魔王国最後の日
人間界に転生したアレス。
魔力も魔法も失い人間として生まれ変わったが魔法の復活を試みる。
ふと魔王国でのあの日を思い出す。
あいつは突然現れた。
オレは天井を見上げながらあの日を思い返した。
あの日が魔王国最後の日になったんだ。
「アレス!」
アズラエルは魔王への謁見中だったのか王の間の扉が重々しい音とともに閉じられるまで忠誠の礼の姿勢でいたが、ゴオン・・・・という低く響く音と共に扉が閉じられるとオレに駆け寄って開口一番に言った。
「西の城壁の外に変な奴が浮いているわ!」
「ああ。今向かうところだ。」
オレはアズラエルと共に足早に王の間から中央広場へと向かう。
西の空に何かが浮いているという報告があったのはついさっきだ。アズラエルは直々に魔王から指示を受けたからだろうか様子がいつもと違う気がした。
「アレス。あなたは行かなくていいわ。」
「はぁ?」
「あなたが行っても役に立たないから残れって言ってるの!」
「オヤジがそう言ったのか?」
オレは前をふさいでアズラエルを見下ろす。
「魔王様はなにも言っていないわ。ただ六星魔族全員での対処を命じられただけよ。」
「六星魔族全員・・・それは魔王軍の総力じゃないか。オレは王子として参加しないわけにはいかない!お前はいつもそうだ。勝手に決めて勝手に行動する!」
アズラエルとは幼馴染だ。おやじ、つまり魔王がどこからか連れてきた女の子だ。
オレが6つで同い年だった。
アズラエルは最初はおとなしくしていたがあっという間にそのケンカ勝りの本性をあらわし同世代では彼女に勝てるものはいなくなった。
オレも一度も勝てた事がない。
強いだけではなく12才にして魔王国大学へ史上最年少で入学した天才だ。
その上魔王国大学2年の時に魔王国の六軍を束ねる六星魔族となった。
異例中の異例だ。つまり強い上に天才という事だ。
「そうよ!私は勝手に決めて勝手に行動するわ!」
「うっ」
急に体が重くなった。これは拘束魔法だ。
必死に体を動かすがいっさい動かない。強力な拘束魔法だ。
「あなたはここに居なさい。」
アズラエルは立ち去ろうとする。
「おいまて!このままおいてく気かっ!」
「そうね。目立つしうるさいわね。」
アズラエルは手をかざした。
フォン
「これで静かになったわ。」
『なんだ!急に薄いベールのようなもので囲われた!音が聞こえない!』
アズラエルが去っていく。アズラエルを呼んでも声が出ない!
『くそっ魔王国の緊急事態だってのにこんなところで動けなくなっている場合じゃない!』
アズラエルは見えなくなってしまった。
『あっ広場に向かう兵士だ!
おいっ!オレだ!助けてくれ!』
兵士が目の前を通り過ぎる。
『おいっ!オレだ!アレスだ!』
兵士はこちらも一度も見ず去って行ってしまった。
『姿も見えなくなっているのか!?隠ぺい魔法か?あいつこんな高度な魔法も使えるのかよ!』
それから何度か声をかけたり体をゆすったりして脱出を試みたが全く駄目だった。
『なんて強力な魔法なんだよ!・・・ん?魔法・・・そうかっ魔法か!!』
オレは動けなくなっている右手に魔力を込める。体中のエネルギーが手に集中しているのを感じる。ほのかに暖かい。動けなくても魔力の操作は出来る!
集中したエネルギーが手の平で黒い光の玉になりその周りを黒い魔力の粒子が渦巻き始めた。
『よし!いける!』
『デスブレイア!!!』
オレは自分が使える最大攻撃魔法を唱えた。
ドゥゥゥゥン・・・
ゴホッゴホッ
「やった!!脱出出来た!!」
自分が使える最大攻撃魔法にありったけの魔力を込めて放ってやった!アズラエルの拘束魔法と隠ぺい魔法を吹き飛ばしてやった!!
「さて、このあとどうするか・・・・」
魔法を放った右手から右半身までが吹っ飛んだ。
このままだと動けない・・・・・
残った左手でなんとか壁際にすすみ体を起こした。
「アレス様!」
東の回廊からセリナが駆け寄る。
「これはいったいどうされたのですか!?すぐ回復を」
セリナは六星魔族のひとりで探索や調査を得意としている。大分年上のお姉さんだ。
「アズラエルにかけられた拘束魔法を吹っ飛ばしてやったんだ。」
「なんて無茶なことを!いくら悪魔の称号をお持ちのアレス様でもこれだけの大けがでは回復
も容易ではありません。」
「アズラエルはなぜこんなことを?」
セレナはオレのケガを直しながら聞いた。
「あいつ。足手まといだって言いやがった。オレはここに居ろって!六軍が対応するのにひとり隠れていられるかよ!」
セリナはオレの顔を見て少し思案した。
「そうですか・・・アズラエルが。」
「なんだよ。」
「アズラエルはアレス様を危険な目に合わせたくないのだと思います。」
「西の空に浮かぶ変な奴の対処だろ?なにが危険なんだ?六軍が出るのも大袈裟だぞ。」
セリナはオレを見て目を合わせた。
「西のシュピッド渓谷で魔力凝縮が観測されました。元老院百眼の分析の結果、新生のダンジョンだと思われます。規模は一級です。」
「それは知っている。3日前の朝食会で報告を受けた。一級ダンジョンは200年振りのおおごとだって事も。」
オレは朝食会のローズベリーの甘酸っぱさと報告をする文官のひきつった顔を思い出した。
「ダンジョン探索の先遣隊としてゾランが向かいました。」
「ゾランが?六星魔族最強のゾランが先遣隊?」
「ええ。」
ゾランは六星魔族最強にして魔王の片腕と言われる大魔族だ。オレが生まれる遥か以前から幾多の戦乱で武勲をあげた英雄だ。そしてオレに戦いのすべてを教えてくれる師匠だ!
「それでゾランはなんて言っている?」
「死にました。」
「死んだ!!??」
「ええ。魔力が途切れ魂の痕跡さえ消滅してしまいました。」
「六星魔族最強だぞ!!魔王の片腕だぞ!!」
オレはゾランと死という言葉が安易に結び付かなくて復活した右腕でセリナの肩を掴んでいた。
「アレス様回復が終わりました。」
オレは元どおり回復した。悪魔は体に致命傷を負っても魂が消滅しなければ復活する。
それはゾランも一緒だ。
「オレの・・・師匠だぞ・・」
セレナはオレの手を取り立ち上がらせた。
「アレス様。もう一つご報告があります。」
「・・・・・」
無言でセリナの報告を待つ。
「新生ダンジョンは移動しています。」
「移動?」
「移動するダンジョンはいくつか報告されていますが規模を広げながら移動しているのです。」
オレはセリナの顔を見た。
「移動しながらでかくなっている?・・・・・・」
「はい。すでにダンジョンのリストでは一級の最大規模を上回っています。
そしてダンジョンは今、あの西の空に浮かぶ飛行体のちょうど真下に位置しています。」
「城の外に??」
オレは得体の知れない事態の気配を感じ始めていた。




