第3爆
それから数時間後。
アイシアはベッドの上に寝転がっていた。
彼女の周りには、様々な器具が置かれている。
部屋の中には、何やら甘い匂いが漂っており、アイシアの身体が火照り始めていた。
「んっ……」
アイシアの口から艶めかしい声が漏れる。
呼吸が荒くなり、汗が噴き出す。
全身が熱くなっていき、次第に意識がぼんやりとしてくる。
(なんか……変な感じがする……)
アイシアは自分の身に起こっている異変に気づく。
まるで自分の意思とは無関係に、身体が勝手に動き出そうとしている感覚だ。
(このままだと……いけない気がする)
アイシアは必死に抵抗を試みるが、一向に効果が出ない。
むしろ、時間が経つごとに状況は悪化していく一方である。
(くっ……もうダメかもしれない……)
アイシアは諦めかけたその時、突如として強烈な眠気に教われる。
やがて彼女の視界は真っ暗になり、そのまま深い眠りへと落ちていった。
*****
「……あれ?」
アイシアは目を覚ます。
いつの間にか眠っていた彼女は、気持ちの良い微風を肌で感じる。
目の前で太陽が燦々と輝いていることに気付き、アイシアは自分が外にいることに気づく。
そして、何故か服を着ていないことに気づいたアイシアは、慌てて手で自分の身体を隠した。
「ひゃあ!?」
「目が覚めたみたいね」
背後から突然声を掛けられ、アイシアは驚いて振り返る。
そこには、シャリーの姿があった。その背後にはドーチェも隠れていた。
彼女達は、どういう訳か髪型が乱れ、衣服はボロボロ。所々、焦げたような跡があり、顔にも傷が出来ている。
アイシアはそんな二人を見て驚くと同時に、不思議に思う。
(私……さっきまで何をしていたんだっけ?)
ふとそんな疑問を抱く。先ほどまでの記憶が曖昧で、思い出せない。
ただ、何かとても恐ろしい目に遭ったような気がするが、それが具体的にどのようなものだったのか、上手く思い出せない。
だが、そんなことを深く考える前に、まずは目の前にいる二人に話を聞こうと口を開く。
「あの……何があったんですか?」
「そうだねぇ。まぁ、色々あったというか失敗したというか……」
「失敗? ……えっと、私さっきまでお屋敷の実験室にいたはずなんですけど、何で外で眠っていたんですか?」
「アイシアが爆発して屋敷が吹っ飛んだからだよ」
「……え?」
ドーチェの一言を聞いて、アイシアは思わず固まる。
その言葉の意味を理解するのに、しばらく時間を要した。
そして、ようやくその意味を理解した時、彼女は愕然となる。
アイシアは恐る恐る周囲を見回す。
辺り一面焼け野原になっており、巨大なクレーターのようなものが形成されていたことに今更ながら気づいた。
「嘘……」
アイシアは顔を青ざめる。
「あー、気にしないで。貴女は何も悪くないから」
「その通りです。『人工精霊』との契約を軽い気持ちで提案したシェリーの責任です」
ドーチェは、ポンスカとシャリーを責めるような口調で言う。
それに対し、アイシアは首を傾げた。
「人工精霊……? さっきも言っていましたけど、それって……」
「一から説明してあげるわ。これを見なさい」
そう言いながら、シャリーはアイシアの胸元を指差す。そこには赤く光る刻印を刻まれていた。
「これは……」
「これが『人工精霊』と契約した証よ。これは『人工精霊』の核であり、言わば心臓部でもあるのよ」
すると、そこから小さな光が現れた。
それは、まるで小人のような形をしており、宙に浮かんでいる。
「なにこれ……?」
『こんにちは! あたしの名前は『人工精霊』のピグマリオン!』
その光は元気よく挨拶をする。
「えっ? 喋った?」
急に語り掛けてきたことに、アイシアは戸惑いを見せる。
一方で、ドーチェはどこか得意げな表情を浮かべていた。
「驚いたでしょう。それが『人工精霊』なのよ」
「これが……?」
アイシアは自分の胸に手を当てる。
「ちなみに、その人工精霊と契約することで、あなたにはスキルを使うことが出来るようになるわ」
「そうなの?」
アイシアは素直に関心する。
しかし、シャリーは厳しい視線を向けてくる。
「だけど、この力は諸刃の剣よ。一歩間違えれば命を落とす危険があるの」
「まあ、実際に屋敷が吹っ飛びましたからね」
隣でドーチェが苦笑する。
シャリーが続けて話す。
「人工精霊との契約によって発現した貴女の新しいスキル……それは『自爆』!」
「じ……自爆?」
「その名の通り、自らを犠牲にして爆発を引き起こすの。でも、威力に関しては申し分ないはずよ。まぁ、今回はちょっと規模が大きかったみたいだけれど……。何せ、あのお屋敷を吹き飛ばすくらいだからね」
シャリーの話を聞いたアイシアは唖然とする。
まさか自分がそんな危険な力を手に入れてしまったとは思いもしなかったからだ。
「大丈夫ですよ。貴女の能力はボクらが保証します。だって、ほら……貴女は不老不死なんですから、自爆しても死ぬことはありません」
「不老……不死……」
アイシアは改めて自分の身体を見る。
そこには、相変わらず傷一つない綺麗な肌があった。
確かに、普通の人間であれば死んでいてもおかしくはない大怪我を負ったはずだ。だが、アイシアは平気だった。
「良かったじゃない。これでもう誰にも弱いとは言わせないわ。さあ、その力を存分に奮って、貴女を馬鹿にした連中を迎えしてやりなさい!」
「はい……ありがとうございます」
アイシアは微笑み返す。
こうして、アイシアは新たな力を手に入れた。
だが、この時の彼女はまだ知らない。
自分の力が世界に大きな影響を及ぼすことになることを。
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