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失望


立っていられない。


私にとって、このことは昔からの悩みの種だ。


小さい頃から、『起立性低血圧』だと言われ

立ち上がっただけで、倦怠感でいっぱいになっていた。


さーっと、全身から血の気が引くような感じがしてしまう。


特に、小さい頃は午前中がひどくて。

ちょっと立ち上がっただけで何度も吐きそうになりながら。

時には吐きながら、学校に通った。


そのせいか、大人になったいまでも

ただ突っ立っているだけで、足ががくがく震えてきて

気持ち悪さでいっぱいになる。


だから。


長時間、立っていることが出来ないし

立ち仕事が出来ない。


そして。


私はこういう性質がゆえに。

ある宿命を背負っている。


・・・それは。


立っている時、常に体を揺らしていなければ

ならないということだ。


そうでもしないと、辛くて、辛くてたまらないのだ。


それゆえに。


ただ突っ立っている間も、ふらふらと揺れ動いている私は

周囲から、挙動不審に見られてしまう。


・・・実際、挙動不審なのだ。


なので。


頭の中で「あいつ変なやつだな」とか。

「関わるとやばいやつだ」とか。


そうやって思われる分には、一向に構わない。

思う存分、自分の世界であざ笑うがいい。


「よそはよそ」「うちはうち」だ。


何を思おうが、何をしようが自由だ。

私を傷つけさえ、しなければ。


傷つけさえ、しなければ。


・・・。


私を過去に傷つけたやつ。


それは、小学2年生のときの担任の先生だった。


エコロジーとか、ペットボトルのキャップ回収とか

その先生は、環境にはよく配慮できた先生だった。


が。


あの無配慮な愚者によって、私は深く傷つけられたのだ。


そうだ。


うらみというものは、恐ろしいものである。

あのときの思いを、決して忘れないように。


私は遠い過去から時間を飛び越え

あのときの思いを、いま書きなぐろう。


・・・小学生の頃。


私はそれなりに『態度』のいい方だった。


授業中に空想したり

ペン回しくらいはすることはあっても。


ちゃんと、授業中もずっと椅子に座っていられたし

寝たこともなかった。


授業も、わりかしちゃんと聞いていた。

なので、真面目な様子に見えた。


それが、いけなかったのだ。

だから、あんなことを言われてしまったのだ。


授業中なんて、発狂するか爆睡しておけばよかったのに。


・・・全校集会。


それは、退屈な場であるとともに

体力の限界を迎える場所でもあった。


私は、前述の低血圧により

ずっと立っていると、気持ち悪くなって倒れてしまう。


けれど。


私は、全校集会という場で

倒れたくなかった。目立ちたくなかった。


だから。


何度も体を揺すって、吐き気をこらえながら

じっと、倒れまいと懸命に努力していた。


それが良くなかった。

すべてが裏目に出た。


私は、全校集会が終わったあと

先生にひとり、呼び出された。


そして、こう言われた。


「なんでふざけてたの?」


「みんなが見ているところで

 恥ずかしいと思わないの?」


「あなたは真面目な子だと思っていたのに。

 だから、余計に残念だった。」


・・・。


・・・はああ?


しらねーよばーか。


ふざけているつもりなんか、みじんもねーよ。


「真面目な子だと思っていた」って、何様のつもりだ?


