六星魔族 無尽のゾラン
西の空に浮かぶ飛行体。そしてゾランの死。
事態は急速に動き出す。
アレスはゾランの死が信じられない。
ゾランは死ぬはずがない。
ゾランが死んだ。
あのゾランが・・・・・・
ドゥドゥウウゥゥンン・・・・
巨大な双頭のデュオクラーゲンが真っ二つに切り裂かれ崩れ落ちた。
「す・・・・・すげぇ・・双頭竜を一撃かよ・・」オレにはゾランの一閃が全く見えなかった。
「なあ。ゾラン今のは・・」
「ありがとうございます!」
「ゾラン様!!」
「村を救ってくださって本当に感謝いたします!!」
村の人間たちがゾランを取り囲んで感謝を伝えに集まってくるので近寄れない。
オレはしょうがないのでその場に立ち尽くしていた。
ゾランは良く人間たちを助けている。
悪魔の称号をもつ大魔族なのにだ。
人間だけではなく魔物や魔族、困っている奴はたいてい助ける。
今回も山麓の魔物を支配下に置くため小隊を組んでやって来たんだが通りがかりの人間の村を竜から助けている。
チョンチョン。
「ん?」
誰かがオレの指をつついた。
「ねっねぇ。」
人間の女の子だ。
「あなた悪魔なの?」
おれはしゃがんで女の子の顔を覗き込んだ。
「そうだ!オレは悪魔の王子アレスだ!お前たち人間をいつでも支配して殺すことが出来る!」
「なんで助けてくれたの?」
「・・そ・それは・・ゾランに聞いてくれ。」
・・・・正直ゾランの考えはオレにはわからない。
「うふ。きっとあなた達はいい悪魔なのね!」
「いい悪魔?なんだそれ」
「だって!暖かい手をしてる。人間みたいだもの!」
「人間だと??」
「でも・・・ほんとはもっと早く来てくれたらお母さんも助かったのに・・・」
女の子は少し悲しそうな顔をしたがすぐにぱっと笑顔になり
「あなたもゾラン様みたいにかっこよくなるのかしら?」
「はぁあ?オレは既にかっこいいだろうが!」
「え。自分でカッコいいとか言ってる」
「テメエ!」
「ゾラン様ー」
そう言って駆けて行ってしまった。
「何なんだ。人間なんかにオレのカッコよさがわかるかっ?」
「ゾラン様。双頭竜を倒していただき本当にありがとうございます。本当に困っていたのです。」
村長が感謝を伝えている。
「そのようだね。この村は何度も魔物に襲われている。」
「そっそうですっ!魔物から何度も襲われています!なぜわかるのですかっ?」
ゾランは村の住居を見回して
「建物の修復が追い付いていないね。」
「はい。村人も疲弊し逃げ出すものもいます。ですがこの通り逃げていく場所もありません。
本当に感謝しています。ただ・・・・」
「また、襲われるのではないか?」
「そうです!」
「ゾラン様!どうか助けてくださいませんか!」
村の人間がゾランに懇願している。必死だ。
「いいよ。」
「本当ですか!ゾラン様!」
「ゾラン。キリがないぞ。魔物の掌握は終わったんだ。」
オレはゾランを急かす。
魔王国にはゾランが保護した人間たちがたくさんいるのだ。
この村の人間を魔王国に連れていくとか言いかねない。また人間が増えてしまう。
「君は。」
ゾランは遠巻きに見ていた女を指さした。
「ああっ。私の娘です!さあこっちに来てゾラン様に挨拶を!」
村長の娘はゾランの前に出てきたがどうも顔色が悪い。
よく見ると手が震えている。
「やはり。君か。」
ゾランは女の顎を持ち上げて顔を覗き込んだ。
「ひっ」
女が悲鳴ともとれる声を上げた。
「ゾラン様なにを・・」
村長が心配している。
村人たちがざわつき始めた。
「キミが双頭竜を招き入れたね」
「えっ?」
オレは思わず声を上げた。
なんで自分の村に竜を招きいれるんだよ!結構な人間が死んでるはずだぜ!
村長や村人たちも驚きの声を上げている。
「そんなことは・・・ゾラン様」村長がゾランから娘を取り返そうとする。
「僕は悪魔だ。人間の悪の心には敏感なんだ。隠してもわかる。君は気に入らない隣人を魔物を使って殺しつづけたね。」
女の全身が大きくふるえている。
ゾランは女の胸元に手を差し込んで何かを抜き取った。
「それは召喚卵じゃないのか!?」
村人の誰かが叫んだ。
「召喚卵?小さな石みたいに見えるけど?」
オレは初めて見たが何かの卵なんだろうか?
「まだ子供がいるのよっ!!」
突然女が叫んだ。
「あの子供がまだ残っているのよぉ!!」
女がさっきオレに声をかけた女の子を睨んで叫んでいる。
「私を欺いたあの男と一緒になった女は、殺したのよぉぉ!!男もその親もすべて殺したの!!
