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冒険者教育論  作者: ゆきつき
1章ダンジョン探索
8/30

8.帰還

 助けが来る、なんて希望はないだろうな。

 いくらリヒトが迅速な対応を取って、学園に救助要請を出したとしても、1日も経たないで俺達を見つけ出すなんて厳しいだろう。


 そしてまあなにより。あのモンスター、学園にいる先生でも、敵わないんじゃないかってレベルの強さを、恐らくしてる。勝てる気がしないモンスター。


「なあ」

「ねえ」

「っと、俺が先話すぞ」

「いや、私が」


 ここは流石に譲れない気がする。レディーファーストとか関係ないよ。


「全力でどれぐらい走れる?」

「……え?」

「どーせ考えてる事は似たり寄ったりだろうから、ここは譲らないからな。とにかく逃げてくれ」

「でも、」


 でももくそもない。ここは男の意地の張るところだ。というか、こんなところで意気地なしを発揮したくない。だから怖くても見栄を張って、意地を張る必要がある。


「俺にできる事なんてのは、仲間1人をこの場から逃げさせる事ぐらいだ。なに、大丈夫。時間稼ぎぐらいできる。俺は体力馬鹿だから」

「そうじゃない」

「俺はどちらかと言えば動物型の方が相手するのは得意なんだけど、ヒト型でもなんとかなるさ。うん。問題ない」

「だってそれは、ヴァン君が」

「それは言いっこなしだ。だって君だってここで二人犬死するぐらいなら、自分を囮に、とか思ったんだろ?でもそういうのは男の役割だ。だからまあ、心配すんな。俺はこれでも、そこそこ強いんだから」


 まあ、既にフォーセさんの足を引っ張ってたから、強いって言うセリフの信ぴょう性が無いんだけど。


「この際だからハッキリと言う。君は私より弱い」

「悲しいなぁ」

「だから私に守られてよ。守らせてよ」

「ハッ!そんなのされたら、男が廃る、ってな。俺は我儘だから、我儘を通させてもらうぞ」

「なんで」

「ほら、行った行った。守る大将がここに居ちゃ困るんだよ」


 流石に、こんな場所でもフォーセさんに守られてたら、マジで自信喪失するから。好きな人に守られて生き延びても、そんなの嬉しくないし。というか、マジで正常じゃいられなくなる自信があるもんね。


「だいじょーぶ。俺も死にたくないんだ。こんな場所で死にゃしないって」

「絶対に帰ってくるって、約束して」


 約束はちょっとし難いけど。


「この懐中時計。これも俺の親の形見、らしいんだ。預かっといてくれ。受け取りに行くから」

「わかった」


 まあ俺にとって親の形見ってのは、そんなに大切な物って印象ではないけど。世間一般で言うところの、とても大切な物、のはず。

 だからまあ、それを預ければ良いだろ。約束とはまた違うけど。うん。納得させるには丁度良さげ。


「おらッバケモノ、俺が相手だ」






__________









 真夏の暑さが更に激しくなる今日この頃、皆さん、どうお過ごしでしょうか。

 彼はまだ、眠っています。それも仕方ないのかもしれません。なんでも彼は、通常だと出血多量による失血死が起きるぐらいには血を失っていたそうです。更にその状態が、2日と数時間続きました。

 それでもまだ、心肺が停止していない方が奇跡であり、というか何故死んでいないのか、おかしいぐらいだと、お医者さんが言ってました。その状態で命を繋ぎとめたのは、彼の生命力が異様に強かったからだろう、とお医者さんが言ってました。

 ですが、目を覚ます事は、ほぼ無いだろう、とも、お医者さんは言っていました。ただでさえ失血死で死んでもおかしくない状況を生き抜いたのはものすごい生命力だけど、そんなのとは関係なしに、体の構造的に、普通ならば生きられない状況が続いていたのです。詳しい事はわかりませんが、とにかく植物状態が続くだろうと、そう言っていました。

 それでもお医者さんは言いました。生きていただけでも奇跡だ、と。確かにその通りなのかもしれません。


「今日もぐっすりと眠っているな、ヴァン。ったく、心配したこっちの身にもなってくれ」


 お見舞いには、毎日リヒト君が来ていました。学園一のイケメンが彼の看病に来ている事はとても変な感じがしますが、彼以外にお見舞いには来ません。というか、普段馬鹿が付くほど元気だった彼が突如植物状態になったと言われても、誰も信じる事ができず、彼の状況を見に来る事ができないのでしょう。なにしろ、アタシもその一人なのです。


「ったく、罪な男だぞ、ヴァン。フーコさんは自分のせいでこうなったと自分を責める事になっているし、アロウさんは幼馴染が突如こうなった事に驚き戸惑いどうしたらいいのかわからず家に引きこもっているそうだぞ。なによりフォーセさんはお前の病室の前を動いてない。なあ、さっさと起きろよ。ボクは、一体どうすればいいんだ?」


 アタシは一体、どうするべきなのでしょう。やっぱりお見舞いに行くべきでしょうか。でも、いつも元気な彼が、笑う事も無ければアタシのかける言葉に一切の反応を示さないと思うと、どうしても足が動かないのです。そんな現実を受け入れたくなくて、ここから動く事ができないのです。


「ん、んん-ーー?今何時?俺、腹減った。ご飯くいたい。カリッカリのベーコンとパンを食いたい」

 詳しい出来事は、おそらく次回語られます。


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