一章〜箱にて〜
底が見えない床。壁の向こうに此方を向いている色々。天井の先には監視するための装置。
一辺を20から30の同等の長さで造られた箱が巨大な空間の中で宙に浮いている様に見えていた。
繋げる道はない。
実際は点八カ所を長い紐の様な形状の物で固定されたている。
中が全方位から見える透明な箱。
簡単に人力で壊せないような厚さであり脱出は不可能に近いだろう。
その中に現在。一人の男性が入っていた。
いや男性というには若く少年という言葉が似合う年齢だろうか。
だけど疑問一つ。
何をするとこの様な処遇を受けるのだろうか。
全身には痛々しい傷跡が見えるし自分がどうなっても良いような表情をしている様に見える。
いや内容などどうでも良いのだろう。要は供物として丁度よい物を手に入れたのだと管理者達にはそう認識されていた。
移送されこの場所に収監されて数日経過しているだろう。
本人は健康で傷跡等を無視すれば元気な程である。
まあ度重なる尽くの果て。
そうして入れられたのがこの全てが透明な強化素材の箱。
内部には必要最低限の物しか置かれておらず、凶器に転用可能な物は全て排除されていた。
なら現在着ている衣服はどうかと問われると、これは一種の拘束機能を有しており不可解な挙動を探知か感知すると縛るように手足を硬化させ首元を軽く締め上げるよう設定されていた。
試しに挙動不審をすると直後に効果が現れ短時間だけ身動きが取れないようになってしまった。
それからは大人しく物思いに耽るようになり表情も次第に無くなっていた。
動くとしたなら食事か糞尿を出すときか。
後は眠る時。
出る事は当然にできず。
広いとはいえ道具も書物さえもない。
何かをするにも短時間で飽きてしまうので入って数日後には只一点を見るだけに終始していた。
それも飽いてくると物思いに耽る事で一日を無為に過ごしていく。
しかしさてその物思いに耽る時間。一月程してだろうか。壊す存在が少し前に現れた。
久しく見ていない顔。
この島の主の子供。まともに会ったのは何時以来か。
いや言葉すら交わした記憶さえ遠い。
到着する日の朝食と同時に渡された端末。説明を聴いた後に横へ置いていた。
そして厳重に施された防御機能が一時的に解除され現れた。
横の端末が鳴る。
取って通話機能を開く。
一声が久しぶりという言葉を掛けられた。
そして戯言を何か言いながら厚いとはいえ一枚隔てた向こうのその憎らしくも葛藤に塗り満ちた表情を向けられていたからかもしれない。意識が徐々にだが、感情に呑まれて言うつもりのない言葉を放っていた。
事の成り行きを聞くと追放か永劫の監禁だと。
軽く挑発のような言葉をして咳払い的なことをし取り繕う様にお帰り願ったが何か言いたげであったかもしれない。逡巡後に帰っていった。
さてさて。つまりは見せしめが目的なのだろう。ならこの場所に居ても意味が無い。
鈍る身体も限界に来ていたか
伸びをして少しは休めたと耽る。
それに長く居て良いかと問われるとしたら否定するだろう。それは何か以上の悪意を持った外敵を感じる事を気の所為として無視するつもりはない。
と考えながら。
さてなんでこうなったのかを改めて考えてみる。
今更だ。
あれは一体何だったのか。
うん。と自己完結したいが無理なので更に深く考えてみる。
施設から出た直後に包囲され迷うことなく逃げました。
他の方々はまあ僕より上なので心配はしてません。
現れた何かは。いえ、何か達というのが正解でしょうね。
数的に不利だし僕の手には負えないので引き受けてもらいましたけど。
それでですね。何をして拘束送収監されたのでしょう。
逃げ続けて休憩して、ある地点から襲われたので返り討ちにして。を繰り返していると余裕が出来たのである瞬間ふと、思い出したのです。現状、仕事を放り出している状況なので。色々な手続きも放置状態。借金も膨らんでるような。とか心配事は増えるだけで減りはしないのがもどかしくて歯痒く。
なのに、その間も襲われ続けて疲労が蓄積していって。
あぁそれなら。と。監視装置の位置を見ながら追っ手を相手に大立ち回りをして軍人が、居ると思う所へ向かって抵抗のような事をして最後には投降して追っていた方々は何も出来ずに拘束されて何処かへと連れて行かれてました。それから色々と調べられこの休憩所に収監されました。
そうかです。やり過ぎたのでしょう。
