一章〜終〜
全身が痛い。寝違えとかじゃなく本当に全身が錆びた機械の様に動かし辛く。錆びた様に軋む音がする気がして、で少し動くだけでも神経を苛つかせる。
ああ。僕は何かしたのでしょうか。
今。何故。こんな所に居るのかを思い出しても記憶にありません。
だって。寝ていた記憶しか無いのです。
ん。何時から寝てましたかね。
解らない。
なのでこの場所が何処であるかを確かめましょう。
と外に出たのは失敗。
極寒の一面雪景色。
幸い雪は降っていない。しかし積雪が相当量なのは見て分かる。
近くにある枯れた植物。
それは木の先端だと思われ。
枝先しか見えていない。高さを把握出来ないが、ある程度の予想は出来る。
なのでこの先からは見た目より高い崖になっている可能性が大きい。
戻ろうとして振り向いてさらなる絶望を見てしまう。
出てきた筈の扉が無くなっていた。
建物さえなく。あるのは広陵とした雪景色。
混乱しながら状況を整理する。
整理し終わり出た結論は不理解だった。
さっき迄在った部屋が出て全く時間も経っていないのに消えることは有り得ない。
そう結論して在ったでおろう位置に近づいても痕跡さえ無い中で何をどう探すのか。
探して見つかったとしての話。
入れる保証すらない。
なら諦めて寒さを凌げる場所を探しすという選択が効率的だと判断し行動する。
一面の雪といえ遠くに見えるのは山か森か。止んでいた雪も降り出し風をお供に付けて次第に激しくなる。
身の危険を感じ雪を掻き分けて穴を掘り急いでその中へ入ると更に奥へ掘り進め出口から見えないように角度を付けて進み、大きな空間を造って休憩する。
外より暖かく。しかし空腹はどうにもならなかった。
時間が無駄に無情に無益に過ぎていく。
腹は鳴り響き寒さは和らいでも寒さが無くなることではない。
少しの緩和でしかない。
理由は簡単だ。
横たえているのは直接雪の上。
全裸では無いにしろ服自体も薄く断熱効果は皆無で身体の熱は奪われ寒さから逃れられない。間に何かを挟めばマシだろうがその材料さえない。
それに空腹を満たすにも食料源さえない。
目の前の雪を口にしても良かったが止めておいた。
耳に届く吹雪の音は出たとしても視界を遮断し方向を狂わせるだろう。
なら今は動くより眠ったほうが得策と眠りにつくことにした。
命の危険があるだろうが仕方ない。起きていたとしてもやる事がない。無駄に体力を消費するよりマシだと考えた結果だ。
耳に届く音で目を覚ます。
命を失わなかったようだ。
だが急い起き上がり這って角を曲がり見ると出口か無くなっていた。
慌てて消えた出口を手で掘り進めると外に出るまで時間が掛かり。体力が落ちた状態だったので力尽きてその場で記憶が飛んだ。
辺り一面の雪景色が一気に失せ荒涼とした大地が広がっていた。
何があったのかを思い出そうとして全身に負の熱さが纏狂い暴れて飲み込まれ意識が消える感覚と消耗する自覚に抗えず力なく何も出来ず横になりながら空を見ていた。
暇だ。と口にして何の気なしに力が入る事を認識し上体を起こして周囲を見る。
変わりない荒涼とした大地。
しかし思い出そうとして止め。立ち上がってから振り返ると。位置は変わっていなかった。
吹雪の中で遠くに見えた山。
実際は山に見えた大きな木々が集まった巨大森林だった。
山に見えていた理由は吹雪の他にその独特な形状。
木々の全てが太く大きくそして高く。遠いが一つを見ても軽く高層建築と同等で、さらにその表面は白い。雪のせいだけではなく。木自体も全てが白い。
白い木、白樺というのを思い浮かべたが違う。それは現在の世界に存在していない。
情報という知識で知ってはいるが。
知識より大きく太く葉の繁り方も変わっている。
では何かと聞かれても答えられない。
白樺を大きくしただけの様に見えるし。何か別の何かかもしれない。
そう考えながら近づくとその巨大さに圧倒し少し引いてしまった。
根本まで近づいてその大きさは改めて異様さを思わせる。
何から調べるか。手元に何も無い。道具全て。
在るのは足下の砂から岩。後はあるもの。
それは素手。
一本の木に近づいて手を当てる。
硬い筈の木の表面は思ったより柔く雪の影響を受けていた筈なのに水気もなく乾き切っている。
それでも枯れているのではなく内部には水が蓄えられているのだろう。
