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冒険者教育論  作者: ゆきつき
1章ダンジョン探索
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1.皆大好き遠征のグループ分け

「良いですか?一挙手一投足まで見逃してはなりませんよ。人間が相手だろうとバケモノが相手だろうとも、機械じゃなく生き物なのですよ。必ずその人の特徴、欠点があります。それを見つけ出してください」


 あー。良いなぁ。汗のしぶきが、動くごとに跳ねる感じ。


「そして投げる側は、出来る限りその癖を出さないように。相手が人なら、癖なんて出していたら、すぐそこを突かれますよ。何て言っても、癖と言うのは本人に自覚なく発症しているものです。つまりは自ら知らない弱点を常に露呈させているようなものです。だからこそ、それを隠さなくてはなりません。一番は直す事ですが、そんな簡単に直せる癖は癖とは呼びません。ですので、隠すよう努力してください」


 あとは、そう。動くタイミングで、たぷんっ、って揺れるのも良い。いやけっして下心ありじゃなく、こう、髪をふぁさっ、って動く感じが素晴らしい。え、擬音がさっきと違う?そこは、ほら。おつぼねの言う一挙手一投足を眺めてる結果だよ。


「そして躱す側。相手の癖が無くなろうとも、相手の動きから目を逸らしてはなりませんよ。どれだけ少ない動きだろうとも、必ず何を狙っているのか、どこを目掛けて投げているのかがわかるはずです。どんな事があろうとも、相手から視線を外してはなりません。良いですね?」


 それにしても、こっちは。はぁ。むさ苦しい筋肉隆々の男どもが汗臭そうな運動。くっせぇ、うわ、くっせぇ、こんな奴等と同じと思われたくねぇ。


「そしてギリギリで躱すのはやめるように。確かに無駄なく攻撃を躱すのは必要最低限の動き、つまりは紙一重での回避です。ですが人間の必殺技やモンスターの攻撃には、攻撃に当たらなくとも、攻撃範囲には入ってしまっていると言う事があります。そのため、紙一重での回避も慣れておく必要はありますが、それを癖にするのもいけません。余裕があるうちは、紙一重の回避、余裕の回避の二つを極めるように」


 もっとこう、余裕を持つと言うか。あいつら、頭まで筋肉溜まってんのか、こんなくっだらねえ練習ですら全力なんだもん。服がインクじゃなくて汗でびっしょりだもん。気持ち悪ぃもん。男の汗だく姿なんて、見ても誰も得しねえよ。


「はぁ。俺もあっちに加わりた、ぐふぇ」

「おい、余所見は」

「こらヴァン君、余所見はいけませんよ。それに顔面に喰らうなんて。グラウンド一周」

「えッ」

「つべこべ言わないで、さっさと行く。練習する時間が無くなりますよ」


 練習する時間を無くしてんのは、おつぼねの方なんだよ。

 くっそ、おつぼねのくせに、偉そうに。腹立つわぁ。











「では、組手の時間です。先ほどのペアで組手を行ってください」


 よーやく組手だ。そうだよ、戦闘が本分のこの学校は、こういう感じで対人戦メインで良いんだよ。なんだよ、ペイントボールの投げ合いって。そんな事するより、普通に対人戦を繰り返していた方が相手の攻撃に慣れれるし、回避の仕方も身に着くってもんだろ。


