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オオカミ様のいうとおり【改訂版】  作者: よしてる
第一部 ワケあり少年、婿に出される
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〈子羊の千客万来〉 仲違いと仲直り




   * * *



アベルとエルマの滞在三日目。

ウェイデルンセンの伝統と歴史が深い場所を見学予定していた。

レスターが案内をしてくれるので、ほとんど気楽な観光気分だ。

当然、ヨシュアも誘われて参加しているが、むっすりした態度を貫いている。

見学先なら他者がいるので笑顔も浮かべていられるのに、移動となれば面白くない顔でだんまりなので、尚更、不機嫌さが強調された。


「ヨシュア、いい加減にしたらどうだ」


アベルが見かねて注意をしても、益々眉間にしわが寄るだけ。


「この状況で、どうして、へらへら笑ってられるんだよ」


ヨシュアが睨みつけた先には、ぴったりと寄り添い、いちゃついているエルマとティアラがいた。


「どっちも楽しそうだな。気が合ったんだろ」


「だからって、俺を無視するとかなくない!?」


「なら、直接エルマに言えよ」


「そう……だけど」


アベルは、ため息をついた。

昔からヨシュアはエルマに怒られると弱気になる。

そして、いつも最後はエルマの方から歩み寄って和解するのを繰り返してきた。

だから、滞在期間が短いのに仲違いするエルマは、アベルからしても理解できなかった。


「どうしたものかな」


アベルが再びため息をついた頃、一行は城下町を見下ろせる公園に辿り着いていた。

レスターはアベルとエルマを手招きし、眼下に広がる町並みや見える範囲の地形と風土の解説を始めた。

ヨシュアはと言えば、離れたベンチから情けなく眺めるしかなかった。


「俺が、何したって言うんだよ」


思わずつぶやくと、エルマに腕組みべったりなティアラが不意に振り返った。

ドキっとしたものの、すぐに苛立ちに変わる。

ティアラは、いーっと、思いっきりしかめ面を投げて寄こしたからだ。

それが妙に気に障り、ヨシュアは我慢の限界に達した。


すくっと立ち上がると、一直線にティアラに向かって歩きだし、腕の届かないぎりぎりの距離でぴたりと止まる。

向かってくるなんて考えてなかったティアラは、目を丸くした。

何を言われるかのと息を止めて待ち構えていると、ヨシュアは微妙に向きを変えて、ティアラがずっと組んでいる腕を下から上に手刀で叩き裂いた。

そして、空いたエルマの腕を掴んで歩き出す。

あまりに唐突な行動に誰もがヨシュアのすることを見守るしかなく、姿が見えなくなった頃になって、レスターが呆れたままつぶやいた。


「ヨシュアでも、やきもちを焼いたりするんだね」


一方、連れてかれたエルマは、いつまでも呆然としていなかった。

みんなの姿が見えなくなった頃を見計らって、腕を振って掴まれた手を切り離した。


「連れてくる相手を間違ってるんじゃないのか? ヨシュアは、もっとティアラと話し合うべきだ」


毅然とした態度をとったが、ヨシュアも負けじと言い返す。


「そんなのわかってる。でも、俺は間違えてないからな。どう考えたって、今はエルマと話す方が重要だ」


言い募るヨシュアは真剣で、エルマの方がたじろいでしまった。


「エルマ達は明日帰るんだろう。なのに、どうしてだよ。会えて、本当に嬉しかったのに。……勝手に黙っていなくなったから、俺なんかもう、どうでもよくなったのか」


子犬のような目で見つめてくるヨシュアに、エルマは、ついついほだされたくなった。


「そんなんじゃないよ。僕がヨシュアをどうでもいいなんて、思うはずがないだろ」


「だったら……」


「だからこそだよ」


ヨシュアは怪訝に見返した。


「僕は、ヨシュアに幸せになってもらいたい。だから、ティアラと仲よくしてほしいんだ」


「そう言ってくれるのは嬉しいけど、結婚するだけが幸せじゃない。エルマだってそうだろ」


「あのさ、ヨシュア。ヨシュアは、過剰に女嫌いな自分が好きじゃないよね」


「それは……」


ヨシュアは言い訳をさせてもらえなかった。


「だから、身なりを誤魔化しても、女だってわかりきってる僕を突き放したりなんかしなかった。本来のヨシュアは、そういう優しさをしっかり持ってるんだ。そんなヨシュアが望んで結婚できたら、絶対幸せな家庭になるって決まってる」