お前が、勝手に期待をしていただけだ。

お前の見る目がなかっただけだ。


あああ。


お前に、私の何がわかるのだ。


期待してくれなんて、ただの一言も喋っていないのに

勝手に期待されて、勝手に失望されたのだ。


こんなに理不尽なことがあるだろうか。


失望するなら、お前の世界の中だけで勝手に失望していろ。

勝手に、私の世界に踏み込んでくるな。


あいつは、私の世界にまで踏み込んできて。


不法投棄をするかのごとく

失望という名の人生のゴミをまき散らし

汚すだけ汚して去っていこうとしていたのだ。


環境破壊も大概にしろ。


お前のような無神経な馬鹿は大嫌いだ。

よく先生になれたものだ。


私は、このときばかりは勘弁ならず黙っていられなかった。

必死になって、自分のことを先生に伝えた。


体質のこと。


立っているときに、吐きそうになるのを

なんとか我慢していたこと。


そういう説明を重ねる私に

先生は、ある病名を診断した。


「横着病」だと。


とんだ名医だ。


そして、続けて説教を長々とされた。

名医のおっしゃる、とてもありがたいお説教だ。


「ひとりでそんな言い訳をして、恥ずかしくないの?」

「きついのはみんな同じ。」

「真面目にしていないから、立っていられないの。」


そういう、くだらない説教を聞いているうちに。


私は、この先生がとても馬鹿で

救えない存在だということがわかってきた。


まず、その。


「真面目にしていないから立っていられない」という

ひどく馬鹿馬鹿しく短絡的な思考を

私は、欠片も理解する気になれなかった。


だから。


私はこのとき、長々と説教をされたにも関わらず

泣かなかった。


いや、泣けなかった。


うらみのエネルギーが心の限界を超えて

口からあふれでた言葉さえも、認められなかった。


そんな私には、泣く気力もなかったのだ。

「この馬鹿にはどんな声も届かないのだ」という

諦めしかもう残っていなかった。


そんなことがあったから。


私は、表面上は平静を装いつつも

その先生の言うことなど、微塵も聞く気にならなくなって。


普段から悪趣味にも、その先生の

悪いところばかりを探してしまうようになった。


最終的には、その先生が喋るたびに。


まるで、動物園で飼育された猿が

ひとりキーキーと泣きわめいている風にまで

妄想することができるようになった。


だから。


私は、そのあとも何度か怒られたが

嬉しいことに、猿もどきの説教は聞き流せるようになった。


『入園料も払わないまま。

 動物園の猿山の一番上でむなしくわめき散らしている

 あわれで孤独なボス猿を見物することができる。』


私は、先生のおかげで、ここまでポジティブに

物事を捉えられるようになるまで成長できたのだ。


・・・だから、ここまでひどく

書いてしまっては、さすがに失礼だ。


こんな先生と一緒にされてしまうなんて

猿にまったく失礼だ。猿よ、申し訳ない。


==============================================


・・・。


あーあ。


こうやって、振り返ってみると

結局、同じ穴の狢だ。


先生が私に勝手に期待し、失望したように

私も先生に勝手に期待し、失望していたことがよくわかる。


私は、先生という存在はもう少し雲の上の存在だと

勝手に思い込んでいた。


けれど、知らず知らずのうちに、理想化していたのだ。


「だからきっと、先生に対して

 私も過度に期待してしまっていたのだろう。」


==============================================


・・・。


・・・そういう『きれいな望ましい話』で

締めくくることも考えた。


が、書いたあと自分に失望してしまった。


そんなものは、私の望んでいる内容ではなかったのだ。


私はただ、あの先生の愚かさを書き連ね

憎しみをぶちまけて、憂さ晴らしをしたいだけだ。


なのに『喧嘩両成敗』のような締めくくりは

精神衛生上、とてもよろしくない。


やっぱり、オチもなにもなく。


「あの先生のことを私は。

 いまでも変わらず許せないまま

 うらみ続けているのだ。」


こういった文章で終えた方が、よっぽどふさわしい。


==============================================


・・・たが、同時に。


これだけで終えてしまっては

少々ひねりがないとも感じてしまったので。


ひねくれ者の私としては、おまけとしてもうひとつ。


この話の『きれいなきっかけ』を使った

きれいすぎる締めくくりも書き残しておく。


==============================================


『座って接客できるレジが増加している』という

とても喜ばしく和やかな記事を読んで

ふと、こんなことを思い出してしまった。


座って接客できるレジというのは

とても良いものだと私は思う。


誰もが自由に立ったり座ったりすることができて。

誰ひとりとして、あの先生のように口を挟んだりしない。


そんな時代が来ることを、私は心から希望している。


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