「にしても、投げ合いの時のお前と来たら、随分と意識ここにあらず、だったな」

「だってボールを躱すぐらいなら、感覚で出来るじゃん」

「出来てないから、顔に当たったんじゃないの?」

「い、いやあれは、服がへそぐらいまで上がって」

「余所見も立派にサボってる事になるでしょ」


 そうは言っても。折角女子のへそチラがあったんだぞ?練習よりそっちだろ。


「で、どうなの、そのあと」

「そのあと、とは?」

「真顔で聞き返されても困るわ。自分で言ったんだかんな?なんだって学年、ってか下手しいこの学園全体でトップレベルの人気者を狙おうと思ったのやら」

「しょ、しょうがねえだろ」

「そこ、私語は慎むように」

「「あいすんません」」

「だって、好きになる気持ちは、抑えようのないものじゃねえか」

「例えそうでも、普通は諦めがつくってもんだ。自分とはつり合いが取れない、って」

「良いよなぁ、お前はイケメンだから、つり合うつり合わないってのを考えなくても良いもんなぁ」


 この学園で一、二を争うイケメン、リヒト。まあ色々とあって、気兼ねなく話す事ができる、唯一の友人。自分でも悲しくなるぐらい、この学園じゃ友達が出来ずに自分でも困ってる。これでも町じゃ一番の友人持ちと言うか、町中全員が友人って感じだったのに。まあ所詮小さい町の中のオンリーワンだった訳で、ここでも通用するとは一切思ってなかったけど。

 それでも、ねえ?やっぱこの学園は友人を作る場所ってより、落とし合う場所って感じだからなぁ。友人を作るのが難しすぎる。もっとこう、お遊びの場かと思ってたけど。


「ははっ。まあ自慢じゃないけど、そこそこイケメンだとは思ってる」

「そこそこイケメンだって言ったのはよく謙遜したな、って言ってやりたいけど。それでもやっぱ自分でイケメンを認めてるのは癪だ」

「そっちから話を振ってきたのに、それはないよ」

「ま、それは置いておいて」

「で、進展は?」

「……ねえよ」

「なんだって?声が小さいなぁ?」

「だから、ないって言ってんの!なに、この近距離で聞き逃すとかどうかしてんじゃねえの!」

「そこ、私語禁止二回目!」

「「あいすんません」」


 おつぼねのくせに、腹立つわぁ。あいつなんもできないくせに。

 ってか話しながらでも組手ぐらいできるでしょうが。なんなの、人間はシングルタスクしかできないとお思いで?人間二個ぐらい同時にこなすマルチタスクぐらいできるだろうが。これだからおつぼねは、腹が立つんだよ。もっとこっちの事も考えてほしいわ。

 ってか実戦の時は意思疎通しながら戦わないといけないんだから、それこそ話しながら戦う癖をつけるべきだと、俺は思うんだよ。


「そもそも、接する機会がねえんだわ」

「だろうね。いくらボクと一緒にして女子が寄ってくるって言っても」

「蜜を塗られたカブトムシかなにかかな、女子って」

「ボクがそこまで人付き合いが苦手だから、どうしても避けがちだからね」

「とは言っても、もうちょっと接する機会ってのが欲しい。そりゃあ、どうせ俺みたいな平凡な奴は学年の人気者になんてつり合いませんよーだ」

「わかってるじゃん。身の程ってやつ」

「腹立つわぁ。自分がイケメンだって言う立場を利用した口ぶり」

「それが嫌じゃないから、こうして接してるんだろ?それにボクは望まれたボクを演じるまでだよ」

「俺はそんな嫌味を吐くような奴を望んだ覚えはねえけどなぁ」


 まあ、イケメンで運動神経抜群で性格もイケメンだったら、それこそ自分に絶望しかねないから、こんぐらいサバサバしてると言うか、サバを食べると言うか、あいや、サバを読む、あ、意味ちげえや。とにかく、こんぐらい厳しい感じじゃねえと、やっぱとっつきにくいもんな。まあすべてにおいてイケメンだろうとも、別に友人を辞める訳じゃないけど。



キーンコーンカーンコーン


「はい、終了です。今日はいつもより暑かったですからね。水分補給をしっかりとするように」








「はー。もう終わったよ。あんなペイントボールの投げ合いなんてくだらない時間をだらだらとやるぐらいなら、組手だったり、もうちょっと対人戦の時間が欲しいわぁ。おつぼね何もわかってない」

「まあまあ、いつか役立つ時が来るかもじゃん、あの回避特訓も」

「ものは言いようだよ。確かに回避特訓って言えば聞こえはいいけど、実際はペイントボールを投げ合って、わかりやすく授業をしている成果ってのを生徒達に刻み付けて、自分が昇級する卑怯なやり口だぞ、あれは。自分の教育だとか関係なく、優秀な生徒がそのクラスから出れば自分の手柄のように喋って、反対に劣等生が沢山だったら自分は見て見ぬふりをする、卑怯なやり口だって」

