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【史上最大のしっぽ取り開始】マスターリング ~復讐の操獣士~  作者: 高村孔
第二章 聖剣の簒奪者

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189/363

#189 親善試合5

 その初撃を皮切りに、流れるような連撃が続く。何かしらの流派でもあるのか、一つひとつが流麗に様式化された、踊るような戦い方だ。


 レベル三十六。例のUIで見えるその数値は、マルスガルドの人々の中でも突出して高い値だ。それでも、おそらくその半分強のレベルのキキョウの、足元にも及ばないだろう。それほどまでにマルスガルド人とエトランジェは違う。


 さらに、他力本願で後ろめたいほどにレベルを伸ばした自分から見れば、ダイアナの攻撃は誇張なしにスローモーションに見える。


 だからこそ、その動きの無駄のなさ、軌跡の美しさが分かるのだ。一つひとつの軌跡の陰に、何千回、何万回とその動きを繰り返した修練の跡が見える。

 嫌味でも何でもなく、ずっと見ていたいとはこのことで、その動作を子細漏らさず観察し、学びたいと思った。


 いつしかぼくは、見よう見まねでその動きを模倣しはじめていた。一つ真似れば、『違う、こうだ』とばかり〝正解〟を返してくれる。

 そうして無言の対話を重ねていくうちに、周囲の喧噪は遠のき、二人だけで踊っているような心持ちになってきた。


――ずっとこうしていたい。そう思わないか?


――ええ、不覚ながら。


 後から思い返しても、これが肉声の会話だったのか、念話だったのか、判然としないのだ。それまでの例から念話であるはずはないのだが、アオイやセシリアなど、近頃は例外に事欠かない。


――夫婦になれば、毎日でもできるぞ?


――そう言わず、たまに手合わせ願えれば。


 結果的に、そのダイアナの雑念が敗着となった。


 からかうつもりだったのだろうが、結果としてわずかに乱れた軌道を見逃さず、ダイアナの左肩を木剣で突く。大きく仰向けに反れ、倒れかかったところを、思いの外細い腰に手を回して抱きとめた。そのまま、大きくさらされた白い喉に木剣を突き立てる。


「そこまで!」


 ウィリアム王の鶴の一声に、木剣を落とした。


「私の負けだな。誰がほしい?」


「恐縮です。それでは貴方――」


「あ、あぁ……」


 何やら頬を紅潮させて、ダイアナ姫は目を閉じる。なんか変な雰囲気だな。


「――の副官の、カエデ殿をいただきたい」


「――うん?」


 何やらまた、すれ違いコントの気配がほのかに匂った気がした。


「信じられるか? あやつ、あれで悪意がないんだぞ」


 王が呆れ気味に問えば、


「それはそれとして、いつまであの体勢なんでしょうね?」


 別の方面に不満を表明するマリアベルだった。

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