「……だからって、ティアラが相手じゃなくたっていいだろ」


「へえ、そんなこと言うんだ」


目を細めたエルマが、やけに冷ややかな視線を送りつけてくる。


「これまで散々な目に遭ってきたヨシュアに下心がないと確信させて、尚且つ、卑しいと思わせないでいられる浮世離れした女の子がお姫様以外にいると思う? 女性不信で態度が悪くて面倒臭い性格のヨシュアに対して、まともに相手をしてくれる心の広いお姫様が、そこらにごろごろしてると思うの?」


「う゛……」


言葉を詰まらせるヨシュアに、エルマの方がため息をついてしまった。


「別に、無理に好きになれとか言わないよ。ただ、そういう可能性を考えるくらいはしてみろって言ってるの」


諭されたヨシュアは面白いほど、しゅんとしていた。


「可能性を考えるのは、正直難しい。けど、話し合いが必要だとは思ってる」


「なんだ、少しは成長してるのか」


気付いたのは昨日の話だったが、そこは、なけなしの自尊心で黙っておく。


「だから、エルマは余計な気を回さなくていいんだよ」


「でも、ティアラを怒らせた理由はわかってないんだろ」


「う゛っ……」


「余計なお世話だろうけど、教えてあげるよ」


そうして、エルマは妙な話を始めた。


「実は僕さ、ウェイデルンセンまでの道中で事故に巻き込まれたんだ」


「え!? ちょっ、大丈夫だったのか? アベルは何も言ってなかったぞ。どうして、早く教えてくれないんだよ!」


「見ての通り、無事だ。平気なんだから、教える必要もないと思って。こうしてぴんぴんしてるんだから、ヨシュアが心配なんておかしいだろ」


突拍子もない調子に面食らったヨシュアは、戸惑いながらも既視感を覚えた。

それが何かを思い出して、エルマが伝えたかった意味をきちんと理解した。


「あいつとは、エルマみたいな関係じゃない」


理解はしたけど、騙された気分のヨシュアはぶすっとしている。


「相手が男なら、関係ない人に心配してもらっても、感謝の言葉くらいは出てくるだろう」


ヨシュアは顔を背けて答えなかった。

答えなかったが、反省はしていた。


「まあ、お姫様と一緒になって怒ってたのは悪かったよ。僕だって、貴重な時間を仲違いしたままは嫌だからね」


エルマの謝罪を合図に、お決まりのこぶしのぶつけ合いで和解した。



   * * *



アベルとエルマの滞在四日目。

二人は朝の内にウェイデルンセンを出立する予定になっていて、ティアラとシモンが見送りに、城門まで付き合ってくれていた。

商会として仕入れた荷物は後から別便で配送のため、アベルもエルマも身軽だ。

そして、ヨシュアもまた、身軽な旅支度をして見送られる側にいた。

興味があるなら、オアシスまで同行しないかとレスターに誘ってもらったからだ。

もちろん、ティアラも承知しているはずなのに、さっきから物問いたげな気配をヨシュアは感じている。

どうしたものかと思っていると、横からエルマにつつかれた。

それで、仕方なしにティアラに足を向けてみる。


「……」


「……」


近寄ってみたところで、何も浮かばないヨシュアは突っ立っているしかなく、ティアラも黙って見つめてくるだけだ。


「えっと、アベルとエルマを送ってくるから」


散々ためらった挙げ句に出てきたのは、既に知っている意味のない報告だった。

それでも、ティアラは少しだけ気が収まった。

必要もないのに、わざわざ声をかけてくれた行為が貴重だったから。


「いってらっしゃい」


ぽつりと返すと、ふいと翻り、エルマとの別れを惜しみに向かった。

うるさいことにならなかっただけ安堵したヨシュアは、帰ったら、今度こそぬいぐるみを渡そうと決意した。


こうして、一行は各々で騎乗し、一気にウェイデルンセンの端まで駆け抜け、ウェイデルンセンとボミートの国境で一泊とする。


「あー、体だるい、尻が痛い」


「ヨシュア、優雅なお城暮らしで鈍ったんじゃないのか。これじゃあ、先々、色んな意味で心配になってくるな」


同室のアベルが疲労困憊のヨシュアに情けないと呆れていた。


「大丈夫だよ。帰ったら鍛えるから」


「……へえ」


「なんだよ」


「帰ったら、ね。すっかりウェイデルンセンに馴染んでるなと思って」


「あそこしか居場所がないからだよ」


それ以上、何も言われたくなかったヨシュアは、足を揉んで疲労を緩和させていた手を放棄して、さっさと布団に潜り込んで話を終わらせたのだった。



幼馴染みの三人の関係は、考えてて楽しいです♪

ヨシュアも、ちょっと違う顔になります(´ω`)

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