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オオカミ様のいうとおり【改訂版】  作者: よしてる
第二部 ワケあり少年、実家に帰る

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〈子羊の反逆〉 ほうれんそう

第二部、始まり始まり(^-^)/








「わたくし、実家に帰らせていただきたいと思います」


只今、とっても不本意ながら、ウェイデルンセン王国のお城でほぼ居候の身であるヨシュアは、駆けつけいきなりで世話になっている王様に、こう切り出した。


「本気か?」


「もちろんです」


宣言されたファウスト王は、バカを言うなと一蹴して終わらせたかったが、周囲の目を気にして躊躇った。


ヨシュアは人目をはばからず、城内で往来の多い通路を選んで直訴していた。

辺りには、成り行きを見守っている気配がひしひしと感じられる。

ファウストにとっては可愛い可愛い妹の、全く気に入らない憎たらしい婚約者と称するしかないワケあり少年だが、外面宜しく過ごしているようで、城内の評判は日々国民のために頭を悩ませている王様よりもかなり高い。

人前でへたな態度で接すれば、ファウストが悪く見られるだけでなく、巡り巡って妻や娘にまで非難される可能性が出てくる。

と、ここまでを瞬時に計算した王は、とりあえず場所を移すことにした。


「それで。どうして、今更、実家に帰りたいなどと言い出した」


ファウストは妻のエヴァンも遠慮するプライベートな書斎に連れ込み、ソファーに座って話の続きを促した。


「先日、私に荷物が届いたのはご存知ですよね」


「確か、お前の兄、ミカル殿からだったな。それがどうした」


「だからです」


さも当たり前のように言い切られても、ファウストには、ちんぷんかんぷんだ。


「そんなのでわかるか。最初から、きちんと説明しろ」


「どうしてわからないのかが、わかりません。荷物の中身を覚えていないのですか」


ヨシュアに関する郵便物を本人に渡す前に全て検閲しているのは、お互いに承知しているところだ。


「いつもの問題集だったではないか」


スメラギ家から毎月お小遣いを支給されているヨシュアは、代価として課題の提出を義務付けられている。


「違うと言えば、いつもより量が多かったくらいだろう」


「そう、それです! すっかり忘れていましたが、もうすぐ定期試験の時期なんです。受けなければ落第してしまいます」


「ああ。ヨシュアは、まだ学生だったな。いっそのこと、これを機会に退学したらどうだ」


「ありえない。そんな最悪、考えられるわけがないでしょう! 俺が、共学の苦痛にどれだけ耐えたと思ってるんですか。それもこれも、全ては卒業証書を受け取るためなんですよ!!」


