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【史上最大のしっぽ取り開始】マスターリング ~復讐の操獣士~  作者: 高村孔
第一章 復讐の操獣士と黒い翼のピュセル

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118/363

#118 二人技

「兵装顕現、ミョルニル」


ディアネイラが片腕を真上に掲げると、周囲の風が徐々に強まり、夜空に灰色の雲が集まり始めた。


風は次第に強く勢いを増しながら雲を集め、雲は渦巻いて稲光と雷鳴を伴い始める。天候すらも変えてしまいそうな蒼龍の力の強大さを改めて知らしめるようだった。


もはや常人であれば立っていられないほどの強風の中で、ジークフリートたちは必死に身をかがめ、耐える他ないようだった。


やがてぼくとディアネイラの頭上に出来た雷雲の中心に、ブラックホールめいた黒い穴が空き、中から巨大なハンマーを持った巨人の腕が伸びてくる。


ディアネイラの詠唱が元の世界の伝承に符合するなら、あれは北欧神話に名高い雷神の槌か、それを模した兵器か。


そして記憶に間違いがなければ、それを持つ手は大樹のウロで戦ったあのガーディアンのものだ。思い返してみれば、北欧のヴァイキングのようだった鎧の意匠は、雷神トールと呼ぶに似つかわしかったかも知れない。


雷雲から現れた腕は、もうミョルニルと呼んでいいだろう大槌を離し、また雷雲の中に消えていった。


ディアネイラの細腕に重ねるように手を伸ばすと、ぼくとディアネイラどちらの力によるものか、二人の体が浮き、上昇し、そして、ぼくの背丈の倍はあるミョルニルの柄に、二人の手が届く。


互いに片腕でパートナーを支え、二人の空いた手がミョルニルを持つ。


意外に軽やかに取り回せる大槌を、見下ろす先、ジークフリートたちに向ける構図は。


「二人の初めての共同作業ね」


どこからそういう知識を得たのだろうか、うれしそうで何よりだが。


「言わんでええねん」


二人の腕でミョルニルを高く掲げると、雷鳴が轟き、渦巻く雷雲から発する稲妻が大槌に流れ込み、収束する。


この段になって、ようやくぼくらが敵対していると認識したか、それぞれに戸惑いながらも勇者一行はこちらに向かって身構える。


……何故、今まで何もしなかったのか。構えたら構えたで何故今すぐ攻撃しようとしないのか。苛立ちすら覚える。


見下ろす面々の中には、当然ながらセシリアがいて、マリベラがいて、オリヴィアがいた。


セシリアは悲痛そうに顔を歪め、マリベラは無表情を引き締めて真っ直ぐに見上げ、オリヴィアは離れた位置で荷をかばいながら、泣きそうな顔をしている。


本当に、攻撃するのか。今なら、まだ引き返せる。


――大丈夫、いずれ彼らともわかり合える。あなたなら、そういう未来を引き寄せられる。


二人の手によって振り下ろされた槌から閃光が溢れ、おびただしいエネルギー量の雷が嵐となって吹き荒れる。


幾多の稲妻が蹂躙し、渦巻く中に巻き込まれた勇者一行は、為す術なく大打撃を受け、あるいは膝をつき、あるいは倒れ伏していくのだった。


「……どうして……」


岩に這いながらセシリアが絞り出す声は罪悪感を堪えつつ努めて聞き流し。


「てめえ、自分が何をしてるか、分かってるのか……」


ジークフリートの怨嗟に、憎しみを思い出せるのをむしろ感謝しながら。


「お前よりは、分かってるさ。でも、ぼくが悪なのが分かりやすくて良ければ――」


いつしか消えていたミョルニルの代わりに鞭を引き出し、振るう。


鞭は蛇のようにうねり、伸びながら、狙い過たずはるか後方のオリヴィアを捉えた。そのまま悲鳴を上げる彼女の腰に巻き付け、引き寄せる。


「わわわ、わ~~~!!」


細い体が鞭のモーメントを受けて高く放り上げられ、長く尾を引く悲鳴が近づいてくる。


その間に、マスターリングを介してディアネイラに命じ、龍の姿に戻らせる。


今となっては頼もしい背のウロコの感触を足に確かめながら、飛んできたオリヴィアの体を片腕で受け止めた。


「――せいぜい、悪役ムーブに徹するよ。『この娘は預かった。返してほしくばあの城へ来い、玉座の間で待っている』……まさか逃げたりしないよな? 勇者様」


ディアネイラの羽ばたきが突風を巻き起こし、竜巻が起こりそうな旋回を経て、城へと飛び立つ。


途中一度だけ振り向くと、ジークフリートは奥歯に憎しみを噛みしめながら、じっとこちらをにらみ付けていた。その負けん気だけは、評価に値しなくもないと思った。

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