「お前はおつぼね嫌いすぎんだろ」

「誰があんなおつぼねが好きになるってんだよ。どんな媚び売りでも、あんな先生には売らないって」


 っと、蛇口に到着っと。水水、


「あ、」

「っと、すま、ん、ん!」


 同じ蛇口を使おうとしてしまったのは、そう。学園一の人気者である、フォーセさんである。金髪碧眼カッコよさと可愛さと美人さすべてを兼ね備えてる、才色兼備の人気者である。


「ん?ああ、ボク自分の持ってるから、こっち使えよ」

「え、この状況で?」

「じゃ、ボクはお先に失礼しますね」

「え、は、うん」


 おいおいおい、ダメだって。この状況で一人にされるのは不味いって。確かに接点Tが足りないと言ってたけど、そんないきなり憧れの人と1on1はきついって。

 確かに俺は見ず知らずの人と案外喋れちゃうようなお人だと自覚しているけど、だからって普段から話し慣れない女子との会話を知らないし、それも憧れの人の会話だなんて、絶対に無理だって。無理無理無理、絶対に無理。


「顔のインク、全然落ちてないね」

「ふぁ、ふぇ、え?」

「顔に当たったインク、そんなに落ちにくいものなの?

「い、いや、どーかな。俺も初めて喰らったから、よくわかんね。それに、鏡とか持ってないから、どれぐらいインクが残ってるのかも、」

「はいこれ。貸してあげる」

「え?」

「じゃ、使い終わったら返してね。私髪の毛長いから、シャワー浴びるの時間かかるから」


 ……。なんか流れで会話が出来ちゃった。

 ……、え、俺の顔、そんなにインク残ってんの?

 ……。


「うわぁ、ほぼ黄色じゃん」


 どうせ顔を見ての会話なら、ベストコンディションの状態を見て欲しかった。なんたってこの恥ずかしい状態の顔を見せないといけないんだよ。……、いやまあ、ベストコンディションだろうとも、人に自慢して見せれるほどのご尊顔じゃないんだけど。せいぜい鏡の前で、俺ってカッコいい―、とか言いたくなるぐらいの顔だ。


「とにかく、顔のインクを落とそう。じゃないと汗臭い連中に笑われかねない」






________________





「と、言う事で。明日から夏休みです」


 はー。終業式ってのに、汗だくにならないといけない練習しないといけないのか。普通こう、終業式の日ってのは、書類を配りますよー、みたいな日じゃねえの?

 別に体を動かすのが嫌って訳じゃないし、ってか体を動かしていた方が都合が良いんだけど。それでもこう、メリハリと言うかね?オンとオフがあっても良いと思うの。いくら戦闘がメインの学園でも、そういうのがあって良いと思うの。まあ座学なんてすぐ寝ちゃう俺からしたら、全然良いんだけど。


「ですが明日から最大1週間は、学校所有のダンジョンに潜ってもらう事になります」


 あー。そういや、そんな感じの通知が来てたっけ。親の許可を貰ってください、みたいな通知。ちょっちよくわかんないですね。紙は俺の机にぐしゃぐしゃになって詰まってる。


「それで、そのダンジョンに潜る班ですが、この紙にグループが載っていますので、しっかりと確認し、明日の予定など話し合ってください」


 ほー。班での行動ですか。俺、自分で言いたくないけど、こう、集団行動みたいなのは苦手なんだよなぁ。まあでも、ダンジョンに行くって事は、流石に死ぬような事はなくても、まあ命を懸けないといけないような場所だし、しっかりと自重はするつもりだけど。


「では、良い夏休みを」





「なーにが良い夏休みを、だ。どうせ1週間はダンジョンに囚われになるんだ。実質夏休みなんて、1週間後じゃねえか」

「まあまあ。一応ダンジョンに行くのも先生が同伴する訳じゃないんだし、ボク達の自由行動みたいなものだから。まあほとんど監視状態だけど」

「それだよー。だって夏休みってのは、誰の監視もなく、羽を伸ばす事を差す訳だろ?それを1週間も拘束されちゃ、休みとは言わないだろ」

「まあまあ。一応これは成績に含めない、って言ってるんだし、学園側からしたら休みだって思ってんじゃない?」


 とは言ってもなぁ。この学園主催のダンジョン遠征なんて、そんなの学校行事となんら変わらんじゃん。しかも出席を強要される行事なんて、それはもう休みではないんだよ。


「で、ボクのグループは一体どうだか」

「俺はどーだろ?」


 このグループ分け、とても重要。俺はは座学の方はさっぱりだけど、戦闘訓練の方はこう、ぱっっとやればさっっとできちゃうところあるから、一部の層からは恨みを買ったりしてるから。そういうところと同じ班にされたら、囮役とか任されそうで嫌だなぁ。