ファウストは、知るかと放り出したかった。

しかし、切って捨てる話題にしては、ヨシュアの眼差しが真剣すぎる。


「卒業できたら、何かあるのか?」


「もちろんです。うちの学校はシンドリーの国立で、好成績で卒業すれば就職先に困りません」


「……」


力説の割りに、大した理由じゃなかった。


「お前は永久就職が決まっている身だ。そんな心配は不要だろう」


「本人に確認してから言ってください。第一、あの苦痛の日々を無駄にしろだなんて、どうして、この俺に言えるんですか!」


ヨシュアは、どんっとテーブルを叩いて強く主張してきた。

話を総合すれば、最後の理由が最大なのだろうとファウストは見当がつく。

時には悲鳴を上げて錯乱するほど女嫌いなヨシュアだ。

身元を引き受けているからには、当然、苦労していたという状況も耳にしていた。


「それで、試験はいつなんだ」


「確か、九月の中頃だったと思います。詳しくは、確認次第お知らせします」


ヨシュアが答えると、ファウストは口元に手をあてて考え込んでしまった。


「どうかしましたか」


「ああ、ちょうど半年だと思ってな」


「は?」


「いや、なんでもない。帰省の許可は出してやる。日程の予定を提出しろ」


「はい、ありがとうございます」


思っていたより、あっさりと許可をもらえたヨシュアは拍子抜けしながらも、ファウストの気が変わらない内に予定を立ててしまおうと切り替える。

そそくさと自室に戻るつもりで挨拶すると、王に引き止められた。


「言っておくが、各方面への報告は自分でしろよ」


「わかりました」


返事をしてみたものの、最後の言いつけには首を捻りながら書斎を後にした。


「報告ったって、シモンには相談してあるし、他は……」


口に出して考えて、誰のことを示唆しているか思い当たった。

婚約者であるティアラの存在に。


婚約者と言っても、背後に利益ありきの契約関係で、当人同士はお互いに全くその気がないという繋がりだ。

何より、ヨシュアは大の女嫌いだった。

それでも、この頑なで歪んだ性格をどうにかしたいと考えているので、リハビリ気分で婚約を続行しているにすぎない。


とまあ、それはあくまでヨシュアの言い分で、実際には国家機密である狼の守護神・カミの存在を知ってしまったが故に強制的に婚約者として縛られているだけの話だった。


「方面ってことは、カミも含まれてるんだろうな」


ヨシュアは見上げるほど大きな獣姿を思い出して、深ーくため息をついた。


「あ、ヨシュア」


どう報告しようか考えていた頭を上げれば、前方からティアラが駆け寄ってくるところだった。


「シモンに、ヨシュアから話があるかもって聞いたから、気になって探しちゃった」


「急ぎじゃないけど、まあいいや。いつもの部屋に行こう」


「だと思って、エヴァンがくれたお菓子を用意してもらってるんだ」


甘い物が嫌いでないヨシュアは、喜んでティアラと並んで歩き出した。


大の女嫌いだと自ら宣言しているヨシュアだが、ここウェイデルンセン王国で三人の例外ができている。

一人は、ファウスト王の后であるエヴァン。

優しくて少し天然なところのある彼女は、母親そのものの安心感とおおらかさを持っている。

その娘のリオンは、まだ小さい赤ん坊なので、平気かどうかは今のところ保留にしている。

もう一人は、ファウストとティアラの叔母にあたるレスターだ。

交易の要所であるオアシスを取り仕切る女王気質の恐ろしい人だ。

誰に対しても遠慮と容赦がないので、女性という枠組みからはみ出て、変に意識をしないでいられる人物だ。

そして、最後の一人がティアラなのだが、こちらは微妙で特殊な位置にいる。

前者の大人な二人に比べて、二つ年下なだけのティアラは、全く警戒しないでいられるわけではない。

それでも、二人でいる時の口調は自然と素になるし、喋っているのも苦痛ではなくなっている。

ただし、ヨシュアが望む適度な距離をティアラが律儀に保っているからであり、その感覚が少しでもヨシュア側に近寄れば、即座に鉄壁を築く用意がある不安定な関係だ。


そんな、もどかしい二人を応援しているレスターは、王族専用棟に面会用の一室を整えてやっていた。

ファウスト王の耳を除外し、仕える者は全員レスター直属の男性のみで揃えている。


「よかった、上手く会えたみたいだね」


部屋に入ると、王の側近で、現在はヨシュアの世話を担当してくれているシモンが出迎えてくれた。


「ティアラには何も言ってないから、最初から説明してあげてよ」


親しい人間には旺盛な接待精神で隠し事のできないシモンだが、最近では、ヨシュアから直接ティアラに話させようと頑張って黙っている努力をしている。


「いいけど、大した話じゃないからな」


ヨシュアは前置きをした上で、学校の試験を受けにシンドリーに帰郷するため、一時、暇をもらうのだと簡単に説明した。


「それって、いつなの?」


質問されて、それもあっさり答えた。

対して、ティアラは妙に不満げだ。


「じゃあ、ヨシュアは誕生日、ウェイデルンセンにいないのね」


甲斐甲斐しく給仕をしていたシモンが、はたと手を止めた。


「あれ、ヨシュアの誕生日って秋だっけ」


ヨシュア本人も、指摘されて初めて、自分の誕生日の存在を思い出した。


「九月十八日……って、そうか。それがあったか」


「シンドリーは、誕生日を盛大に祝う習慣があるんだよね」


シモンの言い方に、文化の違いが垣間見える。


「そういうウェイデルンセンは、誕生会しないの?」


「子どもが成人するまでは、ささやかだけどするよ。でも、成人した後は、あんまり祝う習慣はないかな。ごめん、うっかりしてたよ。まあ、ファウストは、いくつになってもティアラのお祝いをしたがってるけどね」


「ずいぶん馴染んだ気がしてたけど、まだまだ、知らないことがあるもんだな。シンドリーじゃ、いくつになってもパーティ開いてバカ騒ぎだよ」


「じゃあ、その辺りも見越して日程を組んだ方がよさそうかな」


「今年じゃなきゃ、無視しても構わないんだけどな」


「ああ、そうか。ヨシュアは、今年が成人なんだよね」


「ウェイデルンセンの十三歳って早すぎない?」


「うーん、大昔からの伝統だからな。さすがに、今だと成人したって言っても、研修生として学校に通っている学生がほとんどだよ」


文化の違いを面白く感じながら、ヨシュアは香ばしい焼菓子をぱくついた。


「そういうわけで、ティアラ、俺はしばらく勉強に専念したいから協力してくれよな」


ヨシュアは、ちまちまと紅茶を飲んでいるティアラに協力という名の邪魔をするな宣言で釘を刺しておいた。


「シンドリー土産で要望があるなら聞くつもりがあるから、考えておけよ」


「うん……」


ただ放置するのは悪いと思って、ヨシュアにしては親切に土産の提案までしたのだが、ティアラはいい顔をしなかった。


「シモン。悪いんだけど、ウェイデルンセンのお土産選び、手伝ってもらっていい?」


機嫌を宥めるのが面倒なヨシュアは、話を逸らして終りにした。


「たぶん、ファウストからも手土産を持たせるよう言われると思うから、合わせて考えないとだね」


「ってことは、大荷物になりそうだな。早めに移動した方がいいかな」


頭の中で日程を組みながら、ヨシュアの気持ちは、すっかりシンドリーに向いていた。

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