第1爆
『女神スキル』。
それは、100万人に1人しか発現しないという選ばれし者が持つ、奇跡の力である。
この世界には、そういった特別な力を持つ者が少なからず存在している。
そして、ここにいる冒険者アイシアもその中の一人だった。
彼女のスキルは、『不老不死』。
効果は、その名の通り死ななくなるというもの。彼女はそのスキルを13歳の頃から会得して以来、どんな致命傷も瞬く間に回復し、永遠に老いることもなく、ずっと生き続けてきたのだ。
そんな類まれなるスキルを持つアイシアだが……現在彼女は窮地に追いやられていた。
「アイシア。お前を、冒険者パーティー『セイクリッド・ハーツ』から追放する」
「えっ……」
突然の宣告に呆然とするアイシアだったが、次の瞬間ハッと我に返る。
目の前にいる男。パーティーリーダーのオードランが告げた言葉の意味を理解したからだ。
「ど、どうしてですか!? 私はこのパーティーで頑張ってきました! なのにどうして……」
「お前のような役立たずはいらないんだよ!」
「きゃあっ!」
オードランの怒声と共に放たれた拳によって、アイシアは吹き飛ばされてしまう。
そのまま地面に倒れ込んだアイシアだったが、すぐに起き上がると、キッとオードランを睨みつける。
しかし、オードランは全く動じないどころか、ニヤリと笑みを浮かべて口を開く。
「おいおい、そんな怖い顔すんなって。俺はただ、優しい提案をしてやってんだぜ?」
「……提案? 一体何のことです?」
「簡単な話さ。お前の代わりにこいつを入れるってだけだよ」
そう言って、オードランは後ろを振り返る。するとそこには、一人の少女の姿があった。
年の頃は15歳ほどだろうか。肩まで伸びた銀髪に赤い瞳をした可愛らしい女の子だ。
しかしその容姿とは裏腹に、彼女の纏う雰囲気はどこか異質なものを感じさせた。
「……その子は何なんですか?」
「こいつはアリスティア。お前と同じ『女神スキル』の持ち主だ」
「なっ!?」
「『剣聖』っていう強力なスキルを持っていてなぁ。熟練騎士が10人相手にしても負けねえぐらい強いんだぞ?」
オードランは得意げに語る。
一方、アイシアの方はあまりの展開に思考が追いついていないのか、目を丸くして固まってしまっている。
「……私よりもその子の方が優秀だと?」
「ああそうだとも。お前はいくら殺しても死なない化け物みたいな奴だが……それだけだ。戦闘能力はてんで話にならねえし、力も無いから荷物運びにもならねえ」
「…………」
「それに比べたらコイツは違う。戦闘面は一流だし、伸び代もある。まあ要するに、お前なんかよりよっぽど優秀な人材だってことだ」
「そんな……。嘘ですよね? 私があなた達を置いて行くなんて……」
「本当だよ。俺らはもう決めたんだ。これからはコイツと一緒にやっていくってな。そうだろう皆?」
オードランの言葉に応えるように、他のメンバー達が一斉に首を縦に振る。
どうやら既に意思統一が出来ているようだ。
そしてその表情からは、決して揺るがぬ決意のようなものが見て取れた。
「そんな……」
アイシアの顔から血の気が引いていく。
今までずっと一緒にやってきた仲間達に裏切られてしまったことにショックを隠し切れない。
絶望した表情を浮かべるアイシアに対し、オードランは勝ち誇ったような笑みを見せる。
「じゃあそういうことだ。今までご苦労だったな。あばよっ」
そう言い残すと、オードラン達はその場を去って行った。
一人残されたアイシアは呆然と立ち尽くしたまま動かない。
(私は一体何を間違えたんでしょうか?)
アイシアには分からなかった。
何故自分がこんな目に遭わなければならないのか? 自分のどこがいけなかったというのだろうか?
ただひたすら自問を繰り返す。
しかしどれだけ考えても答えなど出るはずもなく、アイシアの胸中に深い悲しみだけが残った。
やがてアイシアはフラフラとした足取りで立ち上がると、おぼつかない足取りで歩き出す。
向かう先は街外れにある小さな教会だ。
そこにはかつて孤児として育ったアイシアを育ててくれたシスターがいる。
アイシアはそのシスターに全てを告白しに行くつもりなのだ。
「……あら? アイシアじゃないの。久しぶりねぇ」
教会の中に入ると、奥の部屋から初老の女性が現れた。
彼女はランジュ。この教会でシスターを務めている女性で、アイシアとは小さい頃からの付き合いがある人物だ。
「お久しぶりです。マザー・ランジュ」
「本当に久し振りね。元気にしてたの?」
「はい。私はいつも通りでしたが……」
「どうかしたの? 浮かない顔をしているけれど……」
「実は……」
アイシアは事情を説明する。
するとランジュは驚いた様子で目を見開いた。
「まさかあなたが追放されるなんて……。何かの間違いではないの?」
「いいえ、事実です。私はあの人達に置いて行かれました。私の力が及ばなかったばかりに、大切なものを失ってしまったんです」
「そうなの……」
アイシアの話を聞き終えたランジュは、悲痛な面持ちを浮かべながら呟く。
「それで、これからどうするつもりなのかしら?」
「分かりません。ただ一つ言えることは、このままではいけないということだけです。だから私はもう一度、冒険者としてやり直すつもりです」
「そう……。あなたの気持ちはよく分かったわ」
真剣な眼差しを向けるアイシアを見て、ランジュは決心を固める。
そして、彼女は紙とペンを用意すると、そこに文字を書き始めた。
「これは?」
「とある魔法使いの住所よ。私の友人でもある人だけど、きっと力になってくれると思う。ただ、あまり期待しない方が良いかもしれないけど……」
「いえ、ありがとうございます! 早速行ってみます!」
「気を付けてね……」
ランジュに別れを告げると、アイシアは勢いよく走り出した。
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