともかく寿命の問題はどうしようもないけど、それでもだからと言って、あなたたちが不条理な扱いをされて良い理由にはならないわ。まあちょっと熱く語っちゃったけど、そんなに難しく考えることはないのよ? これからもっといろんなことを学んで経験して、自分が本当にやりたいことを見つけて、自分らしく生きてくれていたらそれだけでいいのだから」
「おくさま……はい…」
今の自分がセリーナの言うような存在になれるだなんて到底思えない。
それでも、彼女の言葉に夢物語ではない得も言われぬ説得力を感じたチロは、小さく返事を返した。
するとセリーナ、気持ちを固めるように少し間を置くとさらに話を続ける。
「実はね…、私生まれつき子供が産めない体なの…。だからあなたのことを本当の娘のように思ってるのよ?」
「えっ…?」
チロは母リオラとガルヴィンの工場で働く獣人奴隷との逢引の末に出来た子だ。
当初、主人の許しもなく “繁殖行為” を行ったとしてガルヴィンは激怒。
即刻子を堕ろして処分するよう二人に命じる。
だが、そんなガルヴィンの命に「とんでもない!」と真っ向から立ち向かったのがセリーナだった。
妻に対しては頭が上がらないガルヴィンは、その子を産ませ屋敷内に住まわせることを渋々許可した。
つまりセリーナは、チロにとってまさに命の恩人なのである。
「あなたがうちで生まれた時から、あなたのお母さんと一緒にあなたの成長を見守って来たもの。と言っても周囲の目もあるから、なかなか母親らしいことはしてあげられてないんだけどね…。でも、もしあなたが良いのだったら、二人っきりの時は私のことを『奥様』じゃなくて『お母さん』と呼んでくれて良いのよ?」
「え…」
「なんてね…、冗談よ冗談。だってあなたにとって “お母さん” はたった一人しかいないものね…。ごめんね、変なこと言っちゃって…」
チロの頭を優しく撫でながら、セリーナは切なげな笑みを見せる。
ところが…
「チロ…」
流石に『お母さん』とはまだ口には出せない。
それでもチロは、全てを委ねるように自身の肩をゆっくりとセリーナに寄せた。
「ふふふふ…、ありがとうチロ…」
それが、今のチロなりの精一杯の信頼と感謝の表現であることを察したセリーナ。
彼女は幼子をあやすようにして、チロの小さな体を膝枕させる。
セリーナの膝から伝わる温もりに包まれて、今日一日疲れたチロはいつしかウトウトと夢心地に入っていたのだった。
………………………
さて、この日の事はチロのとって生涯忘れることのない大切な思い出となった。
だが…、この日の出来事がセリーナとの幸せな時間の終わりを意味していたことなど、浅慮な彼女はまだ知る由もなかった。