#189 親善試合5
その初撃を皮切りに、流れるような連撃が続く。何かしらの流派でもあるのか、一つひとつが流麗に様式化された、踊るような戦い方だ。
レベル三十六。例のUIで見えるその数値は、マルスガルドの人々の中でも突出して高い値だ。それでも、おそらくその半分強のレベルのキキョウの、足元にも及ばないだろう。それほどまでにマルスガルド人とエトランジェは違う。
さらに、他力本願で後ろめたいほどにレベルを伸ばした自分から見れば、ダイアナの攻撃は誇張なしにスローモーションに見える。
だからこそ、その動きの無駄のなさ、軌跡の美しさが分かるのだ。一つひとつの軌跡の陰に、何千回、何万回とその動きを繰り返した修練の跡が見える。
嫌味でも何でもなく、ずっと見ていたいとはこのことで、その動作を子細漏らさず観察し、学びたいと思った。
いつしかぼくは、見よう見まねでその動きを模倣しはじめていた。一つ真似れば、『違う、こうだ』とばかり〝正解〟を返してくれる。
そうして無言の対話を重ねていくうちに、周囲の喧噪は遠のき、二人だけで踊っているような心持ちになってきた。
――ずっとこうしていたい。そう思わないか?
――ええ、不覚ながら。
後から思い返しても、これが肉声の会話だったのか、念話だったのか、判然としないのだ。それまでの例から念話であるはずはないのだが、アオイやセシリアなど、近頃は例外に事欠かない。
――夫婦になれば、毎日でもできるぞ?
――そう言わず、たまに手合わせ願えれば。
結果的に、そのダイアナの雑念が敗着となった。
からかうつもりだったのだろうが、結果としてわずかに乱れた軌道を見逃さず、ダイアナの左肩を木剣で突く。大きく仰向けに反れ、倒れかかったところを、思いの外細い腰に手を回して抱きとめた。そのまま、大きくさらされた白い喉に木剣を突き立てる。
「そこまで!」
ウィリアム王の鶴の一声に、木剣を落とした。
「私の負けだな。誰がほしい?」
「恐縮です。それでは貴方――」
「あ、あぁ……」
何やら頬を紅潮させて、ダイアナ姫は目を閉じる。なんか変な雰囲気だな。
「――の副官の、カエデ殿をいただきたい」
「――うん?」
何やらまた、すれ違いコントの気配がほのかに匂った気がした。
「信じられるか? あやつ、あれで悪意がないんだぞ」
王が呆れ気味に問えば、
「それはそれとして、いつまであの体勢なんでしょうね?」
別の方面に不満を表明するマリアベルだった。




