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恋心


・・・辛く、重い話だけだと"あれ"だから。

ちょっとは、かわいらしい話もしてみようと思う。


私にも、恋心というものはあって。


小学4年生くらいから意識して

中学生になるまで続いていた『片思い』があった。


片思いの相手の子は、勉強が得意だった。

特に、算数と社会が得意な、優しい男の子だった。

何回か、クラスが一緒になった。


その男の子との思い出は、だいたい授業中のことだ。


小学校のときの授業では、問題を早く解き終えた子は

まだ解けていない他の子を手伝うような『制度』があった。


嬉しいことに、私は成績が良い方ではなかったので

この制度を最大限に活用して

いつも、その男の子に勉強を教えてもらおうとしていた。


・・・ただ。


その男の子は、優しすぎた。


私が勉強を教えられて、順調に

解き進められるようになってしまうと。


すぐに、困っている次の子に教えようと

席を移ってしまうのだ。


家庭教師のように、ずっと二人きりで

教えて欲しかったのに、現実はそう上手くいかないのだ。


これには困ってしまった。


私は、まったくどうしようもない小心者なので

授業中以外で、「勉強を教えて」とは聞けなかった。


冷やかされるのが、噂になるのが、怖かったのだ。


なので、そんな私にとって授業中は

『合法的』に、二人きりの時間を作ることができる

唯一の方法だった。はずなのに。


なのに、そんな時間は、すぐに終わってしまうのだ。


だから、正直なところ。


『わざとわからないふりをする』ような

小賢しいことを、考えてみたこともあった。


けれど、よりにもよってその男の子は

勉強を教えることも、とても上手だったのだから

まったく手に負えなかった。


こんな私にも、丁寧に、親切に

わかりやすいように教えてくれた。


だから、わざとわからないように振る舞うのは

すごく失礼で、悪いことをしているように

思えてしまって、やれなかった。


・・・全く、やらなかったわけではないが。


それで、小学6年生の時だ。


同じクラスに、たぶん、その男の子を狙っているであろう

女子がいることに気付いた。


その男の子が、他の人に教えている途中でも

"そいつ"は、これ見よがしに、目配せしているのだ。


まるで、鏡に映った自分のようなやつだった。

なんて性格の悪いやつだ。


そいつのことを、心の中で

私は勝手にライバル視していた。


が。


そいつは、私よりも数段上だった。


その男の子が、一人の子に教え終わったタイミングを

見計らって、手を上げているのだ。


しかも、私と同じくらいの成績だったくせに

私の比ではないくらい、教わっている時間も長いのだ。


そいつの、あからさまで、軽薄で、浅はかな態度が。


そいつの態度が。


・・・考えたくもないが。

私には、とても純粋に、羨ましかった。


「他の子に教わればいいのに。」


自分にも突き刺さるその言葉を

何度、心の中で思ったことだろう。


そして、実際、その通りになった。


私自身が。


そいつが、その男の子に教えられている間に。


私は、不本意ながらも手をあげて

他の子に教わらなければならないことが増えてきたのだ。


もう、悔しくて、情けなくて、憎らしくて

どうにかなりそうだった。


その思いは、少なからず態度に出ていたと思う。


そいつのせいで。


いや、そいつのせいではなく

ただ、私の本性が表に出ただけなのだが。


それで、私は、他の子に教わるとき

不機嫌にさえなっていた。


いま思えば、教わっている立場だというのに

なんという傲慢さだろうか。


そして。


そいつとの『教わる対決』は

月日と共に終息し、うやむやになったまま幕を閉じた。


いや、うやむやという名の、私の完敗だ。


でも、不幸中の幸いだったのは。


嫉妬にまみれた、私の本性が

その男の子には、おそらく伝わることもなく

幕を閉じてくれたことだ。


・・・と、まあ。


いまと変わらない、奥手で卑屈で

ひねくれていて、どうしようもない私がいたという。

なんとも、かわいらしい話だ。


結局、そいつと、その男の子が付き合ったとか

そういう話も、聞いたことはない。


そう考えると、ここまで書きながら、もしかしたら

私の勝手なひとり相撲だったのかもしれない。


そう思えば、余計こっけいで、かわいらしい話だ。


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