喉も渇いている。傷を付けて内部の水分を舐めてれば足りないが少しはマシだろう。
判断して手ごろな石を拾って表面に傷を付けようとして少しの反発は在るだろうと覚悟していたが無かった。
正確には全ての衝撃が吸収され傷すら付けられなかった
木皮の柔らかさが想定以上で何度試しても受け流される様に付けられず諦めて別の方法を考えた。
駄目だった。何をどう試しても受けられ流され相殺され奥の水分を摂取する事は出来なかった。
目の前に在るのに届かないもどかしさ。歯痒くてどうしようか悩んで思いつかずに頭に血が昇り発散させる為に地面を踏みつけた。
すると地面に当然亀裂が走り地割れを起こしその為に尻餅を着いて痛みに耐えながらふと。木を見ると根が剥き出しになり奥へと倒れていた。
見た。
根から大量の水が流れているのを。
意識とは別に身体が動いて泥と一緒に口に含む。
だが、直ぐに吐き出した。
不味かった。
溜息。
そして一つの変化に気づいた。
木の表面が変色していた。
白かった表面がその辺りに存在している木々と同じ色をしていた。
試しに表面を叩くと反発も受け流しもなく。硬い音が聞こえた。
そしてその瞬間に表面の引っかかりに指を掛けて引っ剥がすと乾いた内部が露出する。
直後に小さな染みが出来上がると大きくなり一つとなり大量の水分が溢れ出た。
喉を鳴らして溢れ出た水分を口に含むと。
何とも爽やかでありながら濃厚でいてスッキリした味。喉に流し込むと粘度のお陰か乾いた粘膜が修復されるように戻り胃に流れると気力が溢れ先程までの疲労感が消え去り体力が回復した。
何か貯められる物は無いかと探したが手持ちさえない状態でそれは不可能。なので出来るだけ身体に取り込んで英気を養うことにした。
少し休んでいたが遠く。森林の奥から何か嫌な音が響いて聞こえてきていた。
余り考えたくは無かったが。
森の奥から白い波が押し寄せてきていた。
逃げ場はなかった。しかし考えても仕方ない。
何とか助かる方法を考えて一箇所だけ見つけて慌ててその場所の深くへ身体を捻り入れるようにして固定して何かに祈るように目を瞑り轟音が三方から聞こえて過ぎていく。
少しの時間だったが直ぐに静寂を認めて目を開けると視界全てが雪に満たされていた。深さもあり雪に埋もれなかった根っこの深くから這い出て根を登って周囲を見渡した。
辺り一帯遠くまでが元の雪景色に戻っていった。
何かに拒絶反応されているのだろうか。
そんな感覚に覚えは無いがこの森の奥に行くことを諦めてあの深い場所の先へ進む事にする。
元に戻っていた深い場所。
谷だろうその場所の縁らしき地点から遠くを見ると何か靄のように架かっているのか正確に見えない。戻って来る途中で手ごろな石を一つ拾っていたので谷だろう場所に放り投げてみた。
底が無いのか。と考える様に当たった音が聞こえなかった。
雪のせいかもしれないが、
雪が谷底まで在るのは確実だが埋め尽くす程の深さとしたら相当である。
飛び降りたとして雪のお陰で底まで速度が落ちて無事着地。というのが理想だが。
雪が想定以上に抵抗が無かった場合はまあ。
命が亡くなる可能性もある。
だからと足踏みしても始まらないので意を決して飛び降りようと考えた。
失敗した。
飛び降りようとして何かに足を引っ掛けて体勢を崩し折れていなかった枝先に目を突いて激痛と共に更に体勢が崩れ雪の中に沈んでいく。
それは脱出不可能を意味し、命の終わりを想起させるに十分だった。
否定したい現実にしかし落下の勢いは止められず落ちていくように雪の中を沈んでいく。
雪は新雪のように抵抗なく速度を落とす役割は期待できず、僅かな時間で硬い地面に全身を打ち付けそして苦痛の中で命を終えていく。
そんな未来を眼前に晒され全力否定し。そして。
揺らめく言葉に表すなら、赤と黒が混ざり交互に反射して我先にと主張するようにその地点を中心に凡そ人が視認できる限界全ての雪を同時に世界から痕跡を残すことなく消していた。
そしてその中心にいる気絶した者は無傷で地面に横たわり傷一つなく眠っていた。時折、寒くくしゃみをしていたが。起きることは無く変わりに揺らめく黒が覆い尽くし燃えるように揺蕩うと黒と一緒に消えてその者の痕跡さえなく乾ききった地面が広がるだけであった。