あと子供だけ子供だけ!!」
女は狂ったように叫んだ。
「そんな・・・・」村長が崩れ落ちた。
「お母さんを・・・殺したの??」
さっきの女の子だ。
「これは魔物の中でも魔力がとても高いヴィタルクスの卵だ。羽化する前に人の手で取り上げるとその人間の感情で染まる。これはとても強い憎悪の感情に染まっている。この卵に興奮した魔物が卵を守ろうと集まってくるんだ。」
ゾランはその卵を女の顔の前に掲げた。
「お・・お願いあの子供だけ・・・あとはあの子供だけなの」
女は打って変わってすがるような声で懇願した。
「これは危険な召喚卵だ。」
パキーン
ゾランはそう言って指先で卵を割った。
「これでこの村は安全だ。」
「いやぁぁぁぁぁぁああああああああああ!」
女が暴れ出した。
ズオオオオオオオ
突如黒い雲が現れあたりは暗くなった。
ゾランの足元に魔法陣が現れる。
「僕は悪魔の称号を持つ魔族だ。」
女を高々と持ち上げた。
「ああ、いやぁ、やめて・・」
女の胸のあたりから黒い炎が現れた。
「魂だ」!
オレは魂学の講義を思い出した。
生物には魂が存在する。それは魔族も魔物も人間も同じだ。
オレたち悪魔の称号を持つ魔族はその魂が悪に穢れているか見抜くことが出来る。
女の魂は本来の輝きを失って鈍くヘドロがうごめくような色をしている。
「講義で教わったけど実物を見るのは初めてだ。でもあれがヒドイのはわかる。」
ああなってしまってはもう取り返しがつかない。
「村長。この子は悪魔の領分に入り込みすぎた。残念だ。」
「ゾラン様・・・・」村長は力なくこたえた。
魔法陣の光が黒く強くなる。浮かび上がった魂の上空に入口が現れた。
「いやいやぁあ」
手足をばたつかせている。
「連れていく」
ゾランがそう言うと魂は一瞬光り、入口に吸い込まれていった。
とたんに女が静かになった。
そう。もう動くことはない。
女の死体が横たわっている。
「ユアリがお母さんを死なせてしまったの?」
「そうか。この子はユアリと言うのか」
ゾランはそう言ってひざまついて女のほおを撫でた。
さっきの騒ぎが嘘のように穏やかな顔だ。
「何で・・・なんで・・」
女の子は大粒の涙を浮かべている。
「ユアリが憎いかい?」
「わ、分かん・・ない・・ユアリ・・は・・ご飯を作ってくれたし、お話しも・・してくれた・・」
「なら、花をささげて祈るんだ。」
「だれに?」
「神様にだよ」
ゾランは微笑みながら言った。
「ほらよ」
オレが野草の花を女の子にくれてやったら
「アレスはかっこいい悪魔だったのね」
なんていいやがった。
城へ帰る道中、オレは気になってゾランに聞いた。
「ゾラン。」
「なんだい?アレス。」
「なんで、人間を助けるんだ?魂を解放してやるだけでいいじゃないか?」
「あの子はユアリという名だった。この地方では『願い』という意味だよ。」
「願い・・それがどうした?」
「あの子は何を願ってたんだろうね」
ゾランの横顔は何を考えているか分からない
「何を願ったのかわかんねぇし興味も無いよ。自分の仲間を魔物に食わせるような奴の事なんて。」
「フフ。そうだね。僕らには分からない。決して分かる事はないだろう。
妬み、嫉妬、そして憎悪。そんな感情に自分の全てを掛けるなんてね。」
「ああ。バカバカしい」
オレは当然だと言わんばかりに気のない返事を返した。
ゾランが足を止めた。
「どうした。ゾラン」
「でもね。こうも思うんだよ。」
「ん?」
「そんな馬鹿馬鹿しい感情に命をかけてみたい・・・・ってね。」
「アレス。夢はあるかい?」
「夢?それは・・・・・その」
「アレス。僕の夢は神様に会う事だ。」
ゾランは振り返ってオレを見下ろす。流石魔王国最強の男だぜ。振り返るだけでもかっこいい。
「神様?そんな奴はいるわけねーだろ?」
「さあね。僕にもわからない。でもいないとおかしいんだ。」
「おかしい?」
「僕らは悪魔だよ。一体誰に作られたんだ?」
日が沈む。
「変なこと気にするんだな。ゾランは。」
「そして・・・聞いてみたいんだ。
なぜ僕を悪魔にした?ってね。」
「・・・・・・・なにそれ。」
「ははは。そうだアレスの夢はなんだい?」
「ん・あぁ・・・オレの夢は最強の悪魔になる事だ!」
「じゃあ。帰ったらすんごい稽古をつけてあげよう!」
「すんごい?・・・・いや、あの、??適度に・・・」
「いやいや。すんんんんんごい稽古。」
「ちょっとぉ!」
オレの夢は最強の悪魔になる事だ。・・・ゾランみたいな。
ゾランが死ぬはずがない。ゾランはオレが憧れた最強の悪魔なんだ。
「セリナ。アズラエル達は中央広場に集まっているんだったな。」
「はい。」
「ゾランとそのダンジョンは関係があるのか?」
「おそらく。」
「西の空に浮かぶそいつをぶっ倒してゾランを救い出すぞ!」
「えっでも・・・・ゾランは」




