第4爆
「……」
アイシアは自室のベッドの上で目を覚ます。
昨日の出来事を思い出し、深いため息を吐く。
結局、あの後シャリー達と別れて帰宅したアイシアだったが、今日も憂鬱な気分であった。
「どうしたの? アイシア、元気がないね?」
ふと、頭の上から声が響く。
アイシアは、その正体が自分の契約した精霊であるピグマリオンだと気づく。
「何でもない……」
「本当? 何か悩み事があるなら相談に乗るよ」
アイシアは少し躊躇ったが、すぐに口を開く。
「あのね……実は私、前まで所属していた冒険者パーティーを追放されちゃって……」
「うんうん」
「つまり、今はどこにも所属していないフリーの冒険者……というか、現状『無職』何だよね。もっと具体的に言うと、働き口が無いから収入が無い。このままじゃ、生活が出来ないから困っているの」
アイシアが抱えている問題を口にすると、ピグマリオンが不思議そうに尋ねる。
「どうして働かないといけないの?」
ピグマリオンの一言に、アイシアは固まる。
ある意味で無邪気な質問に対し、アイシアは何も答えることが出来なかった。
しばらく沈黙が続く。すると、ピグマリオンが再び話しかける。
「ねぇ、アイシア。『人工精霊』の力を使えば、お金なんて簡単に稼げるんじゃないの?」
ピグマリオンの言葉に、アイシアは目を見開く。そして、彼女は初めて『人工精霊』の力を使った時のことを思い出す。
人工精霊ピグマリオンと契約して会得したアイシアの新たなスキル『自爆』。
彼女自身、覚えていないがそのスキルによってシャリーらが住んでいた屋敷を爆発で吹き飛ばしたという。
その時のことを思い出したアイシアは思わず身震いし、青ざめる。
「ダメ……それは絶対にやっちゃいけない気がする……」
「そうかな? 別に良いと思うけど……」
「良くないよ! 絶対ダメ!!」
アイシアは強い口調で言う。
「その……まだ新しい力に慣れていないし、それに……その……」
「怖いんでしょ?」
「……っ!?」
アイシアが言い淀んでいると、ピグマリオンが図星を突いたような発言をする。
「怖くて当然だよ。だって、アイシアは『人工精霊』と契約したばかりなんだから」
「……うん」
「でもね、アイシア。恐れずに前に進まないと何も変わらないんだよ?」
「ピグマリオン……?」
「アイシアは『人工精霊』と契約した『人工精霊使い』になったわけだし、これは大きな一歩だと思うんだ」
「…………うん」
「うんうん。だから、まずは自分の力で出来ることからやってみようよ!」
ピグマリオンの力強い言葉に、アイシアはハッとなる。
「そっか……そうだよね」
アイシアは自分に言い聞かせるように呟く。
「分かった。とりあえず、街に出てみようと思うんだけど、一緒に来てくれる?」
「もちろん!」
アイシアはベッドから起き上がり、そして部屋を出て行った。
アイシアが向かった先はギルドだった。
ギルドとは、冒険者が依頼を受けたり報告したりする場所であり、いわば仕事斡旋所のような場所である。アイシアはまず、そこで依頼を受注しようと考えたのだ。
早速、受付に向かう。しかし、そこには先客がいた。
アイシアが視線を向けると、そこには見知った顔があった。
その人物は、かつて自分が所属していたパーティーのリーダーであった青年……オードランだった。
アイシアが見ていることに気づくと、彼はニヤリと嫌な笑みを浮かべた。
「おぉ、アイシアじゃないか。こんなところで会うとは奇遇だな」
「こんにちは」
「おい、ちょっと待てよ」
そそくさと立ち去ろうとするアイシアを呼び止める。
「なあ、アイシア。まだ冒険者を続ける気だったんだな。俺はてっきり、引退したのかと思っていたぜ。お前みたいな弱い落ちこぼれは、冒険者に向いてないからな」
「……」
「おっと、そう睨むなよ。コッチは優しさで言ってるんだぞ? 俺のパーティーでお荷物だったお前が、1人で冒険者を続けたところで痛い目を見るだけだろ? だから、忠告してやったのさ」
「余計なお世話です」
「…………おぉ、そうか。まあ、好きにしな。どうせ無駄だと思うが……せいぜい頑張れよ」
オードランはそう言うと、鼻で笑いながら去って行く。
すると、ピグマリオンが不機嫌そうな表情になる。
「何あれ。ムカつく~」
「大丈夫。気にしてないから」
アイシアは平静を装う。
「本当に?」
「……ううん。本当は結構傷ついているかも」
アイシアは苦笑しながら話す。
「やっぱり? あたしには分かるよ。アイシアは優しい子だってことがね。だじゃら、そんなアイシアのことを傷つけたあいつが許せない奴なんだ」
「ありがとう。ピグマリオン」
アイシアは微笑み返す。
「それじゃあ、私も行ってくるね」
「うん。頑張ってね」
アイシアは改めて受付に向かった。
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