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墓場


嘘。


これまでの人生で、私は何度嘘をついただろうか。

おそらく、数え切れない。


それほどまでに、嘘は日常的でありながら

私のことを、常に不安にさせている。


「正直に話せばいいじゃないか。」


そう言われることもあるけど。

それができたら、苦労しない。


・・・私は。


『台本』というものがなければ

喋ることさえままならない人間だ。


問い詰められると、困ってしまうと。

あわてて、ついつい『良い言葉』を言ってしまう。


すなわち、嘘をついてしまう。


つきたくて、ついているのではない。

その場をなんとか収めようとするための嘘が

自然と口から、出てきてしまう。


・・・そのくせ。


嘘を言ったあと、私は不安でいっぱいになる。

ばれたら、どうしようと思ってしまう。


だから私は、嘘をついたままでいい些細なものまで

そのあと、わざわざ訂正してしまう。


そうするとよく、こう言われるのだ。


「あのさあ。適当なこと言わないでくれる?」


さっきと違うことを言っているのだから

当たり前である。


が。


そうやって言われてしまうと、嘘をついたままよりも。


正直に言ってしまった方が、かえって評価が

悪くなっている気がしてしまう。


「言いたくて、言っているんじゃないのに。」


それが、私の本心であるが。

相手からすれば、そんなの知ったこっちゃない。


これについて。


ちょっとだけ、ひねくれてねじ曲がった

言い訳をさせてほしい。


もしかすると。

次のようなことを言えばいいんじゃないか。

と、考えている人もいるかもしれない。


たとえば。


「持ち帰らせてください。」


もしくは。


「わかりません。」


こういった、工夫のある言葉だ。

こういう言葉は、ごく真っ当で、いいと思う。


しかし。


甘い。


私は、それでは会話にならないのだ。


全部に対して「持ち帰らせてください」「わかりません」

と言ったらどうなるか?


その、持ち帰る、持ち帰らない。

わかる、わからないの判断を。


この少ない脳みそで、極限状態で、瞬時に

どうやって正常に判断するというのか?


私には、到底できっこない芸当なのだ。

不可能だ。なんて救えないやつだ。


・・・もどかしい。


こんな、極論のような言い訳もどきを書いてまで。


なぜ、誰もありがたがらない嘘を

正当化しようと、躍起になっているのだろう。


いつから、こんなに嘘つきになってしまったんだろう。


・・・そう考えていると。


私の嘘の根源ともいえる

一つの嘘があったことに気付く。


その嘘は、わずか3、4歳の頃についた嘘だ。


けれど。


私は、その嘘を『墓場まで持っていく』と

固く心に決めている。


・・・。


幼い私は、絵を描いていた。

なぜ、絵を描いていたのかは覚えていない。


けれど、確かに。


私は、絵を描いていた。

『人の絵』だ。


どれもこれも似たような顔や服で

端からみれば、まるで、色違いの量産品のような

判別のつかない格好であったが。


それでも、私の中では区別をもって

保育園の友達や先生の絵を描いていた。


「これがねえ。○○ちゃんで。

 こっちが、△△先生。」


完成した絵を母に見せ、こんな風に説明すると。


「上手だねえ。」


母は、そうやって返してくれたと思う。

そういう、微笑ましい話。


・・・の、はずだった。


続けられた、母の言葉。


「どれがお母さん?」


その言葉に、私は思考が停止した。


私は、保育園の友達や先生の絵を描いているつもりで

母の絵なんて、これっぽっちも描いていなかったのだ。


そして、私の小さな脳は、緊急事態だとアラートを発した。

なんとかしなくてはならないと。


小さな脳は、小さな口と体に向かって咄嗟に指示を下した。


「これがお母さん。」


そうやって。


何枚もある、量産品のうちの一枚の絵を

まるでもとから母の絵だったかのように嘘をついた。


母は、その絵をいまでも大切に飾っている。


あの嘘は、いまでも訂正できていない。

墓場まで持っていくつもりの嘘である。


そうだ。


私は、まだあどけない幼児の頃から

「死ぬまで嘘つきであり続けよう」と

すでに心に決めていたのだ。


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