調べられたのは良いのですが、何やら不穏な言葉を聞いてしまいました。
供物とか。
捧げ物が見つかった。とか。
嫌な言葉を聞いてしまいました。
その言葉の向いている先が僕で無いことを切に思いたいです。
それからかなり経過して。先ほどの訪問者一人とのやり取りがあり。
色々と話してから帰ってもらい。
端末は回収されてする事もないので現在。
数日が更に経っている。
手持ち無沙汰という状況である。
不可解が一つ。
端末が返却されたのだ。
自身の端末ではないので不満など無かったが、どうしてか数刻してから戻された。
だが操作しようとして反応はなく適当に放り出していたので気にもしなかった。
拘束された時に所持していた物は全て没収されていたので外への連絡も不可能。
持っていたとしても繋がる可能性は低かっただろう。
それは手詰まり。何も出来ないということを示していた。
だからこうして大人しく物思いに耽るようにしていたのだ。
物思いに耽続ける。
「ああ暇ですね。」
何も無い。それは何も出来ないと言う事に見えて。
「はい飽きましたので出ます。」
と足下や壁を叩いていく。
何故か拘束されなかった。
そして手の届く範囲の全てを叩き終えると機密の言葉を言うと電源の入っていない端末が起動して内部の仕込まれていた行動装置が開き箱の鍵全てを解錠させる為の機能を呼び出して勝手に手続きが進められ勝手に全ての鍵が解除された。
直後に空気の抜ける音に続いて箱に筋が走り崩壊して中の全てが落ちていく。
勿論収監されていた者も同様に落ちていく。
そして頭上から警報音がけたたましく鳴り響き見えない下へと落ち続けていく。
「あ着地どうしましょう。」
言葉は誰にも聞かれず闇に呑まれて消えていく。
警報は鳴り止まず続いている。
というのが想定だったのですが。
以外にも対策されてまして、鍵は全て解錠されましたけど補助装置的な物で再固定されてしまい、さらに強固に固定されて逃げることが出来ません。
どうしましょう。
あ、監視してる人達が面白い物を観たような笑顔で見てますよね絶対。
誰も知らない筈なのですが仕込んだ装置の在り処なんて。
さて最後の手段の前に何故に。の結果を考えてみましょう。
あぁ最も有り得ないですけど。一番突拍子のない事が答えなんてね。
屈辱。
を感じたのならそれは一つの答えでしょうか。
して。どうしましようか。出たいのですけど出る手段が潰されたので他の方法を実行しましょうか。
考える全てが妨害か阻害されてました。
誰の差し金なんでしょうかねっ。
はぁどうしようか。
簡単にはいかないだろうなぁ
と硬いし対策されてるからなぁ。
しかしだ溜まりすぎると変な所で爆発するだろうしな。この辺りでしとかないと最悪だよホント。
はあ。こういう優柔不断が駄目なんだよまさに。
うん。悩むなら今回は寝よう。諦めて。
次の自分に丸投げしよ。
そうしよう。
くあっ。はは。何も起きなかったし変化もない。監視は常。対策されすぎてやることがない。
故に暇で仕方ない。
もう良いかね加減する必要も休息も充分に取れたし。
変な瞬間で爆発しても困るし。
更に二日して事態は急変した。
施設内に警報と警告の音が響き渡った。
当直の職員達の顔は青を通り越して真っ白になっていた。
複数の画面には同じ場所を多角的に映してるがある筈のものが無くなっていた。
監視対象を永遠に閉じ込めてる筈だった檻。簡単に入ることは出来ても易々とは出ることが出来ず更に特殊な形質を与えた試作型衣服を着せ怪しい挙動には即座に対応する様に設定されていた。
何かの間違いだろうと職員達は現実を観ないようにしたかったが現実は変わらず目の前に鎮座していた。
職員達が観る全ての画面に映されているのは。
何も無い闇を照らしている光の筋と無機質な重火器。そして無惨に千切られたような紐が揺らめいて監視対象が生活していた檻は消えて無くなっていた。
何が起こったのかを知るために映像を戻して詳細を知ろうとして。再びの現実から逃げたい衝動に襲われて受け入れるしか無かった。
その映像には少し前の変化もない透明な箱が宙を浮いた状態を維持し続けていた。
だが対象は箱の中央で横になり目を閉じていた。
眠っているように視えていた。
そして前触れなく全てが壊れて落ちていき警報の音が今と同様に響くだけだった。
不理解すぎて監視者達は全員が思い考えた。
どう報告したらいいのだろう。と。