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#7 続・はげ山の一夜

 清吾を筆頭としたカースト上位のメンバーが授かった力は確かにチートレベルだったらしく、彼らを主力としたパーティの旅はしばらく順調に進んだ。


 勇者ジークフリートこと高良清吾、魔道士マリベラこと桐島悠香、賢者セシリアこと高峰遥、侍キキョウこと立花あさぎ。


 この四人が立ちはだかる魔物達を倒し、ぼくを含めた残りのメンバーは荷運びや野営の支度などの役割を担った。


 他にも戦闘向きのスキルを授かった者はいたが、ハイペースで進む清吾たちについていけず、あるいは清吾の独善的な言行に反発し、次第に離れていった。


 そうして現時点までで、主力の四人の他はぼくも含めて三人にまで減っていた。


 ぼくの傍らには、清吾の指示で導師ネリスこと福原茜が常に傍にいた。


 ぼくと同じく孤立しがちだった女子で、野暮ったい眼鏡をかけていつも本を読んでいた印象がある。


 重たそうなローブを引きずるその姿は現代にいた頃とあまり印象が変わらない。


 彼女は封印のスキルを授かっていて、つまりはそのスキルでぼくのファッシネイションを封じるというのが、清吾を初めとしたパーティの意向だった。


 三人の中で男子はぼくだけだったので、実質ぼくだけが重い荷を背負ってついて行くはめになっていた。


 街を出ると、赤土の大地が延々と広がり、ところどころに灌木やオアシスが点在していた。


 地理学などには明るくないのだが、砂漠と呼ばれる環境なのではないだろうか。


 ただ、一般に砂漠と聞いて想像するように暑すぎるということもなく、コルノ鳥と呼ばれる、この世界で一般的な家畜に乗って、まずまず快適な旅ではあった。


 その敵に、会うまでは。



 順調に見えた旅は、しかしたった一体の魔物によってあっけなく危機にさらされた。


 主力メンバーの強力なスキル頼みで進みすぎてしまったのだ。


 場所は王城からすでに遠く離れ、ピュセルの城があるという、はげ山の麓。


 日暮れが迫っていたので野営の準備を他のメンバーが訴えていたが、清吾は聞き入れなかった。


 あげく日が落ちたところで、ドラゴンとの遭遇である。


 魔王を倒すはずの聖十字剣はドラゴンの硬い鱗に傷一つ付けられず、キキョウの素早い攻撃もまったく歯が立たず、マリベラの火炎魔法も涼風のように受け止められた。


 セシリアの防御魔法が辛うじてドラゴンの攻撃を弾いていたが、高温のために真っ白に見える火炎の吐息が四人を舐めるように襲いかかり、彼らは為す術なく倒れるしかなかった。


 パーティメンバーのステータスとして右下に表示されている四人のHPは、すでに一桁になっている。


 ここまで確認できた限り、HPが0になった者の蘇生方法はなかった。


 回復役筆頭のセシリアも蘇生魔法を習得していなかったし、蘇生アイテムも売っていなかった。


 HPが0になったらどうなるのか、まだ誰にも分からない。ただ蘇生方法がない以上、このまま死亡する可能性が高い。


 役に立つかどうかも分からない思考を巡らす内に、ドラゴンは再び動き出す。


 凶悪な形に開かれた顎の奥から再び煌々と光が漏れ出していた。また、強力なブレスが吐かれる。


「だめ……!」


 ふらつきながらも、セシリアが立ち上がった。


 全体重を支える杖に力を込め、最後の力を振り絞って障壁を展開する。


 目映く輝くブレスは見えない壁に阻まれ、ついには霧散した。


 しかし、気力を使い果たしたセシリアは糸の切れた人形のように倒れる。


「……逃げて、あなたたち、だけでも……」


 逃げる?


 恐怖に塗りつぶされた脳の片隅に、悪魔的思考が生まれる。


 確かに、選択肢としてはあり得る。というか、まともに考えられる限りの最善手だ。


 さらに、ここで四人を見捨てれば、ドラゴンの力を借りて復讐は成る。


 ……けれど、それでいいのか。自らの手で決着をつけてこその復讐ではないのか。何より、自分をいじめ

 ぬいてきた奴らに助けられて恥ずかしくないのか。


 ……まだだ。まだ、その時ではない。ただ守られたり、見捨てるためだけにこんな世界に来たのではない。あいつらが自分のために膝を屈し、許しを請うときが、また必ず来る。その時のために。


 この世界でまで前の世界のように虐げられるだけのみじめないじめられっ子だったとしても、今、この時だけは、この世界に自分で足を踏み入れる決断をした矜恃を思い出さなければならない。


 言わば今は、二度目の選択のときだ。お人好しの悪魔はここにはいない。自分一人で、決めなくてはならない。

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