#20 とある辺境の錬金術師
シンシアの店、という看板の掛かった木造の小さな店は、目抜き通りからやや外れたところにあった。これまでぼくが見つけられなかったのも無理はない。
店舗部分は陳列棚も含めて概ね木でできており、温かみのある雰囲気だ。
ポーションをはじめとした冒険者必須の商品は、おそらく狙っているのだろうが元の世界の駄菓子屋のように賑々しく陳列されていて、転移者としてはノスタルジーを助長させられた。実際に昭和世代ではないが、懐かしい雰囲気はわかる。
元の世界でなら百円ショップに並んでいそうな白い皿が隅に積まれ、「ご自由にどうぞ」と書かれているのが、異質でやや目を引いた。
さて、シンシアの錬金術師らしさがあふれているのは店舗の奥、彼女いわく工房で、ステレオタイプなことこの上ない巨大な錬金釜が部屋の真ん中に鎮座ましましている。魔女が何やら得体の知れない液体をかき混ぜていそうな、例の大釜である。
「そこに座って待ってて、すぐ作るから」
組合のサロンに行くのかと思っていたら、手料理を振る舞ってくれると言う。
彼女にはこれっぽっちもその気はないだろうが、仮に男女交際として考えると数段階くらいとばしていそうな成り行きに理解が追いつかない。
かてて加えて、彼女がすぐ作ると言い出したここは工房であって厨房ではない。
ともかく、シンシアに示された先には安っぽい作りの丸テーブルがあり、椅子も一応二つあった。
言われたとおりに掛け、どうするつもりかと見ていると、シンシアの向かった部屋の一角は素材置き場らしく、無数の引き出しがついた薬箪笥、薬液に浸かったヘビや何かの臓器などの瓶が並び、えもいわれぬ雰囲気を放っている。
奥にはカモやシカとおぼしき解体された獣肉が吊されていて、穀物や野菜の覗く袋などもあるから食料置き場を兼ねているらしいことはわかった。
いずれにせよ、一介の女子学生がおいそれと一人で揃えられる設備ではない。
しかし、シンシアはその中をまさに勝手知ったる様子で機敏に動き、鼻歌交じりに素材を取り出しては怪しい釜に入れていく。
もはや釜の方を見ずに適当に放り込んでいるだけに見えるが、例のUIを使ってコマンドを実行しているのか、素材はひとりでに釜に吸い込まれていく。
袋に入った野菜や香草の他、棚から取り出した生薬らしきものはまだ食材と呼べなくもないが、とぐろを巻いた蛇が漬かった瓶の中身まで釜にぶちまけたときは危うく悲鳴を上げそうになった。
ここから生きて出られるだろうか。




