〈不穏な招待状〉
長旅から戻ってきた愛妹と久し振りの対面を果たしたというのに、ウェイデルンセン王のファウストは、すこぶる機嫌が悪かった。
なぜなら、ヨシュアと馬に相乗りをして帰ってきただけでなく、肝心のティアラが少しも淋しがってくれていない様が大きな衝撃だったからだ。
しかし、行方不明と聞いていたレスターがいつの間にか城にいて、くれぐれもヨシュアに当たるなと釘を刺されていたので色々と口にするのはやめておくしかなかった。
そういうわけで、たいてい一言二言は雑談していく役人達が、触らぬファウストに祟りなし、といった様子で用件を済ませるなりそそくさと退出していくばかりだ。
なので、忙しい時間帯の今現在も、執務室にはファウストの他はヘルマンしかいない。
「失礼します」
声だけで誰がやってきたのかを把握したファウストは、八つ当たりしてしまいそうな自分を押さえるために、顔を上げずに告げた。
「まだ時間がとれそうもないから、後で来てくれ」
「ごめん、その件じゃないんだ」
てっきり、ファウストが託した質問以外の報告はシモンに聞いてくれとヨシュアが丸投げした案件だと思ったのだが、違ったようだ。
否定されて初めて顔を上げると、予想通りにシモンが立っていた。
「何があった?」
シモンに笑顔がないので、余程の用件なのだろう。
「これ、見てくれる」
差し出されたのは立派な封筒だった。
開けられているので封蝋は欠けているが、大半が残っているので、どこから来たのかは容易にわかる。
「オーヴェの皇帝神の紋章だな」
中を見れば、帝位十周年記念式典の招待状が入っていた。
「もう、そんなになるか。どうしたものかな」
祝いの品の選定はもちろんだが、使者を立てるか、王自ら出向くかも決めなくてはならない。
どちらにしても、色々と根回しが必要になる。
「ファウスト、違うんだ」
「ん?」
誰が来るともわからない執務室にいるのにシモンが名前で呼ぶので、この招待状が、そこまで動揺させる代物だろうかと首を捻った。
「裏を見てみて」
言われるがままにひっくり返して、今度はシモンの動揺の原因を正しく理解した。
宛名には、スメラギ・ヨシュア様と記されていたのだから……。
第三部に続く