「おっ、ボクとヴァン、同じ班だ」

「え、言っても戦闘の成績近くなかったか?流石に離すだろ」

「ほら、座学の方で成績が悪いのがここに来て活きたじゃん。やったね」

「煽ってるだろ、あ?」

「いやいや、同じグループで助かったよー。ボクも他の人には恨まれちゃってるからねー。ヴァンと同じで助かったよー」

「言ってる事は事実だけど、メチャボー読みなのが気になんぞ」

「で、他のメンバーはっと」


 そうそう、他のメンバーも重要。

 この遠征、男子だけとか女子だけとかのグループは存在しない。まあ大人での男女グループとか絶滅危惧種だけど、一時的な同盟だとかで男女一緒になる事もあるから、そういった意味でも、男女でのダンジョンの過ごし方ってのを学ぶためにも、男女グループになる。


「えーとどれどれ、フーコさんに、おっ、よかったじゃん。フォーセさんじゃん。良かったな」

「え?」

「よろしくね」


 え、いつの間に隣にいたの?ぬっっと現れたぞ。

 

「やー。男と一緒ってのは嫌だけど、学園一のイケメンが一緒だと、目の保養にもなるし、よかったよかった」

「俺は?」

「ヴァンは下心さえなければ、とても親しみやすくて良きです」

「なんだと、俺は常に下心なんてない紳士だ!」

「じゃあなんで組手の時、私の事見てたの?」

「ファ、フェ、へ?」

「まあまあ。それで、どうする?誰が前衛務める?」

「リヒトが前衛でしょ?あ、ヴァンもどうせ前衛しかできないだろうし、ヴァンとペアで前衛やってね」

「人を暴れる事しか能のない野郎みたいな事言わないで貰えます?」

「はいはい。で、フォーセは前衛のサポートとうちを守るって大役があるから、中衛でしょ?」

「わかった」

「自分の身ぐらい自分で守ったらどーなんですかー!」

「いちいちうちの言った事に噛みつかないでくれない?これだからモテない男は」

「どーしてモテないってわかった!?」

「で、私は後衛しかできないんで、後衛を。それでいんじゃない?」

「ま、ボクとしても中衛を任されるほど強くないし、これが妥当かな」

「良いよ」

「ヴァンは?」

「あ?俺もどうせ前衛で暴れるしか能が無いから、それでいい」

「自分で言ってんじゃん、暴れるしか能がないって」

「気にすんな」


 まあ実際に俺は他のサポートしつつ自分の役割を全うするなんて器用な事できないし、後衛とか縁が無いしで、前衛以外にできるポジションないからね。それで良いんだよ。


「じゃ、また明日」

「遅刻すんじゃねえぞ!うちはまだしも、学園一の美少女を待たせるなんて言語道断だぞ!」

「う、うす」


 なんか脅された。それも男っぽい感じのイカツめの脅しだし。


「ま、よかったな。これでまた話す機会が増えたじゃないか」

「確かに望んだけど、そーゆー機会は望んでないかなー!?」

「なんだよ、嫌だったの?」

「そーは言ってないでしょ!?」

「ならよかったって思うのが心の余裕に繋がるぞー。ボクも暑さにやられたから、早く休みたいんだよねー。お先ー」

「あ、うん、そう。じゃあまた明日」


 まあ、ごちゃごちゃ考えても仕方ないよな。色々気になる事があるけど、とにかく一緒の班になれてラッキー、そう思うが吉ってね。




 あ、鏡返すの忘れてた。

 初めましてよろしくお願いします。ゆきつきです。


 よろしければ、ブックマークや評価、感想をくれると嬉しいです。泣いて喜びます。

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