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オオカミ様のいうとおり【改訂版】  作者: よしてる
第三部 ワケあり少年、翻弄される

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〈ヨシュアとティアラ〉 二人の夢




   * * *



窓の外に音もなく降っている雪を見て、ファウストは、まもなくやってくる人のために暖炉の薪を増やした。

同じ頃、同じ並びの別室でヨシュアがティアラに愛の告白をしてるだなんて想像すらしていない兄王は、知らないながらも憂鬱な気分を持て余していた。

どちらのためにもよくないと別れを迫ったファウストだが、あれだけの働きをされた後では、このまま「はい、さようなら」と送り出すわけにもいかなくなった。

だから、しょうがなく二人きりで話す機会を与えたのだ。


別れを促した自分はティアラに嫌われてしまうかもしれないと、ずいぶん現実離れした心配をしている内に扉が叩かれて、待ち人であるシモンが顔を出した。


「話って何?」


こちらも二人きりなので、王と臣下ではなく気安い口調だ。


「カミの世話、よく務めてくれたな」


「そのこと? こっちこそ、指名してくれてありがとう。本当はずっと、関わらないように手配してくれてたんだよね」


これだからシモンには敵わないと思うし、側にいてほしいと願ってしまうのだ。

まあ、あんなにカミに懐くとは完全なる想定外だったのだが。


「あ、じゃあ、話って、もう一つの任命の件?」


謁見の間に呼び出されて山守の世話を任された時、ヘルマンからこの件を上手く務めきれば、もう一つ特別な案件を任せると言われていたのだ。


「シモン、アスラ皇帝の衣装をどう思った」


「皇帝神の? 布地は黒一色なのに、豪華な印象だったよね。あれを負けずに着こなしてるんだから、さすがオーヴェの権力者って感じかな。ああ、わかった。三年後にはファウストも在位十周年だから、式典の準備に入るようにって話でしょ」


そう答えてファウストを見ると、やけに神妙な顔をしているので、はしゃいだ反応だったシモンは居心地が悪くなる。


「なあ、シモン。私の在位記念式典の衣装、シモンが考えてくれないか」


「え?」


「製作はワーズワースに依頼することになると思う。シモンの案が採用されても、ワーズワース名義でしか公表はできない。故に、ワーズワースが認めるものでなければ通らないし、通ったところでシモンの名前は世に出ない。それでも、私はシモンに頼みたいんだ」


「あ、え、どうして今更……」


シモンは考えがまとまらないほど驚いていた。

だから、今更と言ってしまったのは本心なのだと思う。


「昔、シモンが抱いてくれていた夢は、私の夢でもあったからだ」


シモンの考えた衣装をまとって王位を継承する。

誰にも言ったことがなかったが、それはファウストも望んでいた未来だったのだ。


「今更だからこそ、できることもある。但し、シモンには側近に戻ってもらうつもりでいるから、これまで以上に忙しくなる。考えるのは、その合間を縫ってもらうしかない。採用されなければ、その時間は全てが無駄になって終わりだ」


「ちょっと待って。側近に戻るって、ヨシュアの世話役を降りるってこと?」


「ああ。すぐにとは言わないが、近い内に必ずな」


ヨシュアと親しくしているシモンなので、別れた後に忙しくしていれば、少しは気が紛れるだろうとの配慮を含めてファウストは提案していた。


「わかった。そのつもりでいるよ」


シモンがあっさり承諾したのには理由があった。

世話役なんて、ヨシュアにはいずれ必要なくなると当初から想定していたことであり、永遠の別れだなんて、まったく考えていなかったからだ。

健やかで片寄った思考をしないシモンには、妹至上主義のせいでファウストの中からスコンと抜け落ちている可能性に気付いていたので、ヨシュアが一人で実家に帰って、これっきりなどとは想像すらしてみる気にならない状況だった。


「シモン、引き受けてくれるか」


そう言ったファウストは、王ではない顔をしていた。


「炎のような赤もいいけど、綺麗な空色のグラデーションも捨てがたいな。でも、鮮やかで爽快な緑も意外と似合うかも」


戸惑っているファウストに、シモンはにっこりと笑い返した。


「喜んで引き受けるよ。最初で最後のわがままくらい、叶えてやれないと側近なんて名乗れなくなっちゃうからね」


シモンは久し振りに素顔の笑みが見られるかと思ったのだが、ファウストはきょとんとして言い返してくる。


「何を言っている。最初でもないし、最後でもないぞ」


「え?」


今度は、シモンの方がきょとんとしてしまった。


「私の最初のわがままは、戴冠したばかりの頃に叔母上にシモンに会いたいと洩らしてしまったことだ。それに、二十年、三十年、その先の記念式典も任せる予定だから最後でもない。私が元気な内に引退した暁には、実はあれらはシモンが考案した作品だったのだと言いふらして歩くのを楽しみにしているのだから、一度きりだと考えてもらっては困る」


やけに胸を張って主張してくるファウストに呆気にとらたシモンは、やがて肩を揺らして笑い出した。


「ファウストも、ずいぶんと王様らしくなったものだね」


「そうだろう。掴めるものは全部掴む。少なくとも、これくらいの無理を通せる力量はつけたつもりだ」


七年前、夢を奪われたシモンにあまりにもやりきれない切なさを感じさせた幼い少年は、いつの間にか頼もしい未来を自ら描けるようになっていた。

そして、側にいる者にも、明るい未来を見せてくれるまでに大きくなっていたのだ。


「父さんを認めさせるなら、相当頑張らないと厳しいな」


「これで駄目でした、なんてオチになったら、私の評価も下がるんだからな。しっかり頼むぞ」


「わかってるよ。なにせ、俺達の夢なんだからね」


期待するに足るシモンの了承に、ファウストは飾り気のない笑みを返した。


その夜、二人は遅くまで尽きることのない未来図を語り合っていた。

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