#41 スキル訓練
翌日、例の大樹があるところで、適当に拾った木切れで組んだ、練習相手のカカシを前に息を整える。
「そう、最初は勘違いでも、でっち上げでもいいから、指先から空気が入ってくるところをイメージして。それは体内を巡って頭から、あるいは爪先から出ていく。そして世界を巡って、またあなたの体に戻ってくる」
木の精霊ドリアードにアドバイスを受けながら、想起するのは父が一時期かじっていた太極拳である。五行思想の影響が濃い元素設定に元ネタを活かすのは有効だろうと考えたのだが、果たして上手くいきそうだった。
言われたとおりに気の流れを意識して深く呼吸し、精神を鎮めると、なんとなく、体内を温かい空気のような水のようなものが流れているように感じられた。
昨日ここで感じたような、自分が世界に溶け出していくような感覚に近い。
ドリーが言ったように、そう思いたいという錯覚かも知れないが。
「そう、それはあなたの手から出て鋭い刃になり、相手を切り裂く。呪文は適当でいいわ。あなたの場合は長い詠唱も必要ない。どうせただの切っ掛けだから」
風の刃なら、ウィンドカッターくらいが適当か。あまり仰々しい名前にしても痛々しい。
そして、言われたとおりに発射されるイメージを練り上げると、緑白色の塊がうなりを上げて射出された。そうして勢いよく飛びだした風の刃に、粗末なカカシが両断され、上半分が吹き飛ぶ。
……何か、過程と結果が逆になっているような、決定的に噛み合っていない感覚を覚えつつも、教わったとおりに両掌を前に突き出し、一応言ってみる。
「ウィンド、カッター?」
「あ、もういいです」
それほど痛々しくはないだろうと考え抜いたネーミングにしても、自分で考えた呪文をそれなりの音量で口にするのはそれなりにハードルが高い。そのハードルを越えて一応言ってみたのを一蹴され、それなりに落ち込んでしまう。
ただ、傍らで一部始終見ていたリッカは目と口を丸くしておー、と無邪気に感心してくれた。何が好物かまだ分からないが、後でおやつをあげようと思う。
ドリーは細い顎に手を当てて小首を傾げ、何やら思案顔だ。
「当初予定ではですね。あ、どうぞかけて」
「はい」
言われたところで森の中、気の利いた椅子があるわけでなく、その場に体育座りになる。傍らにリッカも同じ姿勢できちんと座った。こういう仕草がいちいち可愛らしく、いじらしい従者である。
「大抵の人のように魔法に失敗、したり顔で法具を使ったスキルの使い方を改めて教えてあげようか、よくて自分で法具を使いこなしてしまうかもしれないから、その時は呆れて褒めてあげようかと。まさかまたスキルを使わずやってのけるなんて、先生想定外ですよ」
「つまり、魔法の発動を補助するのがスキル?」
「というより術式ね。敵が迫ってるときにさっきの複雑な手順をいちいち踏んでられないでしょ? だから一連の流れを呪文と一緒に魂に刻み込むの。一度やってしまえば、二回目以降は呪文を唱えるだけで発動する。その一回目をやってもらうつもりだったんだけど、法具はおろか呪文もいらないなんてね」
「プログラムとか、マクロみたいなものか。つまりアルゴリズム」




